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川の向こう側とこちら側

川の向こう側は僕の知らない場所。
子供の頃、いつも友達とこちら側から向こう側を見て考えていました。


「向こう側に行ってみたいよな」


川の向こう側は隣町で学区も違う。
何故か子供同士でこの川を勝手に超えてはいけないとされていました。
今考えれば不思議なルールだったのですが、周りの友達は当たり前のようにこのルールを守っていました。男の子も女の子も、勿論、不良グループだって守っていたのです。中学校を卒業するまでは。


高校生になって川の向こうの友人ができた。
その時に初めて知ったのですが、川の向こうの子供たちもまた、子供同士でこの川を越えてはいけないルールがあったようです。だから、だれもこちら側にはやってこない。


でも、僕は定期的にこの川を渡る機会があった。
大好きだった叔父が住んでいたからね。勿論、1人では渡れないから、いつも御袋と一緒に川を越えた。橋を越えるときはドキドキしたのを思い出します。まるで国境を超えるときみたいに、子猫のように縮こまって越えました。


ドキドキ、、、


中学を卒業して10年くらい経った頃、僕の実家が川の向こう側へ引っ越すことになりました。何だか外国へ引っ越すみたいな感じだったな。今度は元いた場所が川の向こう側になってしまったから。


川の向こう側へ引っ越して、向こう側の住人になった。
話す方言も、食べる食材だって前と同じ。何も変わらなかった。


川の向こうとこちら側をつないていた列車もいつの間にか廃線となり、今では橋桁の跡しか残っていない。向こうとこちらをつなぐのは1日に数本しかない路線バスのみ。もともと盛んに交流があったわけでは無いけど、何となく寂しく感じてしまうのです。


息子と2人で釣りに出かけることがある。
子供の時に見ていた川の向こう側から釣り糸を垂れている。
元住んでいた景色ってこんな感じなのか。あれから40年以上経っていますが、当時とほとんど景色は変わっていません。


友人と遊んだ土手が見える。
木の上に作った基地はもう無いけど、でっかい木は未だにでっかいままだ。
見覚えのある赤い屋根。あそこのオヤジにひどく叱られたっけ。


太陽の光がキラキラと反射している。
子供の頃見たキラキラした川面はもっぱら午前中の記憶。
今、こちら側で感じるキラキラした優しい川面は、夕方の印象が強い。


何も変わらないのに、何かが違う。
なるほど、昔感じた国境の川は、僕にとって未だに国境の川なんだ。


随分と遠回りをしてきたな。
外国の国境の川も何度も渡ったし、多くの友人だってできました。
川って不思議な存在なんです。僕にとっては特別な存在なんです。


あの頃一緒に土手を歩いた親父も、今はもういない。
親父も川の向こうへ去ってしまったんだね。


最後まで読み進めて頂きありがとうございました。
最後の秋を満喫しましょう。🍁


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