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弱者が強者に勝つ方法「ランチェスター戦略」の成功事例3選

ランチェスター戦略の基本法則

ランチェスターの戦略とは、イギリスの航空学者、フレデリック・W・ランチェスターが提唱した「戦闘の法則」。

軍隊の戦闘力を武器の性能(武器効率)と兵力数で数式化する理論で、もともとは戦時中に軍事目的で研究・活用され、現在はマーケティング戦略の理論として活用されている。

ランチェスターの法則には二つの基本法則がある。

第一法則
原始的な戦いに適用する法則。すなわち、原始的な武器を用いた一騎打ち、局地戦、接近戦における戦闘力はこのように算出される。

戦闘力=武器効率×兵力数

つまり、兵力数が同じなら武器の性能が高い方が勝ち、武器の性能が同じなら兵士の数が多い方が勝つということだ。


第二法則
近代的な戦いに適用する法則。銃や戦闘機などを用いた広域戦や遠隔戦における戦闘力はこのように算出される。

戦闘力=武器効率×兵力数の2乗

簡単に言えば、近代的な戦いにおいては兵力数が2乗のインパクトをもたらし、戦闘の勝敗を大きく左右するということ。

この法則を営業戦略に当てはめると、このようになる。

営業力=質的経営資源×量的経営資源

質的経営資源とは、商品力・ブランド力・開発力などを指す。

量的経営資源とは、社員数・拠点数・売り場面積などを指す。

そして、大きな市場での戦いや全リソースを投入する総力戦においては、第二法則が働いて量的経営資源が2乗の力を発揮すると考えられる。
 

ランチェスターの法則の大きな価値は、強者の戦い方と弱者の戦い方を導き出したこと、とりわけ弱者(中小企業)が強者(大企業)と戦うときの戦略を示したことだろう。


ランチェスター戦略の5大戦略

弱者は第二法則が働く戦いで勝つことは困難なため、原則として第一法則の戦いに持ち込むことが重要だ。

これは、弱者の5大戦略として知られている。

(1)局地戦=ニッチ市場を狙う
(2)接近戦=顧客に接近する、顧客に直接会う
(3)一騎打ち戦=競合の少ない市場を狙う
(4)一点集中=ターゲットを絞る
(5)陽動作戦=奇襲を仕掛ける、手の内を読まれないようにする
 

大企業が目もくれないようなニッチ市場を開拓する、地域やターゲットを極限まで絞り込む、特定の分野に全リソースを注ぎ込む、といった戦略が考えられるだろう。

この時忘れてはならないのは、武器効率(質的経営資源)だ。

強者の武器効率と差別化できないと、兵力の勝負に持ち込まれてしまう。局地戦においては商品やサービスの優位性・独自性を持つことが重要なのだ。

では実際に2つの成功事例から学んでみよう。


静岡で「げんこつハンバーグ」という唯一無二の市場を創出

静岡県西部を中心に静岡県内で約30店舗を展開するハンバーグレストラン「炭火焼きレストランさわやか」は、全国的な知名度を誇る地域特化型の外食チェーンだ。

看板メニュー「げんこつハンバーグ」は、丸い俵型で中まで火が通っていない状態で提供され、店員が目の前で半分にカットし、熱々の鉄板に押しつけて焼き上げてくれる。


「さわやか」の強みは、料理のおいしさや見た目の楽しさはもちろんのこと、そのシンプルなメニューにある。

同店のメニューはレストランなのに品数が極端に少なく、利用客のほとんどが「げんこつハンバーグ」を注文する。

もともと創業時は喫茶店だった「さわやか」だが、オリジナルメニューの「げんこつハンバーグ」が好評だったため、レストランに業務形態を変更した。

ハンバーグ専門店にフォーカスしたこと、いや、もっと言えば、「げんこつハンバーグ専門店」という独自市場を作ったことで、さわやかは唯一無二の存在となったのである。
 

「地元でしか食べれないあの味」にファンが熱狂

もう一つ、地域の絞り込みも重要な戦略である。

さわやかの出店地域は静岡県内のみ。理由は、静岡県内の工場で加工した肉をその日のうちに全店舗に届けることで新鮮な肉のおいしさを味わってもらうため。

だが、それが結果的にここでしか食べられないという“限定感”を演出した。
 

さわやかは静岡県出身の芸能人による熱烈なイチオシ、さらに静岡出身のさわやかファンによるSNSでの口コミによって、一気に知名度が全国へと広がっていった。
 

今や、静岡のソウルフードとして定着し、地元県民だけでなく遠方からわざわざ足を運ぶ客も多い。

商品や地域を絞り込み、そこに全力を注いだことで熱烈なファンを獲得し、地方外食チェーンながら大きな成功を収めた。

さわやかは、まさにランチェスター戦略のお手本のような存在である。


本業の領域を超えた地域ファーストのサービスで黒字化

スーパーマーケットの市場は価格競争が発生しやすく、特にローカル食品スーパーは規模の経済を携えた大手の進出によって、あっけなく潰れてしまうケースも多い。

山梨県のローカルスーパーマーケット「やまと」も、かつては価格競争に巻き込まれて疲弊し、赤字で経営危機に陥っていた。

そこで立ち上がったのが、新たに社長に就任した小林久氏。

弱者の戦略として最初に取り組んだのが、ターゲット層の差別化である。当時、大手が30代ファミリー層をターゲットにしていたのに対し、同スーパーは中高年だけにフォーカスし、品揃えはもちろん、棚の高さなどもターゲットに合わせて変更した。

さらに、彼は地域のために本業以外のサービスをどんどん充実させていく。

たとえば、店頭に生ごみを堆肥にする処理機を設置し、無料どころかポイントを加算して積極的に生ごみを引き取る。

スクールバスを改造して高齢者向けに移動式スーパーを用意する。

ホームレスや障がい者を従業員として採用する。

など、他の大手スーパーがやらないことでも、地域に価値のあることだと思えば積極的に採用していった

こうした活動は地元メディアをはじめとする各媒体で大きく取り上げられ、やまとは地域土着のスーパーとして地元の人たちに愛されるようになる。

特に小林氏は様々な講演に呼ばれるようになり、ついには山梨県の教育委員長を頼まれるほどの人気を誇った。経営も年々回復していき、黒字経営へと転化したのだ。
 

ただ、このサクセスストーリーには後日談がある。世間の評価はますます高まる一方で、近郊には巨大なショッピングモールが次々と開店して、本業のスーパー事業はなかなか利益増が出せなかった。

すると、問屋業者のあいだで「やまとの成績が芳しくない」という噂が流れ、商品の納品を渋ったり、前金を要求したり、資金繰り表の送信まで求めてくる問屋もあった。こうしたペナルティは、わずかな利益で日々資金繰りに知恵を巡らせている同社にとって致命傷であった。

そして2017年、やまとは突然倒産する。誰にも真似できないことを徹底し、地域からも愛されるなど、差別化戦略には成功していた。実際、閉店したときは住民から行政に対して多くのクレームが寄せられたという。

弱者の戦略で消費者の心を掴んだとしても、それが必ずしも大きな利益につながるとは限らない。

そして、強者がひしめく業界から独自の路線で孤立することが、思わぬリスクを招く場合があることもこの事例は示してくれている。


日常生活で買い物に不便を感じている人向けの「近くて便利なお店」

 
今や誰もが知っている「セブンイレブン」。

実は創業当時、同社はスーパーマーケットを主軸とした事業を展開していた。

現在のコンビニエンスストア事業を積極的に展開し始めたのは、創業から少し遅れてのことである。
 
 
セブンイレブンのコンビニエンスストア事業は、時代の流れとともに変化する顧客のニーズに合わせて進められていく。

彼らがターゲットに選んだのは「日常生活の中で買い物に不便を感じている人」。そのニーズを果たすべく、「近くて便利なお店」をコンセプトに事業を展開したのだ。


特定地域に集中して店舗を増やす「一点突破」作戦

しかし、今でこそ全国区のセブンイレブンも、一斉に全国展開されたわけではない。

地域ごとに徐々に進出し、コンビニエンスストア業界で圧倒的なシェアを誇るまでに成長を遂げたのである。
 
 
そして、セブンイレブンが新しい地域に出店する際に用いられたのが、まさしくランチェスター戦略なのだ。

彼らは、常に「一点突破」作戦を利用した。

店舗を増やすにあたって攻める地域を絞り込み、集中的に出店することで急速な認知度アップを画策。

しかも、最初にターゲットとなる地域の周辺地域を取り囲むように出店するため、中心部に進出するころには、その地域の顧客が出店を「熱望」している状態になるのだ。


ローソン一強の牙城を崩した、大阪での集中出店

分かりやすい例がある。

1996年にセブンイレブンが大阪進出を開始したとき、大阪のコンビニエンスストア業界では、すでにローソンが店舗数、利用者数ともにトップの地位を築いていた。

そんな状況の地域への進出にセブンイレブンが取った戦略が、地域内に連続で密度の高い出店を続けるというものだった。

街中で急に目にすることが多くなったセブンイレブンには顧客の関心が集まり、その密度の高さによって目新しさより親近感が上回るまでそう時間はかからない。

大阪の場合、出店数が300店舗に達したあたりから、急激に集客力が伸びたと言う。
 
 
結果的に、セブンイレブンは関西地域でもナンバーワンのシェア率を誇るようになった。

セブンイレブンには、商品開発力やデリバリー体制などの強みもある。

しかし現在の姿があるのは、それらの強みを活かした徹底的な地域戦略が功を奏したからなのだ。

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