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レクサスがアメリカ高級車市場で成功した理由を、STPマーケティングで解説

トヨタ自動車が6/10にアメリカでお披露目予定だった新型「レクサスIS」の発表を延期しました。理由は「世界情勢に鑑みて」とのことですが、日経新聞は「米国で白人警官による黒人暴行死事件を受けた抗議デモが拡大するなか、華々しく新型車を発表することはブランドを毀損しかねないと判断したとみられる」と延期の理由を考察しています。

世界中で波紋が広がっている黒人暴行死事件の影響は、こういった形で企業・メーカーにも及んでいるようです。


レクサスといえば、トヨタが北米で高級車ブランドとして市場参入し、その後日本にも展開した、いわば逆輸入のような珍しいブランドです。

当時、アメリカでは日本車といえば大衆車のイメージが強く、トヨタも同じ括りで見られていました。その前提を覆してトヨタのレクサスは高級車市場への参入に見事成功したため、彼らのマーケティング活動はある種の伝説として語り継がれています

今回はレクサスの成功の道のりを、STPマーケティングというフレームワークで読み解きたいと思います。


STPマーケティングとは?

STPは、競争優位性を生み出す3要素であるセグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の頭文字です。

セグメンテーションは、市場を細分化すること。ターゲティングは、ターゲットとなる市場や層を絞り込むこと。ポジショニングは市場における自分たちのポジションを明確化すること

STPマーケティングは、特に新規事業や新しいブランドを立ち上げる際に、参入すべき市場やターゲットの具体的な絞り込み、自社の独自性や競争優位性を発見するためのフレームワークとして活用されています。


高所得者が増加しつつあったベビーブーマー世代にフォーカス

1989年に日本製の高級車としてアメリカで売り出したトヨタ自動車のレクサス。「壊れにくいが安い大衆車」という日本車のイメージを塗り替え、初代LSから大ヒットしました。レクサスの成功は、大衆車メーカーが高級車市場に参入するモデルケースとして今なお語り継がれています。

レクサスはどうやってアメリカ高級車市場に参入したのでしょうか。STPマーケティングで読み解くと、その成功プロセスが明らかになります。

まずセグメンテーションでは、市場調査とターゲット分析を行い、消費者の世代や住んでいる地域、収入、価値観などの要素で細かく市場を切り分けていくことから始めます。ざっくり言えば、ベビーブーマー/ビートジェネレーション(世代)、西海岸/東海岸(地域)、高所得者/低所得者(収入)といった具合です(実際はもっと具体的に細かくセグメンテーションを行ったのではないかと思いますが)。市場の細分化ができたらセグメンテーションは完了です。

セグメンテーションができあがったら、次はレクサスがどのセグメントを狙うのかを決めるターゲティングを行います。当時アメリカの高級車市場を独占していたのは、リンカーンやベンツ。重厚で風格のあるデザインで、いわば成功を象徴するような車が好まれていました。メインターゲットも50〜60代以上と年齢は高めです。

一方、戦後生まれのベビーブーマー世代にも高所得者層が徐々に増えつつあり、高級車への潜在的なニーズは高まっていました

彼らベビーブーマー世代は伝統的な価値観にとらわれず、機能や合理性を重視した消費行動を行う傾向にあります。特に権威主義的なものや自己顕示欲を誇示することを好まない人が多いため、従来の高級車は彼らの価値観にマッチするものではありませんでした

そこに目をつけたレクサスは、ベビーブーマー世代の富裕層にターゲティング。地域で言えば西海岸的なライフスタイルを送る人たちが乗りたくなるような車を作ることにする。


「カジュアルな高級車」で高級車市場の未開拓地にポジショニング

最後にポジショニング。伝統的で格式の高いリンカーンとベンツのポジションに対し、レクサスのポジションは先進的でカジュアルな高級車。もっと言えば、「ショートパンツでも気軽に乗れる機能的な高級車」というポジションを目指したのです。

このレクサスのブランドイメージ醸成に大きく貢献したのは広告でした。テレビCMでは、ボンネットの上にシャンパンタワーを作った状態で、145mphに達してもシャンパンが一滴もこぼれない映像を公開。クールで機能性の高いイメージはベビーブーマー世代の心を鷲掴みにしました。

もう一つ、ベビーブーマー世代が憧れる人たちがレクサスを支持したことも成功を後押ししたようです。

レクサスを気に入ったのは、ビル・ゲイツスティーブン・スピルバーグといった、まさにベビーブーマー世代、しかも西海岸的なライフスタイルを象徴する著名人。レクサスが狙ったターゲットに見事ヒットしたのです。

同世代の富裕層、さらに女性の富裕層たちがフォロワーになったことも、発売初年度から大成功を収めた大きな要因でしょう。

このように、STPマーケティングは自分たちが参入すべき市場を整理する際に、とても便利なフレームワークです。「ショートパンツでも気軽に乗れる機能的な高級車」とだけ聞くとクリエイティブで奇抜なアイデアに感じるかもしれませんが、STPマーケティングで紐解くと、確かに!と頷けてしまいます。

新商品や新サービスを企画する際は、ぜひこのフレームワークを使ってみてください!

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