見出し画像

【ショートショート】諦める人

彼は自分自身にあだ名を付けていた。
「未来人」と。

彼は未来予測が得意で、今まで予測したことがピタリと当たってきた。だから自分のあだ名を「未来人」と勝手に呼んでいた。

当然ながら、これを他人に言えばバカにされるか一蹴されるか、あまり良い反応が返ってこないのが事実なので、彼は自分自身に付けたあだ名を誰かに言いふらすことはしてない。

ある時、彼はいつも見ているニュースサイトに驚くべき漫画アプリが登場したのを知った。その漫画アプリは今までの漫画アプリとは異なった、革命的な漫画アプリで、尚且つ誰でも投稿できることに魅力を感じた。

彼は漫画を描くことが得意…という訳ではなかったが、この漫画アプリがめちゃくちゃ成功して、今のうちに積極的に投稿すれば大物になれるに違いないと予感して、せっせと漫画を投稿していった。

ある時、彼の友人である「A君」も、その漫画アプリに積極的に投稿しているのを知った。A君は絵が下手くそで、話もちんぷんかんぷん。正直、漫画の才能があるようには見えなかった。それでも熱量はすごく、1日の半分以上は漫画を描くことに費やしていた。

そんな時、彼は、漫画アプリで賞を受賞した。彼はA君よりも早く漫画アプリ内で結果を出し、そして大物になるチャンスを掴み出したのだ。

A君も負けじとせっせと漫画を描き続けた。今まで以上に、何時間も何時間も、いくつもいくつも漫画を描き続けた。そしてようやく、彼が賞を受賞して2、3年後に、彼より低い賞に受賞した。

A君は嬉しかった。さらに高みに登ろうと一心不乱に努力した。そんな時、彼はどうしていたのかというと…

彼は、この漫画アプリに見切りをつけていた。最近は海外の動画アプリをチェックし、とある動画アプリが物凄く成長力を発揮して、日本でも爆発的に成長する予感がしたのだ。彼はせっせと動画を作り、その波に乗ることができた。

しかし、次はとある小説アプリに目をつけた。動画アプリに見切りをつけ、せっせと小説を書くことに。彼は小説アプリの波に乗ることにも成功した。

さらに別の画像アプリに目をつけた。彼は小説アプリに見切りをつけ、せっせと写真を撮り、画像を制作していった。彼は画像アプリの波に乗ることができた。

そんな時、彼は以前注目した漫画アプリが急成長して、その運営会社が上場することを知った。彼は画像アプリに見切りをつけ、久しぶりに漫画アプリに手を出すことに。

そんな時、漫画アプリのトップで、一番人気の漫画が目についた。その漫画はアニメ化も、映画化も決まっていた。

その漫画の作者は、A君だった。

彼が動画アプリ、小説アプリ、画像アプリに手を出している時にも、A君はひたすら漫画を描き、目の前のことに取り組んでいた。何日も何日も漫画を描き続け、そしていつの間にか、誰もが知っている漫画を生み出すようになっていた。

彼も、もちろん凄い。
未来を予測し、そして各々のアプリで結果を出してきたのだから。

しかし、彼のやってきたことと、A君がやってきたことを比べてみると、どちらが凄いのかは…わざわざ測るまでもない。

サポート頂けると嬉しいです!何卒!!