娘の中の『無限』
3歳になる娘は最近ぬりえで良く遊んでいる。
最近のとある夜も「デリシャスパーティー♡プリキュア」塗り絵に向かって色えんぴつを走らせていた。
娘は、
「ここまだ白いなぁ!」
「プレシャスちゃんのリボンやから、ピンク!」
「ここは何いろ? おとうちゃんゆって!」
とかおしゃべりしながらぐりぐりと色塗りして楽しそう。
ひとつのページを塗り終えて次へめくると、白いお絵描き用ページだった。
「セーラームーン描く!」
と娘が言う。
ぼくは「えっ!?」と思った。
いつもなら「おとうちゃん、描いて!」と言う場面だけど娘が「描く!」という。
ほんとに描けるのかなぁ、と思いつつ見ていると、娘はピンクの色えんぴつをぎゅっと握って、逡巡なく丸をいくつか描いていく。
「これはおめめ! これはぽんぱくと!」
そしてビューっと線を引いて、
「髪の毛ながいからな!」
また線を引いて、
「セーラームーン、あし長いからな!」
とどんどん描いてゆく。
そしてあっという間にセーラームーンの絵が完成した。
ぼくはそれを見ながら、「わー! すごいやん上手上手!」とか「たしかにそのあたりにキラキラしたのあるなぁ、よく見てるなぁー」とか言ってけど、内心では、娘と娘の描いた絵に圧倒されていた。
娘がセーラームーンの絵を描いた。
これは人類史における事件だ。ぼくは愕然として、感動を覚え、涙が出そうになった。
娘は言葉も文字も絵も習得途中であり、我々と同じルールで情報を共有できてるわけではない。
お喋りはずいぶん達者になったけど、意味をわかってるというより「なんとなく真似っこしてる」って感じのことも多い。
つまり娘の頭の中のことは、3歳になる今も宇宙最大の謎のままである。
それが、セーラームーンという我々も知ってる存在の絵を娘が描いたことで、ぼくらと娘の世界がほんの少しだけ交わったのだ。
まあ一言でいうと「わっ! え!? すごいやん!!」ということを思いながらお絵描きを見ていると、今度は娘がセーラームーンを横切るように、しゃーっと横線を引いた。
「波がざっばーんってきたの!」
と言うので、
「セーラームーン、流されてしまうん?」
と言うと、
「ちゃうよ! 泳いでるんやで!」
と娘は言った。
セーラームーンという、我々の認識できるモチーフで娘の世界と繋がった分、彼女のアンチェインド・マキシマムパワーの巨大さの一端が垣間見えた。
これは「セーラームーンの絵を描くようになった娘の成長に驚いた話」である。
それと同時に、これはぼくらの娘の中にあるひとつの『無限』が、「お絵描き」によって我々の世界と繋がったという神話なのである。
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