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救世の天馬、来る。

 ついに電動アシスト自転車を買ったので、家族みんなでサイクリングをしなければならない。電動自転車は奧さんが運転する。リアシートには2歳の娘がライド・オン。ぼくはご自慢の赤いスペシャライズド(ロードバイク)に跨がって、レッツゴーした。

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 我々家族は大阪の真ん中らへんで暮らしており、主な移動手段は徒歩と電車だ。それで事足りるし不便と思ったことはあまりない。しかし、娘を保育園に送迎するようになって、ちょっとだけ都合がわるくなった。
 夕方のお迎えは奧さんの担当なのだが、職場にベビーカーを持って行けないので、自ずと身ひとつで園に赴き、そのまま帰路につくことになる。ただ我らが娘は、好奇心を熱しては叩き熱しては叩きの果てに完成したワクワクの最上大業物みたいな人物なので、ものすごく寄り道をする。しかも疲れたら「おかあちゃんだっこ!」との勅命が下るので、家に辿りつくころには、時間と体力がごっそりイカれることになる――という寸法だ。

 朝はぼくが送り届ける担当だが、ベビーカーで園に送り届けて、急いで帰宅しテレワーク、というのもなかなか大変なのである。娘の気がノらず(我々がノせれず)出発が遅れたときには、汗だくダッシュを余儀なくされるし。

 そういう感じで、検討・試乗の末、都市を駆け抜け時間を産み出し奧さんの腰を崩壊から救うサンドベージュの天馬こと《PAS babby UN》が我が家にやってきた。

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 そして、最初の日曜日、家族でサイクリングかまそうぜと相成ったわけである。
 サイクリングそのものも楽しみだが、基本ひとりで出かけるとき専用の移動手段であるロードバイクに乗って、奧さんと子どもとおでかけできるのがサイコーだ。

 昔買ったスペシャライズド社の赤いロードバイクは、たまにしか乗らないが、ひとたび跨がるとぼくのヒト科の骨格がロードバイクのフレームに置換され、四足獣のごとき前方ベクトル特化型の移動体と化す。肉体の楔なんていつでも外せるという、ある種の拠り所である。

 そんな特別なのりもので、特別な家族といっしょにお出掛けができる。そりゃあ、ワクワクが止まらない!
 うれしすぎて誰ひとり行き先を決めないまま、家を飛び出し出発した。

「で、どこ行く?」
「んー、北かな」

 という会話の後、とりあえず北に向かったが、そんなふわっふわのプランでも楽しくなっちゃうのがサイクリングの味わいだ。

 宣言通り北にいくと大阪の一級河川、淀川河川敷があるのでそこに向かうのだ。
 大阪のど真ん中にして一気に広がる空と果てなく広がるサイクリングロード。吹き抜ける風の開放感。
 娘は乗りっぱなしでちょっと疲れてきた様子だったので、川沿いを走って最初に見えてきた橋を節目に河川敷を出ることにした。
 土手から降りるとそこは城北公園。大阪市旭区のでっかい池のあるでっかい公園である。
 そこではたまたま区民祭がやっており、売店や野外コンサート、ゆるキャラの撮影会などで盛り上がっていた。

 娘はしばらく子ども乗せシートから解放されて、公園中を走り回った。
「これなあに? これなあに?」
 と屋台を見ては好奇心を爆発させる娘。
 となり町の公園のお祭りなんて、無目的サイクリングならではのエンカウントだ。

 こうして、我らの行動範囲の地図における、家の近所と鉄道沿線以外を覆う雲が、ドゴォォォン! と音を立てて炸裂霧散したのである。

 サイクリング最高!

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