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その階段を登るのは

 娘が保育園の階段を自分で登るようになった。

 娘が3歳になった今年、4月からそれまで通っていた保育園から系列の別の園に転園した。
 より自主性を重んじるその園では、見送りの親は玄関ポーチの3段ある階段の手前でバイバイする。階段を上がって扉をくぐるのは子どもひとりで行う。

 前の保育園では、玄関に到着してからインターホンを鳴らすときにだっこ。2、3回ぎゅーってしてから降ろして、2、3回いってきますのタッチをして、保育園の扉の向こうに一歩踏み入れた場所から「中からタッチ!」をやって最後にいってらっしゃいする。

 儀式が多い。お気に入りのおもちゃで朝から遊んでる日は、そこにおもちゃとのお別れも加わる。
 その日の気分によっては、両手をつないでランララン言いながら園の前でくるくる回るときもある。

 今の園では、自転車から降ろして階段の前まで行き、先生が出てくると、謎に照れてぼくの後ろに隠れたり脚にしがみついてきたりするものの、背中を少し押してうながすとゆっくり自分で階段を上っていく。

 さらっと書いてますが、むちゃくちゃすごいことである。
 日によっては階段上がるまでだっこもしがみつくのも手をつなぐのも無しで自分で歩いていく。
 そんなときは、拍子抜けするほどスッと扉の中に入っていき、こちらにバイバイするのも忘れて靴を脱ぎだすこともある。

 なにがすごいというのか。それをこの記事で書こうと思ったけど、成長とか切り替えの早さとかそういう言葉に収まらない何かがある。眩しい。ふぁーてなる。

 今の園になって、もちろん最初から自分で階段を上るなんてことはなかった。
 でてくる先生の対応とか、儀式レスで入らそうとするこちらの雰囲気とかを察して、以前よりスムーズっちゃスムーズではあるが、毎回泣きながら登園する日が続くこともあった。
 自転車から降ろすときにだっこしたらそのままぼくにしがみついて、くっついて自爆するタイプの敵キャラみたいに引きはがそうにも剥がれない技を使うことも多かった。
 娘の登園というよりも、デカくて重いだっこちゃん人形を身に着けて歩く体験型イベントみたいだった。

 そういうのを経て、今朝も娘が自分で階段をあがっていく。
 先生が、
「おはようございます!」
 というと、娘も、ちょっとおざなりではあるものの、
「おはよございます!」
 と返す。
 入ってすぐの玄関のすのこに座って靴をぬぎながら、ガラスドアごしにぼくに向かって手を振る娘の顔は何も不安なことなんてないような笑顔。
 手を振り返した後、在宅ワークのために家路に着くぼくの気分は晴れやかだ。

 いつも寝る前に、
「今ねたら(保育園)おやすみ?」
 と何度もきいてきて、
「保育園だよ」
 というと、
「おかあちゃんがいい~!(嫌やぁー!の意)」
 と嘆く娘が、それでも笑顔で登園していく。

 今日も階段を上りガラスドア越しに手を振る娘の笑顔をみてぼくは、
「あ、すげえな」
 と思う。

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