そのペンひとつでどこまでも
その無造作に腰に帯びた一刀。たったそれだけでどんな戦場も生き抜いてきた。
その小傷だらけの黒いブーツ。その一足だけでいったいどれだけの国を渡り歩いたか。
そういう、命をあずける一刀や信頼のおける一足とかって良いよなあと思ってて、ぼくの場合は筆記具でそういうのがある。
それは一本の小ぶりなボールペンだ。銘を《カランダッシュ849》と云う。シンプルな油性ボールペンである。
カランダッシュ社の来歴や849シリーズのデザインのクールさ、内蔵される神話の巨人の名を冠したリフィルについては調べれば出てくるので詳しくは書かない。
言いたいことは多くない。ぼくはこのボールペンを相当気に入っており、信頼しているということだ。
見た目に惹かれて購入した。ボールペンに3500円(税別)もの金額を支払ったのは初めてだ。
ボールペンは好きじゃ無かった。線の濃淡が一律であり、ボールの回転によりインクが転写される仕組みにより紙との摩擦が少なく、筆記の感触に乏しいからだ。
描画した線や絵の耐久性を抜きにすれば、えんぴつが最高だと思ってる。えんぴつは芯と紙とのざらっとした感触を感じながら筆記することができる。筆記の音も良い。描線もやわらかく濃淡がでるため味わい深い。
奥さんは日常のちょっとしたメモなどをえんぴつで書くのだが、その線がものすごく良い感じなのである。文字ひとつひとつがめちゃめちゃカワイイ。文字の個性もあるが、そこにえんぴつの柔らかい描線がのっかってキュートさをブーストしている。書いてると手の横がちょっと黒くなる意外サイコーの筆記具である。
万年筆もすげー良い。無辺のインク色、しなるペン先により線に気持ちが乗り、濃淡も豊かだ。
カランダッシュ849を気に入ってるのはまさにそういうことだ。見た目が気に入ってなんとなく使ってて、えんぴつや万年筆みたいに強い良さを感じない故か、気がついたら飽きずにずっと使ってた。
小さいボディに高性能な芯、油性インクのスムースさ。書いてるときにそのペンの存在を忘れてることにふと気づいて、このボールペンやべぇ、と思った。
事務用ペンのスタンダードたるボールペンの地力を感じた。一律な線でノンストップで書き続けられるということは、どんなシチュエーションでも同じ性能を発揮し続けられるということであり、つまり、どこにでも持って行けるということだ。
しかもカランダッシュ849専用のリフィルは永遠と思えるくらいインクが切れない。特殊なボール周りの機構によりダマが極端にでにくいときている。
あと、ボールペンは線に味わいが乏しいと思っていたが、完全に気分の問題であり、849ボールペンで日々書いてる生後7ヶ月の地獄のようにカワイイ娘についての絵日記を読み返して、相当ニヤニヤすることが可能だ。
というか、ボールペンでも線の濃淡は出せる(水性インクやゲルインクなどはくっきり出過ぎるので油性特有かもしれないが)。ごめんなさい。
言いたいことは多くない。愛用しようとして愛用するようになったのではない、気がついたら愛用してた、というのが最もステキなドウグとワタシのマリアージュのひとつであり、このペンとぼくがそうであったため、嬉しいから話聞いてー、ということであった。
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