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ニュースの中のこどもたち 〜広島の児童相談所のいま〜 イベントレポ

こんにちは、シムトweb担当のはいどです。今日はイベントレポートをお届けします!

シムト初となるオープンイベント(虐待サバイバーの当事者でなくても誰でも参加できるイベント)が10/24に開催されました!

今回のイベントは「ニュースの中のこどもたち 〜広島の児童相談所のいま〜」と題し、広島の虐待の現状や防止策、児童相談所の仕事について学ぶ勉強会形式で行いました。

広島市中区土橋にあるカフェ、「Social Book Cafe ハチドリ舎」さんとの共同開催です。

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ハチドリ舎店主の安彦さんは自身のことを「社会に何かしたいタイプ」だと語ります。社会について知ることで優しくなれる場、避けられることなく社会課題について話せる場を作りたいと思って2017年にハチドリ舎をオープンしたそうです。

登壇してくださったのは児童相談所での勤務経験を持つ那須寛弁護士と、虐待問題に詳しい寺西環江弁護士のおふたり。

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オンライン参加11名と現地参加11名、合わせて22名もの方が来てくださいました。

代表のソンちゃんは少し緊張した様子です。

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虐待とは?

まずは寺西さんが児童虐待問題の大枠について話してくださいました。

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虐待は行為により、いくつかの種類に分けることができます。

・身体的虐待
・心理的虐待
・性的虐待
・ネグレクト

殴ったり蹴ったりと言った暴力が身体的虐待、脅したり物を壊したりするのが心理的虐待、性的加害を加えるのが性的虐待。ごはんをあげない、病院に連れて行かないなどの行為はネグレクトに当たります。

寺西さん自身は女性のDV被害に関する相談を受けることが多いそうで、中には虐待が隠れている家庭もあるといいます。実際に、子どもの大切なものを親が壊す、子どもに包丁を向けて脅す、子どもが給食しか食べるものがない、などのケースに直面したことがあるそうです。

虐待の原因って?


虐待の原因としては3つが挙げられます。

1. 育て方がわからない
2. 心の余裕がない
3. 代理ミュンヒハウゼン症候群

育て方がわからない

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親自身が虐待の被害者である場合、ときに子どもにも同じことを繰り返してしまう場合があるそうです。「殴るのは良くない」と分かっていても、親が自分にした子育てを「愛情ではなく虐待だ」と認めて、親を否定してしまうのはとても苦しいことです。

また、虐待の傷によって「子どもだけ幸せになってしまうのが許せない」と思ってしまう親もいるそうです。

性的虐待の場合は脳が辛い体験を正常化しようとして、自慰行為や人形でのロールプレイにつながる場合があります。そしてその行為を他人にしてしまうと、新たな性加害や性的虐待になってしまいます。

「誰が悪い」なんて言い切れない、あまりにリアルで生々しい話。だけどそれが現実に起こっているのだと実感させられました。

心の余裕がない

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貧困、特に母子家庭の貧困により、虐待が起こることもあります。

日本は女性が育児をすることが多く「寿退社」として仕事をやめてしまうこともあります。しかし夫婦の約3組に1組が離婚している社会で、離婚後に正社員として復帰できなかった女性は非正規の仕事を強いられてしまうことになります。子どもを育てながら働き、毎月の支払いをすると学資保険をかける余裕もない。精神的に疲れてしまうのは、当事者でなくても想像に難しくありません。

「一度仕事をやめた女性が正社員として復帰できるようにしないと、日本の母子家庭の貧困率はどんどん上がっていく。対策を取らないと虐待は減らない」と寺西さんは話します。

またDVの裏にも虐待が隠れている場合が多いそうです。

寺西さんはDVを受けている人を「正常な判断ができなくなっている状態」と表現します。

例えばお母さんがお父さんからDVを受け、子どもが虐待を受けている場合、お母さんは「反抗することが怖い、自分が止めることで子どもがもっとひどい目に遭うかも」と思ってしまい助けを求められない、というケースがあります。

実際にお母さんがDVを受けている中で子どもが虐待を受け、亡くなってしまったという痛ましい事件がありましたが、DVを受けている環境でSOSを発することはとても難しいことなのです。

DVは恐怖での支配です。相手の自尊心をむしばみ、家族を「解散できないように」と縛ります。

寺西さんの出会ったDV被害者の女性が、パートナーと離れてから心に余裕ができて季節の変化を感じられるようになった、ということもあったそうです。

そのほかに病気や産後うつ、ノイローゼ、孤独も余裕を失わせ、ときに虐待につながります。

寺西さん自身、思い通りにならない育児でお子さんに手をあげてしまったことがあるそうです。そのとき「これはいけない」と思って区役所の育児ダイヤルに相談し、「人が聴いてくれる窓口の大切さを知った」と語ってくださいました。

代理ミュンヒハウゼン症候群
あまり多くはないケースではありますが、代理ミュンヒハウゼン症候群という病気が原因の場合の場合もあるそうです。

ミュンヒハウゼン症候群は周囲の関心や同情を引くために病気を装ったり体を傷つけたりする病気のこと。「代理」ですから自分ではなく他の誰かを病気に見せかけることになります。傷つける先が子どもに向いた場合、それが虐待になります。

誰しも完ぺきじゃない。「マルトリートメント」という考え方

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最後に寺西さんは「マルトリートメント」、不適切な養育という考え方について教えてくださいました。

人間は誰しも完璧ではない。それは親だって同じだから、叩いたり大声を出したりといった不適切な養育をしてしまうことがあります。

親を責めて遠ざけるのではなく、世間話をしてみたり、困ったことがないか聞いてみるなど、「近づく支援」をすることで、重大な虐待を防ぐことができます。

終始冷静に、それでいて強い熱意を持って話してくださった寺西さん。

「烙印を押すのではなく、完璧でない部分をどう補うかを考えよう」という言葉が、ぐっと胸に響きました。

児童相談所の仕事って?

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次に2年間児相で働いた経験のある那須弁護士が、「児童相談所ってどんな機関なの?」ということを教えてくれました。

児童相談所では児童福祉士(ケースワーカー)や児相心理士、医師、弁護士の方が働いています。実際に対応にあたるケースワーカーさんは15人程度と、かなり少ない人数で回っている忙しい現場だそうです。

少ない人数で一件ずつ対応するので、懇親会などをやっても全員が揃うことがないほど(!)

児童相談所は、虐待を防げなかった、子どもを保護しなかった、という形でニュースになることが多いように思いますが、実は虐待の防止・子どもの保護以外にも役割があるそうです。

1. 発達についての相談(知能検査など)
2. 非行への対応
3. 子育てについての相談
4. 虐待への対応

特に暴力などの非行は正論で解決できない点が難しいといいます。「虐待と違って加害者なんだろう」と受け止められがちですが、裏には家庭で自分も殴られている、居場所がないなど虐待が隠れていることも多いそうです。

虐待対応の流れ

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虐待の疑いがあるとの通告を受けてからの対応について教えていただきました。

那須さんは「将棋で言うと、もう詰みそうな盤面をいきなり代わらされるようなもの」表現します。その中で使える駒を探し、どうにか家庭を整え正常化していく感覚だそうです。

「毎晩同じ時間に子どもの泣き声が聞こえる」「子どもが汚れた服を着て歩いている」などの通告が入ると、まずは会議をして、情報収集を進めていきます。通告した人物は名前を名乗らないこともあるし、マンションやアパートだと正確な部屋番号が分からないこともあるそうです。保育園や学校などに通っているか、検診を受けているか、生活保護を受けているかなど、様々な角度から情報を探ります。

どこの家庭なのか、どういう状況なのかがわかると、実際に対応をとります。家庭を訪問することもあれば、学校などと連携して対応する場合もあるそうです。

訪問する場合も、児童相談所に通告されたことで保護者がショックを受けないよう気を遣うといいます。例えば「毎日夜泣きが聞こえる、虐待かもしれない」という場合、保護者自身も子どもが泣き止んでくれず疲れ切っているかもしれません。

衛生状態が悪いなど、子どもの命に危険が差し迫っているわけではない場合はケースワーカーと面談しながら状況を改善していきます。

ケースワーカーが訪問する頃には保護者はもう様々な場所で「きちんと子どもを育てなさい」と言われていることが多いそうです。

だから信頼関係を作るためには責めるのではなく、「電気が止まっていない」「子どもの笑顔がいい」などできていることを見つけていくのが大切だと那須さんは語ります。

子どもに危険が迫っており一時保護をする場合は、保護者を刺激しないよう学校や保育園で保護することが多いそうです。

子どもが2ヶ月までの期限つきで施設で生活している間、児童相談所は心理士の検査などを通して育てにくさの原因を探り、家庭に返せるよう尽力します。

しかし親子の分離と統合を同じ期間が担っていることで保護者が「子どもを奪われた」と感じ関係を築くのが難しいケースもあるそうです。また、保護したことで状況が改善するケースもあります。

親元に返せる場合もそこで支援が終わり、ということではなく、日々変わっていく生活を見守りながら支援を続けていきます。

親元に返せない場合は裁判所に養護施設入所の許可を申請します。入所も支援の終わりではなく、児童相談所は保護者のもとに返せるように動いています。

虐待の加害者は自分たちと紙一重

那須さんは最後に「いわゆる影の世界の人と関わることが多いが、虐待の加害者は自分たちと紙一重だと感じる」と話してくれました。

核家族化や孤立、貧困、思い通りにいかない子育て。毎日疲労が蓄積されている。同じ環境に身を置くことになったとして、自分がそうせずにいられるか?

虐待はある特定の思いやりのない人物がやることではなく、誰にだって加害者になる可能性がある。加害者を追い詰めるだけでは何も変わらないのだと強く感じました。

考えさせられた、虐待という問題の難しさ


今回のイベントを通してぼく自身、多くのことを学ばせていただきました。

虐待という行為が現実に、今この瞬間も起こっているのだと思うと気持ちが暗くなりましたが、同時に善と悪では簡単にはかれないことが虐待という問題の難しさだと感じます。

追い詰められて傷つけたくないのに子どもを傷つけてしまう人がいること、虐待の加害者も被害者であるかもしれないこと…

誰もが完ぺきではないし間違うことがありますが、そのときの周囲の関わり方によって虐待を防ぐことができます。

責めるのではなく、受け止め、防ぐ社会にしたいと強く思います。これからシムトのメンバーとして何を伝えられるだろうかと考えた1日でした。

登壇してくださった那須寛さん、寺西環江さん、本当にありがとうございました!


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