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"盲県"という遊びをつくったら、すごい発見があった。


僕が大好きなおもちゃの一つに、「くもんの日本地図パズル」という商品があります。

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47都道府県のプラスチック製ピースを、日本の形の枠に沿ってはめていくものです。地方ごとに色分けしているピースの他に難易度の高い同色ピースが入っていたり、小さい子のためのひらがなシールが入っていたりと、細部にわたり素晴らしい名作です。個人的日本の好きな玩具ベスト10に入ります。

子供と一緒にパズルをはめながら、「これが秋田県だねえ。じいちゃんばあちゃんがいるところだよ。この間行ったよね。」みたいな話をしています。

2019年の年末休みに、この日本地図パズルで子供と遊んでいた時、ふと思いました。

「これ、目隠しで指で触って、何県か当てられるんじゃ・・・」

早速やってみました。

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「北海道!」


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「・・・」

終了。

都道府県の形って、ほとんど知らなかった・・・。

何か、心に火がついてしまいました。

目隠しで都道府県を当てる競技、題して「盲県」を、マスターしてやろう!


僕はおそらく世の中でも屈指の「感触フェチ」であり、様々な感触サンプルを収集したり、触り心地が病みつきになる製品を普段から開発したりしているので、指先の感覚には自信があります。僕こそが、この競技においては世界一になれるはず。

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ルールは、47個のピースを袋に入れて、目を閉じて1つずつピースを取り出しては都道府県名を言い当て、すべて正解したらクリア、とします。つまり、1つでもミスをしたら記録なし、です。

最初に、「盲県」を練習する適切な手順を整理します。当然、まずは都道府県の形を覚えなければならないでしょう。でも、47種類を北から順番に暗記していくのは効率が悪そうです。そこで、まずは全都道府県を、覚えやすくカテゴリー分けしてみることにしました。


1.絶対わかる族

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軽く指で触ってみて、まずこの3つは、形を覚えさえすればすぐ判別できる、独特すぎる形状だと分かりました。とりあえずそれぞれに「デカい」「アーチ」「鍵」と名付けます。


2.大きめ族

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先ほどの突出したデカい奴を除き、続く大きい都道府県の「神7」をひとくくりにしました。

手触りとして「大きい」というのはとても分かりやすい特徴になります。大きい県はなぜか形も指で判別しやすく、「青森→まさかり」「岩手→大リアス式」「秋田→四角にイボ」というように分かりやすいです。僕の地元でもある東北は、面積だけは軒並み上位なんですよね。

※こんなTweetも過去に話題に ↑


3.細い族

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「2.」の流れで、次は中くらいの大きさかな~とか思ったんですが、神7の後はだんだん大きさの差が分かりづらくなっていったため、大きさ以外の特徴でくくった方が良いと判断。まずは、細長いのを集めてみました。触って「細長い」となったら、それぞれの特徴を判別する作戦です。これは、訓練で行けそうな気がします。


4.形のクセがすごい族

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変な出っ張りや切れ込みがあるくくりです。これも覚えればわかりやすそうですね。※静岡に住んでいたことがある妻が、静岡県は金魚、と言っていました。


5.トンガリ族

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鋭利な先端も、目隠しでも分かりやすいです。指に刺さってきたら、これらのうちどれなのかを判別します。


6.カーブ族

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高知の次にわかりやすくカーブしたくぼみが存在するくくりです。これも、それぞれ微妙に大きさや形が違うので、判別できるでしょう。


7.ギザギザ族

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だんだんと難易度が上がってきました。ギザギザが多いくくりです。指で撫でまわして手が痛かったら、これらのうちのどれかです。岡山は丸いギザギザで太陽みたいなので判別しやすいですが、山口と広島が混同しやすいし、大分も福岡も、何とも言えない感じ・・・。ここで脳が急激に疲れ始めました。


8.直角ある族

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ついに強引なくくりになってきました。指で触って、直角部分を発見し判別します。


9.小さい族

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小さいということだけは判別しやすいのですが、小さくなると形の特徴の違いが指先でわかりづらくなっていきます。東京と香川は見た目以上に指での判別がキツいです。


10.イボ族

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小さな凸があるくくりです。それを発見したら判別します。ちなみに兵庫のそれは半島ではありません。県境です。なぜそうなった。


11.丸い族

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つるんと丸いくくりです。栃木はかなり丸みが強く、それに対して山梨は上にリボンみたいなギザギザがあります。まあ、地図で見たら丸でもリボンでもないんですが・・・。ここまできたら実際の県の形というか、このパズルのピースに限った特徴になってきます。


12.困った奴ら

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最後に残った、どうしようもない奴らです(←炎上覚悟)。大きさも中途半端だし、何回も指で触って微細な違いを読み取る「修行」をしないといけない連中ですね。

中でも、特にヤバイと感じるやつはコイツです。

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そう、埼玉。大きさ的には東京などの小さい族と混同させてくる上、海もないくせに右下にギザギザがあり、「海に面する県だな ♪」という勘違いを誘発させます。『翔んで埼玉』など数々の作品でもネタにされる上、盲県の世界でも無特徴。もしかして、県の形状と特色はリンクしているのではないか、という仮説が頭にチラつきます。


以上の形の特徴を覚えながら、触りながら、訓練を重ねるのですが、実は、手触りだけで当てるのは、ここまで文字と写真で説明してきた感じの何倍も難しく・・・!

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頭で分かっていても間違います。

例えば・・・

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千葉と茨城。逆さにすると本当にそっくりです。この2県は縦に接する県なので、チーバくんが頭同士でぶつかっているみたいな。この頭合わせの写真を見れば誰もが、キン肉マンのフィニッシュ・ホールドの壁画に刻まれたマッスルリベンジャー(左端)の絵を思い出すでしょう。

また、宮城と広島も指で触るだけだと意外とヤバイ。

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宮城はリアス式海岸の部分がワイパーみたく出っ張っているから間違うわけないじゃん、と思われるかもしれませんが、視界なしの手触りだけなので、外周をすべて触ることを怠ると、短絡的に別の件と混同してしまうのです。恐ろしい競技です。

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そうこうしているうちに、脳が疲労してくると、ついに、比較的難易度が低い、大きさの「神7」の中の新潟と長野を間違えたりして、「いや、日本海側の海岸線そんなギザギザじゃねえわ!」と激しく自分にツッコんだり。そのうちに青森と鹿児島を間違えたり、神奈川と富山を間違えたり、ついには、くぼみを指で判別しそこなって、三角っぽい形状から愛知と佐賀と間違えたり・・・。なかなか47都道府県をノーミスで当てることができません。3歳の娘が「遊びたい」と言ってきたのを「アッチに行ってろ!」と追い払ってしまったほどです。


そして、ついに、、

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初めてのクリア。あと数個で、という時は心臓がバクバクしました。盲県という遊びがこの世に誕生してから約24時間後、2019年最後の思い出でした。(まあ、ずっとやってたわけもなく、スキマ時間にやっただけですが。ちなみに受験あるあるの通り、一晩寝たら劇的進歩しました。脳って不思議ですね。)

で、ここから2020年の正月にかけて始まったのが、そう、

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タイムアタックです。

一度クリアしたくらいで盲県は終わりません。ルービックキューブ愛好者でもある僕にとっては、当たり前のようにここからが本当の戦いです。

とりあえずわかりやすく3分切りたいな~、と思って始めてみたのですが、180秒を47で割ると、1つ当たり約3.8秒。その短時間で当てていかなければならないのです。そんなことができるのか? などと、時間を気にしだすと、精神が追い込まれていき、丁寧に県を触れなくなり、ミスを犯す。まさに2020年最初に誕生した、歴史に残すべきメンタルスポーツ。

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結局冷静に考えたら、1つ3.8秒で当てていくなんてなかなかムリ・・・、結局、現時点での最高記録は6分24秒。1つあたり平均8.2秒。この後どこまで早くなれるかな。人間の能力はすごいから、まだまだいけるはず。この挑戦は続けていきます。

そうこうして「盲県」を訓練している中で、途中で上達のポイントとして気がついたのは、隣り合わせの県の境目の形状は、当然同じ形の線になるということ。

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例えば、最初僕は福岡県に相当な苦戦を強いられたのですが、隣が佐賀県であり、そこが三角形のような形なので、それがハマるくぼみがあるのが福岡だな、というように覚えたら、タイムが縮まりました。福岡を触る時に、指先に佐賀が現れるのです。

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屈指の難易度である奈良県も、最終的には、三重県にハマる突起が手掛かりになり、指によって記憶されました。

そんなことをやっていたら気になってきたのが、

県境って、誰がどうやって決めたんだろう?

ということです。

アメリカの州の境目って、地図でも印象深いように、何かまっすぐな線で区切られているじゃないですか。でも日本はギザギザぐにゃぐにゃ。どうしてそうなったんだろう?

そのことを軽くネットで調べようとしたら、以下の本を発見しました。

この本を買って読んだら、面白過ぎました。

中高で日本史を学んだのに全然知らなかったのですが、県というものは明治維新によって生まれ、まずは府藩県三治制というものにより3府41県が誕生、そして廃藩置県によって3府302県になったんですね。しかし、それが自治体数として多すぎるということでわずか半年後に統廃合され3府72県になったり、その後も地域住民の感情を無視した強引な分割や統合に不満が噴出し・・・、なんやかんやの歴史があって今の形に近づいていき、明治21年に最後の香川県が誕生。戦後にようやく沖縄がアメリカから日本に返還されて、47都道府県になったとのこと。

で、それらの歴史を読んで思ったのですが、、

県境って、相当なパワースポットなんじゃないだろうか。

この本からいろいろな事実を知ることができました。例えば、僕の地元秋田県と青森県の境目にある美しい観光地、十和田湖は、漁業権で揉めた末、どちらの県にも属していないらしいです。さらに、秋田県と山形県の境目にある、これまた美しい名峰、鳥海山の辺りも、江戸時代に起こった山頂の争奪戦が原因で、現在も不自然な形で県境が山形県側に湾曲しています。つまり山頂部分を山形県に持っていかれているような形になっているのです。

他にも、富士山の山頂も特定の県に属していないなど、事例は枚挙に暇がなく、県境には悲喜こもごものドラマが隠されているようです。裏を返すと、県境の辺りは、何らかの魅力があったからこそ県境になったのではないか。「ここからこっちは、〇〇の国だ」みたいな感じに分けられて、人々は嬉しかったり悔しかったりしたのではないか、とも想像できます。

僕は、盲県で県の形をひたすら触りながら、これから引き続き「地方創生」のようなことを考えるのならば、そのヒントは県境を、境じゃなくすることにあるのではないかと思いました。

県境は、2つの県が接しているところです。つまり、県境で何かが起こったり、何かが生まれたりすれば、それは、少なくとも2つの県を同時に盛り上げる要素になり得ます。十和田湖も青森と秋田で盛り上げたら・・・、鳥海山も山形と秋田で盛り上げたら・・・、これまでの倍以上の価値を生みだせるかもしれません。

「ウチの県を盛り上げよう」と、いうように、まだまだ、自治体も関係者も、単独で「○○県」のことを考えているのが実情かと思います。だから自治体というのでしょうが、あえて境界線上に両者の可能性を探る発想をして、手を組んで盛り上げてみてはどうでしょうか。文字通り、県境を取っ払った考え方に、ブレイクスルーが潜んでいるのではないでしょうか。

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群馬県と栃木県は、よく「どっちがどっち?」とネタにされますが、県の面積も20位と21位で大きさもそっくり。2つをあわせて1つに見てみると、なんとなく一つの横に長い県の様な形に見えてきます。まあ、この辺は昔から上野・下野で分かれていたかもしれませんが、今の時代なら歴史上で一番仲良く手を組めるかもしれません。実際に複数の県が1つだった時代が、全国津々浦々で当たり前のようにあったんです。(僕が通っていた高校の近くの鹿角地区というところは、8か月程の短期間で4回も県を変えられたことがあるそうです。その末に、5回目でようやく秋田県になったとのこと。)

実際に県境を観光地にしようという取り組みも多数。↑

最近、いろいろな分野で「越境」という言葉が流行っていますが、境目って、越えるものでもないし、そもそも、存在すらしないのかもしれないなと思います。もちろん区分整理して運用をするために便宜上、境目というものが必要です。でも実は、あるようでない「境」ってたくさんあるんじゃないだろうか。

たとえ話ですが、つい先日、弊社からある大企業に対してトラブル案件で対応依頼をしていたのですが、にっちもさっちもいかず、いろいろな部署をたらい回しにされ、絶望し掛けたことがありました。通じないものは通じないのか、と。でもその話は諦めるわけにいかないものだったので、あの手この手で多方面からコミュニケーションを図っていたら、10日ほどかけて、ついに伝わったのです。(このことはまたどこかで話したい出来事でもあるのですが、)このとき、越えられない境目なんて、ないんだな、と思えました。よく「壁」という表現がされますが、ドリルでも壊せない本物の硬い壁が立っていない限り、それは壁ではないのかもしれないな、と。

当たり前だけど、県のピースを触っていたらありありと分かったのは、県境の線は、接する2つの県の両方で、ぴったり同じ形。それを指でなぞっていると、接する県が、血を分けた兄弟の様に、他人とは思えなくなってくるのです。「東京だ」「地方創生だ」という話ではなく、言うなら「日本創生」という考え方をしたいな、そして、2020年代は自然にそうなっていくんだろうなと思った、年末年始の「盲県」の思い出話でした。終

【特別付録】

こちらの記事をお読みいただいた皆様の中で、「盲県」を練習してみたいという方のために、以下に47都道府県の形状をイメージだけのざっくり一言で表したリストを掲載しておきます。どうぞ、お役立てください。(私の頭の中だけの言葉なので、無礼はお許しください。)


北海道:デカい
青森県:まさかり
岩手県:大リアス式
宮城県:ギザギザワイパー
秋田県:四角にイボ
山形県:直角とくぼみ
福島県:左下135°
茨城県:ギザギザなし逆さ千葉
栃木県:丸
群馬県:針
埼玉県:東京より大きい右下ギザギザめんどくさい
千葉県:チーバ君
東京都:右下トゲトゲチビ
神奈川県:小動物
新潟県:大バナナ
富山県:小カーブ
石川県:つくし
福井県:鍵
山梨県:左上リボン
長野県:反ってない新潟
岐阜県:テトラポッド
静岡県:伊豆半島
愛知県:三角にハート
三重県:ライフル
滋賀県:縦長台形
京都府:のこぎり
大阪府:月
兵庫県:コック帽からイボ
奈良県:無特徴チビ
和歌山県:みかんの粒
鳥取県:右上直角
島根県:海岸線まっすぐ
岡山県:太陽
広島県:缶切り
山口県:山
徳島県:左マイナスドライバーの先
香川県:フナ
愛媛県:エ
高知県:アーチ
福岡県:左に佐賀県ハマる
佐賀県:三角チビ
長崎県:ぐちゃぐちゃ
熊本県:わき腹イボ
大分県:傘の右が丸いキノコ
宮崎県:海岸線まっすぐ2
鹿児島県:桜島
沖縄県:細長い卍








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