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「おもちゃ業界に入りたい」という学生さんや子供たちに伝えていること


「どうすればおもちゃ業界に入れますか?」

とよく聞かれます。就活時期の大学生はもちろん、小・中・高生いろいろな子供たちに質問を受けます。そして社会人の方からもよく相談を頂きます。それだけ、おもちゃを作る仕事は魅力的なのだと思います。

そんな風に質問されるときに、「今からやっておいた方がいいことってありますか?」とも聞かれることが多いです。例えば、

「具体的にやりたい企画案を考えておいた方がいいんですか?」
「実際に作品を作っておいた方がいいんですか?」
「勉強しておいた方がいいことはありますか?」

とか。

それに対して僕はいつも一つだけ、やっておいた方がいいと思うことを伝えています。

それは、「なぜ、デジタルゲームやアプリよりも、形あるおもちゃを作りたいのか」を、自分の中で整理して、本音を言葉にできるようにしておくことです。

もちろん、僕もおもちゃクリエーターと名乗りながら、デジタルコンテンツも多々作っています。でも仕事の大部分は、プラスチックや電子回路、紙などを使ったいわゆるアナログトイです。

人を楽しませる遊びやエンタメを作りたいのなら、別に「おもちゃ」を選ぶ必要もありません。デジタルや、サービス、イベントなど、遊び系事業はたくさんあります。映像・動画コンテンツやマンガ、音楽や芸能などもあるでしょう。いろいろな会社や職業があります。

エンタメを作るのはどのジャンルでも想像以上に大変ですが、おもちゃも本当に大変です。例えばインターネットコンテンツを作って配信する事業の場合、後から製品の不具合や、改善したい点を修正することができたりします。しかしおもちゃは金型や抜型などを作って量産するので、何千個もの製品ができ上がってしまった後で直したい点に気がついてもどうすることもできません。企画を立ててから製品完成までに、半年とか、1年とか掛かりますが、途中で企画を修正することもすごく難しいです。最初に決めた仕様で進みながら、突然時代の流行が変わったりしても、作っている途中の流れを変えることがなかなかできません。いろいろと大変です。

モノがいらない時代だともよく言われます。製品をたくさん作りすぎて在庫が処分され、プラスチックの無駄遣いや環境汚染などとまで言われてしまうことも現実としてはあります。

それでも、おもちゃを作りたい理由は何でしょうか。

そこに自分の芯があると、おもちゃ業界に入れます、と言うかもうその時点でおもちゃ開発者になっていると言っても過言ではありません。

ここを曖昧にしたまま漠然と、「おもちゃを作ってみたい」と言っておもちゃ業界に入ると、途中でつぶれてしまうかもしれません。隣のデジタルコンテンツ業界の芝生が青く見えると思います。この質問への回答を考えることは、入社試験の面接対策というわけではなく、進路を間違えないための本音の整理です。

自分と深く対話してみて下さい。「私はどうして、おもちゃを作りたいんだろう?」


ちなみに、参考までに僕がどうしておもちゃを作っているかを以下に書いておきます。もちろんこれをマネして喋ってくれということではありません。(改めて自分の整理のためにも書いておきます。実は、僕もちょくちょくブレるんですよ……。)

子供時代の僕にとっておもちゃは「魔法の道具」でした。人生で一番ハマったのはミニ四駆です。ミニ四駆を作っているときの僕は最速のレーサーでした。心臓病、いじめられっ子、気弱でしゃべれず引きこもり、親は厳しい、担任は意地悪……。そんな僕のせまい世界の中で、ミニ四駆の「サンダードラゴン」や「アバンテ」を改造し、軽量化するために穴をあけすぎたり、コースを走らせる予定もないのにコースを上手く曲がれるらしい高価なパーツをお小遣いで一生懸命買って取り付けたり、車体をボーっとながめながら秋田県には来ない全国大会に出る想像をしたり……そんな時間を過ごしているときだけ、僕は自分が天才で、最強で、何でもできる気がしていました。

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ゲームボーイやスーパーファミコンでボタンを押して技や魔法を出しても、それは僕にとって「操作」でしかありませんでした。でも幼稚園の頃から、戦隊ヒーローの武器を手にすればヒーローになれたし、キンケシを戦わせていたら自分も強い気がしたし、カードゲームをやれば本当に手から魔法が出せているように感じていました。大学入試の小論文にもミニ四駆のことを書き、工学部に合格しました。

厳しかった親は、ゲームをやっていると30分ほどで「やめろ!」と言うのに、なぜかおもちゃを触って何時間も過ごしているときは、喜んで見ていてくれました。(もしかしたら、僕はそのことが一番嬉しかったのかなあ)


おもちゃ。

何の実用性もない、作りものの、おもちゃ。

それを手に持ったときにだけ、人は魔法の力を発揮できると信じています。

大人だって、ぬいぐるみを抱きしめたり、感触がきもちいいマスコットをプニプニ触ったりしたら、回復魔法が使えます。会社の隣のデスクの同僚にシュールなフィギュアを見せたら、笑いと癒しで仲良くなる魔法が使えます。

おもちゃクリエーターは、魔法の道具を作る職業です。子供の頃の原体験からそう思っているので僕はおもちゃを作っています。おもちゃは、人間の必需品です。自分の娘たちや、未来を作る子供たち、大切な友人たちに、想像力と原動力を与えられるように、みんなが握りしめて力を得られる魔法具を作っています。以上が理由です。

おもちゃ開発者に興味がある皆様。おもちゃ作りはとても大変です。だけど人を幸せにして、世の中の役に立つ仕事です。それに、おもちゃ以外にも、人に魔法の力を与えることができる仕事はたくさんあります。自分が何をやりたいか、本当の気持ちを分かるように、人生を振り返ってみてはいかがでしょうか。

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