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自宅に「まほうカード」をぶらさげた話 ~ゲーミフィケーションとは何なのか


ゲーミフィケーション。

この言葉を聞くと、「もう古い?」と思う方もいるかもしれないし、逆に「流行ってる」と感じる方もいるかもしれません。

僕はおもちゃクリエーターという肩書きを名乗っているますが、仕事はだいたいゲーミフィケーションです。トイプロダクトを作るだけでなく、お題にあわせていろいろな方法で人の行動や感情をいい方向に変えようとします。親子でワイワイ遊びたい、職場で新しいアイデアが日常的に出るようにしたい、チームの雑談量を増やしたい、イライラを減らしたい、嫌いな勉強や片付けや運動を習慣化させたい……などなど、いろいろな欲求を遊びで解決します。

ゲーミフィケーションとは、「ゲームの要素を応用して、人の行動変容を起こし、成長を促進させること」です。

ゲーミフィケーションとは何をどうするものなのかは、検索するとたくさん出てきますが、一応一般的な理論は以下のような感じです。


◆やること:以下の4ステップで人の行動を設計する
1.明確なゴールを設定(ボスを倒すとか、売上1億円とか)
2.分解した課題とその報酬を用意(中ボス倒してアイテムGetとか、月の売上を達成したら部長に焼肉おごってもらえるとか)
3.現状を可視化(レベル〇〇まであといくつとか、目標まであと何円とか)
4.ユーザー間の交流(友達と強さを競い合うとか、同僚と協力して達成してイェー!ってなるとか)

◆ポイント:以下のタイプに分類されるプレイヤーがみんなハマるとよい
A.アチーバー:目標達成、アイテムコンプリートなどをしたい
B.エクスプローラー:新しい情報や裏技などを発見したい
C.ソーシャライザー:他のプレイヤーと交流したい
D.キラー:ランキング1位になったり、勝利し続けたりしたい

以上が成されれば、それは「みんなが楽しめるゲームになっているのである」ということです。

しかし、

この説明だけを元にゲーミフィケーションを仕掛けようとしてもなかなか上手くいきません。仕事や学習などをゲームっぽくして結果をいい方向に変えようとしたのに、誰も楽しまず、変化も起こらない。そんな失敗経験がある方もいると思います。

その原因はおそらく、ゲーム(遊び)とゲーミフィケーション(行動変容)を混同していることにあります。上に書いた「ゲーミフィケーションとは何か?」の説明はゲーム設計の基礎知識と同じであり、これだけでは単なる「ゲーム」しか作ることができません。ゲームとゲーミフィケーションの違いは、人の現実が変わるか変わらないか、です。(遊んだ人の行動が変わって成長するゲームもたくさんありますが、それはもうゲーミフィケーションの例だと思います。)

では、人の行動を変え、成長させるゲーミフィケーションはどうすればできるのかを説明していきますが、その話の例えとして、僕の家で最近流行っている一つの遊びをご紹介します。

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「まほうカード」という遊び

うちには7歳と4歳の娘がいます。毎日おもちゃを取り合って兄弟ゲンカをしたり、散らかし放題をしたりして、ママが心配したり困ったりつい怒ってしまったりします。もちろん子供たちは日々少しずつ成長していますが、親は子供に至らない点があると、次々と心配になってしまうものです。

この状況をゲーミフィケーションで解決してみようとして作った遊びが「まほうカード」というものです。以下に内容を説明します。

【目的】

親が心配している、子供たちのいろいろなことの成長を促進させる。(例えば、兄弟ゲンカを減らす、遊んだ後片付けるようになる…など)


【遊びのルール】

何かをがんばれたとか、いいことができたとか自分で思った日は、まほうカードを1枚だけ引くことができる。その日、引いていいかどうかは本人に任せる。(駄菓子屋の「ブロマイドくじ」みたいに、食卓の横につるしています。)

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カードには、「もってたら〇〇ができるようになる」みたいな効果と、子供たちの赤ちゃん時代や幼児時代の写真が載っています。

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以上です。

【実際に起こったこと】

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最初の日に引いたカードがたまたま姉と妹それぞれの性格にぴったりで、しかも最近できるようになってきている内容が出たため、2人とも喜びました。実はこれは半分仕込みで、初日はいい偶然が起きやすいカードだけを入れておきました。偶然は偶然ですが。

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そうしたら、「ああ~早く明日また引きたい~!!」と言い出しました。(設計通り)

そして翌日、昼間はいつも通りケンカばかりしていましたが、夕方になると、「カードを引くためにお手伝いする」「やさしくする」と言い出して、風呂を洗ったり、2人で仲良く遊ぶ内容を工夫しだしたりしました。で、「今日ウチらがんばったよね!」と言ってカードを引きます。(このように、不純な動機で適当に小さな一歩を踏み出すという動き、設計通り)

そうして日が経っていくうちに起こったことを箇条書きで紹介すると、、

◆それを叶えたいときにカードを取り出すようになりました。例えば、悲しいことがあって泣いてしまったときに、「泣きにくくなるカード使いたい…エーン」みたいに言いながら部屋に行き、そのカードを持ってきて見つめていました。

◆引かない日が出始めました。たいていは、何か理由をつけて引いていましたが、悪いことをしてしまったなどの自覚があったら引かない日も増えていきました。

◆相手のカードをちょっぴりうらやましく思うことが起きました。それにより、自分が入手できずに相手が入手できた効果を意識して自分に起こそうとしていました。例えば姉が、妹に出た「字がもっとうまくなれるカード」を欲しがって、結果的にいきなり字の練習をし始めたりしました。

◆姉妹でカードを交換し始めました。同じ効果の文言をたまに2つ入れておいたら、同じのが出たときに相手にあげたり、交換したりするようになり、その流れで、お互いのカードを見せ合ってそれについておしゃべりをするようになりました。

◆ママも引き始めました。実はこれも想定はしていて、大体のカードはママに当たったとしても、親目線で自分ゴトとして成長させたいと思える内容にしてありました。例えば、自分の服を着こなせるとか、がんばれるとか、ママも「やった!頑張れる!」とか子供に言いながら、自分の気づきとしても捉え、その姿を見た子供も何かしら別の気づきを得たかもしれません。

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そんな感じで、現在も我が家では「まほうカード」が流行っています。(ちなみに、1日1枚手に入るというペースが飽きにつながりそうに感じたので、途中で在庫を切らさせて、しばらくして袋を変えて「第2弾登場」みたいにしました。ビックリマン方式ですね。)


以上の話を例えとして、(これ以下は興味のある方向けに、)ゲーミフィケーションとは何かの本質をお伝えしたいのですが、

ゲーミフィケーションとは、「つい」やってしまい、その結果現実世界における「気づき」がもたらされること


です。ちなみに合わせて言っておくと、最もやってはいけないのが、プレイヤーの行動をコントロールする力を働かせようとすることです。それをするとだいたい破綻します。自発的にやり、自発的に気づき、結果的に行動変容が起きて成長してしまうことの連続が、ゲーミフィケーションです。

条件は、①「つい」という発動条件と、②「気づき」が得られることです。それではこの2つが起こる設計において重要なポイントをそれぞれ挙げます。


①「つい」やってしまうようにする設計のポイント


1.interesting(面白い)

当たり前のことですが、面白くなければ「つい」やったりはしないですよね。まほうカードの場合は、もう覚えていない自分たちの赤ちゃん時代の写真を絵柄にすることで、それを見るという面白さを生み出しています。もちろんこれは我が家だけの面白さであり、商品化などを考える場合は普遍的なコンテンツを作らなければなりませんが、身内に仕掛けるゲーミフィケーションには内輪ネタが非常に有効です。例えば会社で盛り上がるのにも、メンバーの小さい頃の写真とか知られざるプライベートとか、そういうことを絡めていくのは「面白い」を作りやすいです。


2.Commomsence(やらされ感や無理矢理さがなく、自然である)

例えばある日、「これから毎日晩御飯の後にゲームをするぞ」と父が宣言し、日常と少し距離があるルールがいきなり導入されると、子供でも戸惑う可能性があります。まほうカードは、普段から家でもお手紙交換や工作などの遊びをやる習慣がある家庭であれば、その日常に沿う形の遊びになっているので、「こんな変なことしたくない」とはなりません。


3.affordance(勝手にやりたくなり、続けてしまう環境や知覚情報がある)

「やろうよ」と促す必要がある時点でゲーミフィケーションからは離れていきます。この遊びの仕掛けは、見るからに引っ張りたくなる、紐に穴の開いたちぎりやすそうな袋を食卓の横にぶら下げておくだけです。これで必然的に、カード集めが勝手に始まります。また「1日1枚だけしか引けない」という唯一の制約や、カードに少ない割合でハズレっぽいカードを入れることにより「明日も引きたい!」という意欲が起こるバランスを設計して、継続されるようにしました。

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②「気づき」が起こるようにする設計のポイント


1.Metacognition(自分を客観的にみることになる)

人が観察したり分かったりすることが一番難しい対象が「自分自身」です。普通に生きていると自分のことが本当にわからないものです。「あいつは話が長い」と人に文句を言っている本人が一番話が長かったりします。ゲームの中に、自分のことを振り返って見ざるを得ないタイミングを作ると、気づきが発生します。


2.Dialogue(必然的に他者、あるいは自分自身と話すことになる)

1の「客観視」も、自分自身との対話ではありますが、それよりやりやすいのが、他人との会話や相互意思伝達が起こることです。何かを質問したくある、自分のことを見せたり話したりしたくなる、感想を言い合いたくなる、などの仕掛けを作ります。

ちなみに僕が開発に携わった「アンガーマネジメントゲーム」は、結果的に誰が何にどのくらいイラっとするか、という怒りのツボを分かり合うゲームですが、「私はこれにイラつきます」という話をさせるのではなく、このカードに書かれた怒りの出来事であの人はどのくらいイラっとするか、を数値で予想し合うというルールのみが存在し、「語り合え」というルールは一つもありません。数値を出し合うゲームをするだけで、おしゃべりが止まらなくなります。「しゃべれ」という力を働かせると、有意義なしゃべりは減ります。自発的でなくなるからです。


3.Positive(気持ちをマイナスにせず、主体的に遊ばせる

まほうカードでは文言のポジティブさにこだわり、子供がお説教だと感じて凹む可能性のあるフレーズを使わないように気を付けています。すでにできている内容の割合を多くして、褒めや勇気づけにつなげ、ときどき「できていない」と自覚するような苦手なことを混ぜて「まほうでできるようになる」と思いこむおまじない的心理効果(薬で言うプラシーボ効果のようなもの)を生みだしています。もちろん、出たカードを親が見て「ちゃんと片付けようね」とか、「ケンカしないで優しくしようね」とか話しかけて、外側からの力でコントロールしようとはしません。

目的は、気づきを得るためには主体性を持って自発的に臨むことが必要で、主体性を持てるようにするには感情をマイナスにしてはいけないということです。

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ゲーミフィケーションが上手くいかないあるある3選

失敗例も挙げておきます。よくある例を出すと、「仕事をドラクエみたいにしよう」みたいなことを考えるケースが散見されます。経験値やレベルなどの数値を設定して可視化したり、課題を敵キャラとみなして倒すためにアイテムや情報を集めたり…などのような考え方ですが、こんな場合に起きやすいズレが、以下のようなものです。「ドラクエ化」でなくても、あるあるなので、自分の例に置き換えて振り返ってみてください。

1.ゲーム上のポイントは上がるのに現実の能力が連動して上がらないから、冷める

ゲームとゲーミフィケーションの違いであり、効果のないことをやってしまう一番の例です。仮にポイント集めが「つい」やってしまう面白いものになっていたとしても、ポイント集めのゲーム部分と、現実の行動という結果部分がまったく連動していないので、「気づき」が起こりません。

例えば子供にドラクエ風ゲーム教材を与えても、ゲーム部分のポイントが毎日増えていくのに、いつまでたっても勉強部分での自分に変化が起こらないと、破綻します。結果をコントロールしようとせずに、面白いゲームを用意することを100%にして、その中で無意識に小さな気づきを積み重ねていくようになっている必要があります。何度も言いますが、結果として起こしたい行動変容や成長を、力で起こそうとしてはいけません。行動変容や成長は、本人に委ねるしかなく、しかしいろいろな気づきを積み重ねれば必ず結果は出てくるものです。プレイヤーを信じて委ねることが前提の仕掛け作りという意識が大切です。

2.ゲームではダメージを受けても痛くないが、現実は心身にダメージを受けるということを忘れている

例えば企画プレゼンが通らない状況を「仮想敵」として攻略することを考え、「クライアントが竜王だから、みんなで倒すぞ!」みたいに言っても、ゲームのドラクエは死んでも痛くないから何回戦っても快感が得られるのに対して、現実で失敗したり怒られたりすると傷つくし疲れるし痛みを伴うため、そこをゲームそのものにするとやりたくなくなります。他のことをついやってしまう結果、普段ならダメージを受けてしまうはずの活動を上回る快感を得られる行動が発生するのがゲーミフィケーションです。前述のアンガーマネジメントゲームの場合も、「お前のイライラするツボを言え」となると、言いたくないカミングアウトになってしまいますが、数値当てゲームで「え、なんでそれの怒りポイント5点なの?」とみんなに聞かれると、自己開示してみんなに話を聞いてもらうことが快感になり自然に話し始めます。その主体性が生じた結果、本人の中に気づきが生じます。

3.「ゲームや遊び」だと思った瞬間、その優先度を目の前の忙しい仕事より低くしてしまう

特にビジネスの世界では、遊びを不謹慎とか無意味とか思う人が圧倒的に多いのが現実です。その中で自然な行動にするために、仕事の中に溶け込んでいるゲームを用意することが大事です。勉強やトレーニングでも同じです。「今勉強が忙しいんだからゲームなんて!」となるようなものはゲーミフィケーションではないですよね。大体の場合、「これをやりましょう」という行動を指示するルール設定では上手く行きません。仕事現場でのゲーミフィケーションだとしたら、それは「仕事」になっていないといけないと思います。そのなかで、「ついやりたくなる仕事である」かどうかがポイントになってきます。

社会人にゲーミフィケーションを仕掛けるには


先述した通り、我が家の「まほうカード」の例は、子供だから「まほう」みたいなことでハマる遊びを作ることができましたが、忙しい大人が働く会社で「まほうカード」なんてものはなかなか受け入れらません。子供と大人は違います。では、例えば会社という忙しくて真面目で評価を求められる環境の場所では、どんなゲーミフィケーションを設計すればいいのでしょうか。

僕がいろいろな会社のチームや個人の行動変容と成長をゲーミフィケーションでお手伝いしているときに用いる常套手段があります。それが、「みんなでゲーミフィケーションを作る」というゲーミフィケーションです。端的に言うと、研修ゲームを自分たちで一本完成させるということですね。

例えば、会話が少ない職場で会話を増やすゲーミフィケーションを仕掛けるときに、特に多いのはおそらく「朝の朝礼でお題カードを引いて、それについて当番の人が語る」というアクティビティだったりすると思います。こういうのをそもそも雰囲気の悪い職場で導入しても、イヤイヤやられるので変化は起こりにくくなります。

それをやるとしたら、全員でなくまず選ばれた数人のメンバーでもいいから、「この職場で会話が増えるゲーミフィケーションを仕掛けよう」ということを組織公認の仕事として担当します。「上手く行ったらそれを研修プログラムとして他の会社にも販売してみちゃおう」などとすると、ワクワクして面白くなってきます。そして、会話を増やす方法を考えようとすると、経験や情報を集めるために自分たちが普段話さない人と話してみる必要が自然に生じます。だから、まず一歩目としてこのゲーム作りを担当した人たちの会話が増えるわけです。まさにゲーミフィケーションですよね。そして徐々にこれに巻き込む人を拡大していけば良いです。

「みんなで新規受注を取る営業をする」ためのゲーミフィケーションを仕掛けるなら、そのみんなで、新規受注を取る研修ゲームを作るプロジェクトを立ち上げれば、それを検証しながら完成させるために新規受注を取りに行ってみなければならないし、それを実業ではなく試験研究としてとらえられるので、痛みを感じにくくなり、失敗してもその例を持ち帰れる快感が生じます。

我が家のまほうカードの例も、僕はカードをぶら下げてみただけで、実は子供たちや奥さんも巻き込んでみんなでゲーミフィケーションを作っている途中です。

まとめ

大前提、ゲーミフィケーションとは、プレイヤーを無理矢理変える力を働かせることではなく、「つい」やってしまうことを用意し、小さな「気づき」が起こり続けるようなコンテンツを用意し、行動変容や成長が勝手に起こるようにすることです。

そしてそのおすすめの方法の一つが、「ゲーミフィケーションをみんなで作るというゲーミフィケーション」です。

すぐには難しいかもしれませんが、この記事でいろいろと書いたことの中からヒントを拾って意識しながら、日常の課題が自然と改善していく遊びを作ってみて頂けるとうれしいです。

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