見出し画像

いつもより外が眩しかったときの話。

大学生の日常の中に
必要以上に睡眠を長く取るというものがある。

”必要以上の睡眠は寿命が下がる”という逸話も
大学生にとっては都市伝説以外の何者でもない。
特にこれを信じる大学生は社会における
マイノリティに分類されるだろう。

___________________

俺も例外になく”必要以上に睡眠を取る”一人だった。

週平均で2日しか外に出ず、万歩計をつけていれば
50歩も歩いていないだろうと
仮説が立つくらいの生活を送っている時期があった。

大学2年の8月だった。

何をやっても憂鬱で、
外から差し込む光から逃げる生活だった。
世で言う”うつ状態”に近いものを患っていたように感じる。

外との繋がりを断つ紺色のカーテンが
より部屋の空気をどんよりとさせた。

___________________

この頃の俺は何をやっても人のせい。
ダサすぎて思い出すと反吐がでるが、
この時期があったから今頑張れているところはある。

あのときの自分を肯定するほど俺は人ができちゃいない。
それでもあのときの自分を肯定しようと
もがくリトル下地には
夜眠る前と起きた朝に日々賛辞を送っている。

そして自分がこうなっているのは
誰かのせいだと勝手に敵を作っては
自分を正当化し、毎日好きな本を読んで
自己満で満たされた生活に幸を感じていた。

同じ自己満でも、
利己的な自分の想いに何も疑いはなかった。
”自分が幸せだったらいい”
そう思う日々だった。

そして毎日、
何かに縛られている”不自由さ”を感じていた。

___________________

アスファルトから陽炎がかかる
ある猛暑日のことだった。

午後の昼下がりに目を覚まし、
何を考えたか覚えてないが
ふとカメラを手に取って外に出かけた。

アスファルトから上がるモヤに
目を眩ませたあの情景が
今でも頭の中に蘇る。
なんであの日だけ覚えているかは
自分でもわからない。
とにかくその日は外に出たい衝動に駆られた。

自分でも不思議になるくらい
高揚した気持ちで一本道をまっすぐ進み、
大通りを左折して川沿いに向かった。

当時吸っていたタバコと
携帯と財布、そして一眼レフを首にかけて
川沿いのベンチに腰を下ろした。
ちらっと目を落とした天気予報には
”34”と言う数字が表示されている。
通りでこんなに汗をかくわけだと
妙に納得しながら自販機で買った
アイスコーヒーを喉に流した。

そしてただなんとなく、
レンズから向こう岸を覗き込んで
数枚シャッターを切った。

その中の1枚に、野良猫が数匹、
じゃれあっている写真が映った。
その1枚を見た時に俺は
何故だか"羨ましい"に埋め尽くされた。

”こいつらは自由だ。
何にも縛られていない。
時間にも、お金にも、
周りの人(猫)にも、自分にも”

そしてタバコに煙をつけて、
ひと吸いして、なぜか泣いた。
なぜか、泣いた。

誰にも縛られてるはずないのに
なんで自分はこんなに窮屈なんだろう。
7.5畳の紺色のカーテンに塞がれた世界の外側には
こんなに自由な世界が広がっていることに気付いた。

難しいことは考えずただただぼーっと
その野良猫たちを見て思った。
俺はもっと自由に生きていい、と。

___________________

その次の日、確か木曜日だった。

大学に行って休学届けを出した。
きっと、この大学という”世界”も
紺色のカーテンで外の世界が塞がれているはずだと
見えない世界のカーテンを開けた。

妙な高揚感があり、不思議と不安はなかった。

大学の教務課と支援課がある棟から出て、
食堂を横切り、大学の門をくぐって
遠くの山を眺めた。

いつもより外が眩しく感じた。

そして自分がなぜか笑ってることに気付いた。

俺たちはもっと自由だ。
そんなことを考えていた大学2年の夏の終わり。

いつもより外が眩しかったときの話。

この記事が参加している募集

頂きましたサポートは、今後のキャリア支援活動(読書サークル運営費、学生団体運営費、学生のキャリア支援等)に使わせて頂きます。より詳細なものにつきましてはまた追って発信致します。よろしくお願い致します。