月桂冠の魔法少女 #8 奇妙な集会 conventus inusitatus
注意点
・以下に登場する人名、地名、団体などは実在のものと一切関係がありません。
・作者の経験不足により、魔法少女よりも特撮のノリになる恐れがあります。
・歴史上の人物をモチーフにしたようなキャラクターが出てきますが、独自解釈や作者の意図などで性格が歪められている可能性があります。
・作者がラテン語初学者のため、正確な訳は保証できかねます。
前回までのあらすじ
魔法使い見習いバイト初日、晴人はアグリハルス(略称ハル)という名前をもらった。魔法トーメントゥム・オードゥム(秩序の火砲)を使ってみるも以前出したような特大の炎は出ず、自分の無力を思い知る。その後迷い込んだ不思議な森の中でカエサと似た人物と出会い、世界を渾沌にすることを誘われる。危うく乗りかけるも、ウィアナが制止した。ハルの心境やいかに… というわけで第8話スタート!
(作者は夏休みのはずなのになんでいつもよりギリギリに書いてるんだろう…)
#8 奇妙な集会 conventus inusitatus
「オタクの日曜の朝は早い。」
「朝から何やってるんだ、ユリ。」
前回、晴人のバイト初日の朝。由利亜はパジャマ姿でダイニングの椅子に座る。
「何気ない休日も、ナレーションがあったほうが気分が上がるでしょ。」
「わが妹ながらわからない…。」
日曜とはいえ、晴人たちの両親は忙しく、作り置きの朝食がラップをかけて並べてある。ラップをはがし、ご飯と目玉焼きを口の中に流し込む。
「この食事もすべてあの時間のため。阿具里由利亜さんは、妥協を許さない。」
「そういう独り言はやめとけっていつも言ってるだろ。」
「…失礼いたしました、熱盛と出てしまいました。」
ペコリ。
「…。」
(一体由利亜の頭の中はどうなっているんだ…、)
「午前9時、とうとうこの時間がやってきた。その前の女児向けアニメにも興味はあるが、なかなか手を出せないままでいる。しかしそんなことは今はどうでも良い。とにかく目の前のヒーローを応援する。それが私達に課せられた使命だから。と、言うわけで、私、由利亜はナレーションを辞め、普通の女の子に戻ります。」
ヒーローたちの戦いを、由利亜はまばたきも惜しむくらい、集中して観ている。
「行ってきます。」
「どこへ行くの?」
テレビを観たまま由利亜が問う。
「まだ…観てたのか。」
晴人が半分呆れたように言った。
(やっぱり、社会の特撮に対する目はまだまだ厳しいものがあるね。でもここは相手を非難するより、特撮の魅力を伝えよう。)
「まぁね。そろそろ私も卒業かな…って思うけど、日曜の朝になればわかる。特撮からしか得られない栄養があるんだなって。シリアスな雰囲気に陽気な返信音。この対比が心に染みるね。」
「…よくわからない。」
「(しまった…マニアックな楽しみ方を教えたせいで、布教に失敗した…何か別の話題を)それよりどこに行くのさ。」
「バイ…ちょっと散歩にな。」
「珍しい。某氏が武道会で一回戦を突破するくらい珍しいね(ここまで早口)。夕飯までには帰ってきてね。」
「・・・わかった。」
晴人はドアを開け、外に出る。
戦隊まで観終え、時は10時。
由利亜はSNS徘徊を始める。
『最近始まった戦隊が批判されている…気持ちはわかるが、それは直近の作品が面白すぎただけであり、今回のはむしろ王道を往っていていいではないか。子供がヒーローに救われる、その子供の視点をしっかり持っているのは…』
長文のお気持ち表明ポストをした後は、アカウントを切り替える。
アカウント名:土台@女性が作る民主主義の土台!○○党は民主主義を返せ!
プロフィール:会社役員、ニュージーランド人のパートナー、二児の親B。デマ、偏向報道を許さない。
フォロワー:2964 フォロー:334
「フン、やっぱりばかばかしいね。でも、好きだよ。」
TLを見ながら軽くつぶやき、次のポストをする。
『先週、役員に女の子が一人増えた!会議もスムーズに進むし、メンバーとの関係も良好。立場だけのオスは早く退けばいいのに。これがわかれば女性議員もきっと増える。』
途端にいいねが3。共感のリプに共感の返信をし、またもアカウントを切り替える。
アカウント名:こくし@我が国を守る
プロフィール:※ポストは個人の発信であり、私の所属団体と関係ありませ ん。
大好きな国を守りたい。パヨ、売国奴は国から出ていけ。権利の濫用を許さない。
フォロワー:2282 フォロー:810
「思想のシャトルランで、こっちまで頭が悪くなりそう。」
さっきの自分のポストを引用し、次のようなポストをする。
『嘘松乙。男性議員にも優秀な人はいるし、あなたの会社の事例だけで世間を知った気になるな。』
途端にいいねが5。今度は共感のリプに加え、批判的なリプも飛び交う。
共感のリプには共感の返信をし、批判的なリプには反論を飛ばす。
『女性の方が頭いいって海外の研究で示された。』
『ソースは?』
段々と、各々のフォロワー同士が戦うようになる。
その様子を見ながら、由利亜はポップコーンの袋を開けた。
「これが見たかったー!渾沌に満ちたインターネットが!」
人と人とを戦わせる、この一見サディズムに似た行為を、由利亜は楽しんでいるのであろうか。
「ん?」
由利亜は何かに気づく。
『これだからこどおじは。日曜の朝もヒマなんだねww』
『売れ残り女の負け惜しみ乙www』
段々と、攻撃は相手の人格まで及ぶ。
(・・・。)
ポップコーンを頬張る手を止め、最初のアカウントに戻す。
アカウント名:百合の花
プロフィール:電子の世界の自由を満喫中。アニメ/特撮/美少女ゲーム、この世はコンテンツで溢れている。
フォロワー:71 フォロー:364
(電子の世界は、現実の自分から離れて自由になれる。なんでみんなわかってくれないの…。)
一人寂しさを抱え、由利亜は家を出た。
「いらっしゃいませ!何名様でしょうか。」
ファミレスの中、ショートヘアのウェイトレスが訊いた。
「1名、私のお友達が既にいる。」
由利亜は答えた。
「かしこまりました。ご友人の席へどうぞ。」
「ロサちゃん、5番テーブルお願い。」
「わかった。すぐ行きます。」
ウェイトレスは慌てて他のテーブルへと行く。
「遅いぞユリアーナ。」
スーツ姿の中年の男が話しかける。
「時間通りに来るようなら、こんな社会不適合者の集まりに来てないよ。」
ため息をつきながら、由利亜は答える。
「それもそう…なのか…。まあいい、ナナが来ていないところだが、会議を始める。」
テーブル席には由利亜と、その中年の男と、ガタイのいい老紳士、そして白衣姿でメガネをかけた女がいた。
「ナナは用事だそうだ。乙女はいろいろ忙しいと言っていたな。これじゃあ、華が足りないじゃないか。」
老紳士が白衣の女の肩に手を伸ばす。
「フンッ、」
白衣の女は手前のPCに夢中になりながらも、老紳士の腕を振り払う。
「まったく最近の若いもんは、冗談が通じないな。はっはっは!」
「お客様、大声は他のお客様のご迷惑になりますので…」
さっきのウェイターが注意する。
「おっと失礼。ところで君、これからドライブにでも行かんかい?」
「ありがとうございます。ですが…」
ウェイターは口元を緩ませ、少し喜んでいるようだった。
「誰川(だれかわ)、それくらいにしておけ。」
スーツの男が制止する。
「ああ、すまん大同(だいどう)殿。今のは冗談じゃなかったんだけどな。で、議題は何だ。」
「ああ、それはな…」
「イカ墨のパスタ一つ。」
由利亜がウェイターに注文する。
「こんな時に注文するか?普通。」
「まぁ、逆張りオタクだからね。話は聞いてるから、進めてよ。」
「まったく。渾沌を目指しているとはいえ、組織自体がこれじゃあ、埒が明かない。それで議題だが…お前たちも知っている通り、滝の宮夏祭りがあと2か月後に迫っている。」
「ただの祭りがどうかしたの?」
「忘れたのか。我々の計画はあの祭りに向けて進んでいるのだぞ。」
「ああ、興味なさ過ぎて忘れてた。」
「ユリアーナ、お前はなんでここにいるんだ?」
呆れた大同が訊く。
「誘ったのは大同さんでしょ。私はただ、居心地がいいからここにいるだけだよ。」
「・・・。まぁ、いいだろう。」
「そんな大事な話なら、なぜこんな人の多い場所で行うのだ?」
誰川が口をはさむ。
「ああ、秩序の連中は、どこで俺らを見張ってるかわからない。俺らの言葉がどこで盗聴されているかもわからない。わからないなら、盗聴されている前提なら、騒がしい場所の方がいいと思った。」
「なるほど。」
ガヤガヤとした店内で、会議は続く。白衣の女はPCに夢中だし、由利亜は興味がなさそうにパスタを巻いている。誰川が少し質問することがあっても、基本は大同がずっと話し続けている。会議とは名ばかりの、大同からの情報共有であった。
「と、いうわけだ。詳細は追って連絡する。わかってくれたか?」
「重々承知した。メリケンサックの少女と戦えるのが楽しみだ。」
誰川は満足そうにうなずく。
「わかった。」
由利亜は興味がなさそうだ。
白衣の女は親指を立て、それだけで返事をする。
「何度も言っているが、最後に確認だ。この計画では、最後が白紙になっている。街を渾沌に陥らせた後は、わかっているな。」
「ああ!」
今度は全員がうなずく。
「お会計4950円になります。」
「現金でお願いします。」
「かしこまりました。こちらお釣りの5050円となります。」
「ああ、それと…」
大同は、ウェイトレスの少女に耳打ちする。
「ロサさん、いや、瀬宇薔薇さん。今日のこと、セナさんに伝えておいてもいいですよ。」
「!?」
「何でもありません。それでは。」
大同とその一行は店を後にした。
「呼ばれたので来ました、ナナさん!」
雄舞がナナの前で車を停める。
「また、期待外れの男だったわ。」
ナナが渾沌の力を分け与えた男は、またもや魔法少女たちに倒されたらしい。
「そうでしたか…。乗ってください!」
「ええ、いつもありがとう。私のアッシー君。」
「それ、どういう意味ですか…?」
「もう通じないのね。」
雄舞はギアをローに入れ、スムーズに発進した。
「だいぶ発進が上手になったわね。」
「ありがとうございます!ナナさんの特訓のお陰です!」
「ふふ…。」
ナナがほほ笑む。
「私は…まだやれるのよ。」
「何か言いました?」
「何でもないわ。」
次回 哲人ちゃんの理性 ratio de sapientem-chan
サムネイル画像 wikipedia日本語版 『オドアケル』
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