「犯人当て」的なミステリの論理を数学と対比させる構造を持つ連作短編集である。 読後すぐに法月綸太郎、麻耶雄嵩、綾辻行人ら京大ミステリ研出身の作家たちの強い影響を受けていることが分かる。
各作品は「連続体仮説」「フェルマー最後の事件」など数学史上の有名な数学概念が表題になっているが、もちろん難解な数学の理論がそのまま作品の内容と関係するわけではなくて、数学概念はいわば比喩的に作品内容と関係するにすぎない。 そういう意味ではこれはロジックというよりはガジェットあるいはレトリカルなものともいえるのだが、そもそもミステリにおいてのロジック(論理)とはそういう類のものであり、ミス研後輩でもある法月綸太郎氏が言い出したことで知られる「後期クイーンにおけるゲーデル問題」 などというものもそういう類の比喩にすぎないわけだ。
ただ、私にとって「文学少女対数学少女」が面白かったのはこの作品集が小説内「犯人当て」といういわば入れ子的なメタ構造を持ち込んでいること、そして、その「犯人当て」 の内外で駆使されるさまざまなロジックやレトリックが何十年も以前の学生時代に毎日考えていたことを思い起こさせることになったからだ。