レズビアンの女性を中心とした、4人の女性の物語。「エンジェルズ・イン・アメリカ」連想させる長編演劇 ムニ「ことばにない 前編」(宮崎玲奈作・演出)@こまばアゴラ劇場
宮崎玲奈作・演出によるムニ「ことばにない 前編」をこまばアゴラ劇場で観劇した。上演時間4時間半(休憩時間を含む)というので観劇中に集中力が持つのかどうか若干危惧しながらの観劇だったが、左側の壁側の席で休憩時間抜け出すのに少し気を使うなどということを除けば時間の長さは苦にならない。世間の差別に晒される同性愛者(レズビアン)というともすれば重く感じられる主題を取り扱いながらも、作品自体は楽しめるものにちゃんと仕上がっていて、長尺ということも含めてエイズ禍のもとでの米国の同性愛者らを描いた「エンジェルズ・イン・アメリカ」*1を連想させるところもあった。
作者は今作のあらすじを上記のように紹介しているが、あらすじ通りに直線的に物語が描かれるというわけではない。4人の関係性はそのアイデンティティーが現在進行形で揺れながら存在するものとして、できるだけ同性愛で一般にイメージされるステレオタイプを避けるようにそれぞれの人物像が丁寧に描きだされていく。遺書のように残された草稿により自らがレズビアンであることをカムアウトした先生以外にも登場人物として複数のレズビアンが登場するが、男/女あるいは異性愛者/同性愛者のような対立の図式に解消されてしまうことをできるだけ避けようという意図がおそらく作者にはあって、この作品の中ではそれぞれの違いにスポットライトが与えられており、それが逆説的に観客に同性愛とは何かを考えさせる仕掛けになっている。
一方で非常に分かりやすく同性愛差別を行う女性国会議員なども登場する。こちらは分かりやすくステレオタイプな悪役として登場するためちょっと鼻白むところもあったが、最近の報道を見るとそのモデルとなったと思われる国会議員がもっと分かりやすい問題発言を連発しているため「わざとらしくてリアリティーがない」とも言いがたいかもしれない。
主人公の女性たちが上演しようとする演劇の上演を妨害するために稽古場である市の施設を借りられないように圧力をかけたりしてくるなど彼女は本当に分かりやすい悪役として描かれている。どちらかというと登場人物の人物設定がキャラ的には淡白なこれまでの宮崎作品だったらありえないような性格付けだが、そういう人物の存在が観客が引き込まれる要因とはなっていてテレビドラマの続きがみたくなるようにこの後に続く物語の展開がどうなるかに楽しみにさせている。こういう大衆性もいままでの宮崎作品にはあまり感じなかったことだ。今回の「ことばにない 前編」は宮崎玲奈の新境地を感じさせた。来年上演されるという「ことばにない 後編」が今から楽しみである。
*1:
2021年
・喜界島サンゴ礁科学研究所に演劇ワークショップサブ講師として参加
・青年団若手自主企画vol.88宮崎企画『東京の一日』作・演出
・ムニ『カメラ・ラブズ・ミー!』作・演出
・出版社さりげなく「さりげなく定期便」3/100に、短編「虫」寄稿
・俳句四季8月号「後世に残したい戦争を詠んだ一句」執筆
・第11回せんがわ劇場演劇コンクールに出場、ムニ『真昼森を抜ける』作・演出・演出家賞受賞
・青年団若手自主企画vol.86宮﨑企画『忘れる滝の家』作・演出
・SPA!特集「ニッポンを変える100人」に選出、演劇部門、徳永京子選(2021.1.5)
◆2020年
・宮﨑企画映像配信作品『回る顔』作・演出
・文学ムック『ことばと』vol.2短編小説『蟹いいよ』掲載
・青年団若手自主企画vol.81宮﨑企画『つかの間の道』作・演出
◆2019年
・ムニ『メモリー』作・演出
・大学卒業制作として『須磨浦旅行譚』を上演。作・演出
※令和元年度北海道戯曲賞最終候補作品選出
◆2018年 ※2018年まで、宮﨑莉々香として活動
・次なる舞台俳優のための育成プログラム〈Ship〉2018 記録係
・犬飼勝哉『木星のおおよその大きさ』演出部
・青年団・こまばアゴラ演劇学校”無隣館”『革命日記』演出助手
・ムニ旗揚げ公演『川、くらめくくらい遠のく』作・演出
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