エラリー・クイーン「青の殺人」(原書房)
エラリー・クイーン「青の殺人」(原書房)を読了。エラリー・クイーン名義だが、作者は短編小説の名手として知られるエドワード・D・ホック。クイーンの作品と考えれば重厚さが足りないなどの評はうなずける部分もあるけれど、クイーン(フレッド・ダネイ)の監修をへて、エラリー・クイーン・ミステリマガジンなどを通じて弟子筋*1のエドワード・D・ホックが割とまっとうなフーダニットを書いたということになると興味深い作品といっていい。
ホックのアイデアかさらなる原案があるのかははっきりしないのだが、探偵の設定がハードボイルド仕立てとなっていて、出てくるモチーフが芸術的なポルノグラフィー映画であるとか、それを撮った映画監督を探しにきたハリウッドのプロデューサーが殺されるなどの筋立てはクイーンが好んで書いたものとは異なるが、かといってエドワード・D・ホックの短編作品も描かれた世界の多くは牧歌的で、この物語には組合による労働争議や女権論者らによるポルノ反対のデモ行為なども出てくるが、そういうものはクイーンもホックもあまり取り上げなかった。それでいてその取り扱い方は英国のミステリ作家のルース・レンドルや米国の現代ハードハードボイルド作家がそうであるように現代社会を描く一環というほどのリアリティーは感じられないのが物足りなくもある。
ミステリとしては犯人を絞っていく過程がオーソドックスな消去法となっている。論証過程でのツイストもある。ただ、スプライズドエンディングというほどの仕掛けはないので、どうしても短編的なアイデアなのではとの感は否定できないが、犯行現場にいたという推論がなされた人物が実は犯人ではなくてというプロットはクイーン的と言えなくもない。とは言え、犯人がつかまった後に探偵が明らかにする事件の背景の部分でのアナグラムを使った推理が一番クイーンぽいかもしれない。これも明らかに短編ネタだと思うのだが……。
*1:1962年12月には『EQMM』に初めて作品を発表した。その年以降、全作品数の約半数にあたる450編以上を『EQMM』に掲載。
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