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「今決めた将来の夢が進学後に変わらないという保証はないから、『志望理由書』は書けません」と言うあなたに教えたいこと【志望理由書対策】

更新日:2024/12/12

 小論文・作文指導者の〆野が普段の添削・採点指導で教えている、作文・小論文・志望理由書作成における実践的な技法をレクチャーするのが、このシリーズ【文章作成の実践】。

※記事内に広告があります。

(〆野の自己紹介はこちらから見られます。)


「将来の夢が大学に入ったら変わるかもしれないこと」は、対する「大人」にとって「織り込み済」のことである。

「将来の夢は進学後に考えます」ではない。志望先はあなたの「『今の』将来の夢」を聞きたい。

 一般選抜に向けて、受験生は今「追い込み時期」といったところでしょう。後もう少しの辛抱。毎日大変な思いをして勉学に取り組んでいると思いますが、受験生諸君、頑張ってください。

 さて、今まで上掲の記事などで「将来の夢」について、いろいろとお話しをしてきましたが、本日はタイトルにあるように、「今決めた将来の夢は進学後に変わるかもしれないから、将来の夢が決められず志望理由書が書けません」と言う人に是非お話ししておきたいこと、についてまとめていきます。拙い文章でも、やや漠然とした将来像でも、書いてくれればまだいいのですが、毎年見かけるのが「今将来の夢を立てたところで大学に行ったらそれが変わるかもしれないから、将来の夢は大学進学後に考えます。したがって、今は書きません(書けません)」という志望理由書(?)です。でも、「そういうことではない」のです。何がどう「そういうことではない」のか、そんなお話しをしていきます。

 まず、高校生のみなさんにお話ししたいのは「大人を見くびってもらっては困る」ということです。どういうことかと言うと、「将来の夢が大学進学後に変わる可能性」は織り込み済で、「あなたの将来の夢は何ですか?」と志望先は聞いているのです。「今決めても変わるなら、今決める意味がない……」ではなく、大人(志望先)は「変わることはとっくに前提として聞いている」のです。

 面接官としてみなさんの前に立つオジサンやオバサンにも、当然高校生や大学受験生の時代がありました。何もオジサンやオバサンとして、彼らは生まれたわけではありません。みなさんよりも先に大学受験の経験をしています。その中で、最初に決めた「将来の夢や目標」が変わるなんてことは、いくらでも人生上で経験しているのです。中学生の頃の夢、高校生の頃の夢、大学生の頃の夢、そして就職するときの夢、また社会に出てから転職するときの夢……、成長し人生のステージが変わるたびに、将来の夢が変わっていくことを大人たちは身をもって知っています。ですから、この高校生のときに決めた「将来の夢」が変わるなんていうのは全く「想定内」のことであり、「織り込み済」のことなのです。

 では、それでもなぜ、「今の将来の夢」を大人たちはみなさんに聞くのか、それはその生徒の将来についての展望や計画について知りたいと考えているからです。だから、「しょせん将来の夢は変わるのだから今考えても無駄だ」ではありません。大人は「今どのような自分の将来の夢を持っていて、どういう動機からその大学や学部・学科を受けたのか」をみなさんに聞きたいのです。初志貫徹で自分の将来の夢をかたちにできる人はそれはそれで立派ですが、一方で多くの人が自分の人生ステージに応じて「将来の夢」を変えていくことはほとんどの大人は知っているのです。

「将来の夢」は学びと共に変化していくのが当然。

 ここで、ある文学作品のとある一シーンを紹介します。阿部暁子著『パラ・スター〈Side 百花〉』のあるシーンです。

(なお、Side百花は百花視点の話。Side宝良は宝良視点の話です。)

 ネタばれにならない程度に、この本のあらすじを紹介すると、「高校2年の時交通事故で脊髄損傷し、車いすでの生活を強いられた宝良(たから)を救ったのは、百花(ももか)が勧めた車いすテニスでした。そしてそれをきっかけに、百花は、親友で車いすテニス選手の宝良のために最高の競技用車いすを作りたいと考えますが……」という話です。そこで、百花は車いすメーカーに就職するために、とある車いす制作会社の面接試験を受けます。そこでの一シーンです。

「山路さん(百花)は、競技用車いす部門への配属を希望しているとのことですが」
「はい。友人(宝良)が最高のプレーができるような、いい競技用車いすを作りたいです」
「それでは、君島選手(宝良)がもし将来的に競技をやめたら、あなたにとっても車いす作りは意味がなくなるんですか?」
 予想もしていなかった質問に、え、と声がもれた。

阿部暁子『パラ・スター〈Side 百花〉』より※カッコ内は〆野の注。

 百花は、自分の将来の夢として「いい競技用車いすを作って親友を支えたい」ということを述べました。しかし、面接官から「ならばその親友が車いすテニスをやめたら、あなたも車いす作りをやめるのか」という意味合いのことを返され、答えに窮します。そこまで先の将来を考えていなかったからです。ここで、百花は自分の思いに迷いが生じてしまいます。

 しかし、この一部始終を同じ面接官として見ていた藤沢由利子(この会社の社長)は、この質問をした面接官(小田切)に「そういう小意地の悪い質問で若者をいじめるのはよしなさい。」と諫めてこう言います。

「人が何かをめざすきっかけは本当にさまざまだし、それはたいてい身近で個人的なものだったりします。ただきっかけはきっかけで、その人の意志をすっと規定するものではないでしょう。年月と経験を重ねるごとに仕事への思いは変化していく。あなたもよく知っているようにね」
 由利子がやわらかく笑いかけると、小田切は少し黙ってから「その通りです」と声を落とした。

阿部暁子『パラ・スター〈Side 百花〉』より

 この社長(由利子)が言ったことがまさしく、ここで高校生のみなさんに伝えたいことです。きっかけはごく身近な個人的なことで全く構いません。小学校の頃の担任の先生に憧れて自分も小学校教諭になりたいと思った、でも全く構わないのです。ただ、これはきっかけに過ぎません。この先の人生で、「小学校教諭よりもなりたい仕事」が見つかるかもしれないのです。なぜなら、その将来の夢は「その人の意志をずっと規定するものではない」からです。ですから、受験時に決めた将来の夢や目標が大学進学後に変わることは、全くあり得ることです。そしてこの社長が小田切に言ったように、こうしたことを「大人はよく知っている」のです。「将来の夢」が学びと共に変化していくことを、大人は自覚しているのです。

まとめ ~将来の夢は成長と共に変わるのが普通。将来の夢が今後変わっても、あなたはうそをついたことにはならない。~

 「将来の夢は今決めても大学に行ったら変わるかもしれないので、大学に行って多くのことを学びながら将来の夢を決めていきます」という回答は、どちらかというと真面目で慎重な考えの生徒に多いような気がします。言いたいことはわかりますが、志望先の採点官や面接官が聞きたいのは、そういうことではありません。「今あなたがどういう目標や動機からこの志望先の受験を決めたのか」について聞きたいのです。

 したがって、もしかりに、あなたが大学進学後に、そこで掲げた将来の夢とは違う夢を見つけて歩みだしたとしても、それを「うそをついた」などと咎める人は誰もいません。なぜなら、多くのことを学んで成長していく中で将来の夢が変わることが当たり前にあることを、わたしたち大人は自らの経験を通じて知っているからです。

 ですから、今の段階で考えられる範囲のことでよいので、志望理由書を通して、大いに自信を持って自分の将来の夢について語って欲しいと思います。


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〆野 友介 | 教育系noter | 小論文・作文指導者| 志望理由書の作成指導も |
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