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その埋蔵品に関する複数の資料


 小説家の日記

 5月27日(火)  ニュースで殺人事件が取り上げられているのを見た。なんでも男が道を歩いていた女性に手をかけたそうなのだが、男は「細くて回ってたものが迫って来る夢を見てから記憶が無く、自分がやったのではない」と供述してるらしい。人を殺しておいていざ自分が捕まるとなると、こんな稚拙な嘘が人から出てくるのか。呆れを通り越して愛おしさすら感じる。まあ、なんにせよ近所なのは物騒だからやめてほしい。






実習生が教授に送ったメール

 今日搬入されてきた埋蔵物の中に見たことないものが何個か来ました。先生ならなにか分かるんじゃないですか。ご教授くださいよ。すぐそばにその時代の祈祷師と見られる人骨があったそうなのでおそらくそれ系の道具かと。私の指くらい太い釘みたいなのとかあってウケました。興味あったらセンターに寄ってみては。あとタイミングあったら飲み行きましょうよ。


教授が実習生に返信したメール

 明日か明後日ぐらい時間ありそうなので行ってみます。が、酒をせびるために呼んだのだとしたらめっちゃ怒りますからね。というか下戸にせびるんじゃありません。






小説家の日記

 6月2日(月)  「なんでもない日のプレゼントの方が嬉しいでしょ」と、N子が嬉しそうに包みを渡してきた。ただの汚いペンのようだが、どうやら文才が授かれるお守りが施されているらしい。有名な神社で買ったらしくどうやら中々値は張ったそうだが、それなら何か家電とか有用なものがよかった。とりあえず使いはしないが筆入れにしまっておく。



 6月4日(水)  商店街の横道のぼろい掲示板に「狼煙屋」という張り紙を目にした。おそらく占い師のようなものだと思うが、下の方に生霊とか呪いとか書いてあった。なるほど、「呪死」屋というわけか。こんな物々しい店が近くにあったなんてな。小説のネタになりそうだし今度取材がてら行ってみようか。



 6月5日(木)   N子が夜逃げをした。おそらく1年ほど同棲していたのだろう。思い返せば面倒くさい女だった。最初は好きな時にヤらせてくれる女がいるのはありがたいと思っていたが、だんだんと、生活だの結婚だの未来だのをセックスのたびに聞かされるのは滅入っていた。置手紙に「許さない」とか「天罰が必ず下る」とか、こんなベタなことよく書けるなあと少し驚いた。殴れるラブドールを失うのは少し惜しいが、夜逃げの3日前にプレゼントを寄越すほど情緒が狂っている女など自ら消えてくれて助かるというものだ。






教授が実習生に送ったメール

 センターに行ってきました。なんと僕もあれが何か分からなくて驚いています。君のメールが酒のためだけではなかったことにも驚いています。調査の結果、人骨は500年前のものらしく、保存状態はかなり良さそうです。君がウケていた釘のようなものは当時の筆記具のようです。これからちゃんと調べてみますが、もしかしたら結構な発見かもしれません。もし本当にそうだった場合、飲みに行ってあげましょう。






小説家の日記

 6月10日(火)  せっかく部屋が広くなったので大学時代の仲間を何人か家に呼んだ。地元の新聞に勤めている田中に、何か情報リークして盛り上げてくれよ、と言ったところ、「警察の人に聞いた話なんだけどさ」、と。どうやら最近何らかの罪を犯した犯罪者の言い分に「尖ったものの夢」というのがちらほらいるらしい。この前近くで起きた殺人事件の加害者も似たことを言っていて、警察は何か関係があると睨んでいるのだそう。どうせ捕まったやつがテレビで見たことを真似しているだけだろうに。お巡りさんも夢の中を捜査するんなら大変だ。






陰謀論を主に取り扱う雑誌の特集(一部抜粋)

 ・・・の事件もそうだった。ニュアンスの差はあれど、みな全く同じ内容を取り調べで供述しているのである。・・・宝田製薬会長が警視庁の重鎮たちを名指しで批判したことは記憶に新しい。そのやり返しとして、警察は加害者に無理矢理嘘の供述をさせ、「加害者は宝田製薬が製造している薬物を使用していてこうなった」とでも発表するつもりなのだろう。そして、これによって宝田製薬会長を陥落させようとする、『警察の陰謀』なのである! それにしても「細く長く尖っているモノが回転しながら自分のところに迫ってきて、それに自我を乗っ取られてしまったんだ…」などと幼稚な嘘を言わされる加害者も、被害者の一人である・・・






小説家の日記

 6月14日(土)  「狼煙屋」に行った。駅から少し歩いたところの古いアパートの一室がそこだった。結論から言うと収穫は無かった。占い師の見た目は30手前くらいのOLのようで、振る舞いは非常に鬱陶しかった。内装は怪しげと言うより、暗めの雑貨屋のような感じで、つまり普通だった。呪いの方法、種類、道具について尋ねてみたが、企業秘密だのなんだのとはぐらかされた。録音する価値のある内容はひとつも無かった。






小説家の携帯に残された録音(一部抜粋)


 再生

「チラシに呪いってあったんですが具体的にはどんなことをするんですか?」
『え〜具体的には、答えられないんですけど、あの、それは一応、企業秘密ということになっているので〜〜エヘヘ』
「…どんな道具を使うとかだけでも教えてもらえませんか?出来れば目にしたいのですが。やはり五寸釘とか藁人形とかですかね。」
『いや(笑)さすがにそんな古典的なのは(笑)ないですね~~ん〜まあ、なんというか、ウチは特定のモノしかとりあつかってないので~』
「特定のものっていうのは?」
『え~~~それはやっぱり言えないですぅ~、なんていうか、お客様の信頼とかあ、ネタバレとか色々あるので、あ、でも、ヒントは~、すっっごい昔のものです!』
「というと、化石とかですか?」
『わ、するどい~~(笑)でも化石ってゆうより出土品?って感じ? はい!これ以上は秘密ですぅ~~エヘヘヘヘ』
「?、はあ。じゃあここの名前である狼煙屋についてですが、呪いに死ぬと書く『呪死』の意味もありますよね。そんな人を殺すような物騒な呪い本当にあるんでしょうか。」
『それは~なんてゆうか~~、結局死につながることはあるかもしれないんですけどぉ~、ウチでできる呪いってゆうのは、その、対象の人に直接かけるっていうか、その、ものがあって、それが、こう、その人に来るように仕向ける?って感じなんでぇ~』

 停止








6月23日月曜日の新聞の地域面(一部抜粋)

 ・・・自称小説家の30代男性(無職)が殺人の疑いで県警に逮捕された。・・・男は取り調べに対し「あれは尖ってて細長かった。それが来て、どうしようもなかった。俺じゃない。」などと容疑を否認している様子。当局は・・・






週刊誌のインタビュー記事(一部抜粋)

 ・・・知人であるTさんに話を伺うことができた。「昔から女性関係で良い噂は聞きませんでしたね。最近じゃ同棲していた女性に暴力を振るっているってのも風のうわさで・・・一応小説家を名乗ってましたけど、まあ所詮は自称ですよ(笑)こうゆうのあんまり笑っちゃいけないんですけど、そういや彼、筆箱の中に文才が上がるシャーペンなんかいれてましたね(笑)・・・









のちに発表される考古学論文(一部抜粋)

 ・・・この筆記具が21世紀後半の、一部の祈祷師または呪術師が行った儀式において、重要な役割を担っていたとされ、・・・以上にあげた形状、機能、素材、製造年代が一致または近似していることから、写真2のシャープペンシルの名称は「クルトガ」であると考えられる。・・・しかし、なぜこの筆記具が、本来の用途ではなく、また呪術の道具として使用されていたかについての資料は未だ発見には至っていない。・・・現段階では「クルトガ」を「来る咎」とする説が有力であり、・・・



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