おまえはその本を読むべきなのか

 よくきたな。おれはラブクラフト嶋田だ。おれは生まれてこのかたバカみたいな量の本を読んでいる。なぜか? ブエノス・アイレスには、本を読まない男にできることはなにも無いからだ。本を読まなければ、おまえは日々低速のWi = Fiでネットフリッコスを見ることしかできず、真の男の生きざまをしることもなく、ほとんど空っぽのビール瓶をいきおいよくあおり、年老い・・・・・・やがてマチェーテを手にしたトレホに襲われてしぬ。

ラブクラフト嶋田先生プロフィール:
真の男でコラムニスト。H. P. ラブクラフトとも嶋田久作とも何の関係もない。

本を読まずにガンガン意見を書け

 しかしお前は本を読まないだろう。たしかに本を読むのは時間とか精神力を使う。お前はギタを練習したりうしの世話をするのにそれらを使わなければいけないかもしれない。というわけで今日はおまえのために「読んでいない本について堂々と語る方法」という本の話をする。この本は一見、真の男なら手に取るべきではない、青びょうたんの雑学ぶんこか何かから出版されたような題名をしているが、じっさいはちくま学芸文庫から出ている。ちくま学芸文庫は真の男のための文庫だ。タランティーノも「日本のちくま学芸文庫は最高だよ! 」とゆっていた。

 この本には何が書いてあるか? まず、おまえは3つのDOGMAを打破しなければならない。

その1: 本はえらい。
その2: 本は最初から最後までぜんぶ読むべき。
その3: 読んでない本についてあれこれしゃべってはいけない。

この1から3まではぜんぶうそだというのが、おまえより先に図書の荒野をわたったこの本の著者ピエールが、いまわの際に、酒場のおやじに言付けておまえに遺したメッセーズだ。本を読んだか、読んでいないかというのは、生きるか死ぬかのようにふたつに割り切れるものではない。まだワイーンを1杯しかのんでいない精悍なガウーチョと、もういくらのんだか思い出せないぐらい呑んでいる酒臭いあほ。「酒をのんだ」というだけで同じだと言えるか? そんなわけはない。そこにはLEVELとか濃度みたいなものがあるのだ。

 ピエールは書物どうしのれんらくを知ることもまた大事だとゆっている。その本を読んだことがなくても、何時代の作品だとか、どれどれの神話をもとにしているとか、どんな手法が使われているかとかがわかっていればだいたいの難局は切り抜けられる。ジョイスのユリシーズを読んでいるやからなんかラテン・アメリカにはいない。あれは大学校のおくの方に住んでいるやつが読むものだ。おまえがユリシーズについて知っておくべきことは、長いこと、オデュッセイアと対応していること、意しきの流れを用いてダブリンのまちと出来事が克明にえがかれていること、この3つだけだ。ジョイスを精神分析批評しているやつらもぜったい「ユリシーズ」を読んでない。だがそれでいい。お前も読まないしあいつも読まない。それでも批評はできる。

将棋を指せ

 つぎに将棋の話をする。おまえの理解(UNDERSTAND)の助けになるからだ。将棋界では、A・I (アー・アイ)をつかった研究がさかんになっている。A・I は今や人間よりもつよい。しかしA・I はイモータン・ジョーのように千駄ヶ谷のオアシッスを支配しているわけではない。A・I と人間は共存の道を選んだのだ。今やトップ棋士がA・I をつかって研究をする。

 だが中にはA・I 研究をしない長老もいる。ではその長老たちは時代に取り残され、若者のA・I 新手になすすべもなく撃ち抜かれ、しぬのか・・・・? そんなことはない。長老たちは、若者の指し手を見ることによって、A・I のけんきゅうを二次的に摂取していることになるのだ。それはHIP・HOPのサンプリングのようなものだ。キングジェームスバージョンを聴いてるガンスリンガーはブエノス・アイレスにはひとりもいないが、BUDDHA BRANDが「人間発電所」のトラックに採用したからR・E・A・Lなラッパーなら誰でも知っている。うまい採掘屋がいれば、いまでも70年代のわけわからんゴスペルとソウルの混合したバンドーをきくことができる。二次摂取はすごい。なぜならお前はまだベビーフェイスで、自力でキングジェームスバージョンを発見することはできないからだ。頼れるおとこの勧めはどんどん聴け。おまえ自身を鍛え上げろ。そして生き残れ。

あとはがんばれ

 つまりは何か。おまえ一人の力で本を読むことにこだわる必要はないということだ。本は見えを張るために読むものではない。ブチョの手下が「あのですね、ぼくはアリストテーレスぜんぶ読んでるのであなたよりえらいんですけど! あほ! 」とかゆってくるかもしれないが無視しろ。お前が読みたい本だけよめ。めんどくさそうな本はあらすじだけウィキペッディアで調べろ。書を捨て、アンデスの頂きをのぼり、おまえの考えを鋼鉄のように丹念に鍛え上げろ。そしてうしを飼え。


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