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短編ホラー小説『あなた』       ~粘着者~

前書き


 概ね、このシリーズは「男女」を出来るだけあやふやにしていきましたが、今回のこの物語は完全に女性による女性の為の、女性に恐怖をお届けし提供させて頂きたいと思います。
 が、当然のようにまた、今回も見ないで下さい。読まない方がおススメです。絶対に見ないで下さいと強調させて頂きます。モテ女子は特に、似た経験があるかもしれませんのでそういった傷が癒えていないのなら尚更です。
 本当に不快にさせます。責任は一切負えませんのでご承知下さい。

 そして、恐怖と言うよりもなかなかの『嫌悪感』に溢れたいという方だけはオススメです。きっと、後悔させてみせます。

 どうぞ、勇気がある紳士俶女の方のみ、お進み頂ければ幸いです。⇩


※演出の一つとしまして、この回に目次は非表示とさせて頂きます。
 文字数は計約6,000文字です。


目覚め


「・・・ぅう・・・え・・・なに??」

 ・・・やぁ、おはよう。目が覚めたかい?具合はどぉ?

「目が・・・開かない?・・・ここは?」

 ここは病院のベットの上だよ。君は交通事故に遭い重症だったんだ。

「事故?!・・・あなたは、お医者様?」

 えぇ、そうです。声に聞き覚えはありませんか?

「はい、全く無いです・・・え?私は、事故?どんな?」

 事故の記憶が無いということですか?まぁ、結構大きな事故でしたからねぇ。

「事故・・・私は・・・え?私は??」

 ・・・??
 どこまで覚えていますか?

「全く・・・思い出せない・・・私は・・・・・・」

 『君』は事故で左半身の腕や肩、足、そして一時的だが目も損傷していた。大丈夫、手術は成功したよ。もう少しすれば見えるようになるよ。

「私は・・・誰??」

 ・・・そうか、頭部も強い衝撃を受けたから、記憶障害が起きているんだ。とりあえずは落ち着いて、安静に。しっかりと診ていてあげるから。今はとにかく身体の回復を優先しよう。ご家族や友人には連絡してあるから安心して。記憶の方は後でゆっくりと解決していこう。一時的な記憶障害の可能性が高いだろうから。後でちゃんと精密検査をしよう。今日はまだ疲れているだろう。
 ゆっくりと、今はおやすみ・・・・・・


入院 二日目


 検査の結果、脳に異常は見られまんでした。事故前後のショックと頭部への衝撃により、やはり一時的な記憶障害だと思われます。

「・・・そうですか・・・あの・・・左腕と足の感覚がないのですが、どうなってますか?」

 ああ、左側からトラックが突っ込んできたからね。まだこちら側はギプスや金具で繋がっているからきっとそれだ。無理に動かしてはダメだよ。安静にね。

「ありがとうございます」

 右腕の方はどうだい?

「はい。動かしたり重力は感じるのですが、触った感覚・・・触覚がいまいちよく分かりません」

 神経系になんらかの負担が掛かっているね。痺れや痛みはどうかな?

「あ、はい、痛みはないですが、痺れのようなのはよく感じます」

 まだまだ無理はダメだね。
 ・・・あ、食事の用意が出来たみたいだ。食べさせて貰えるからしっかりと食べて、元気になるんだよ。

「はい、頑張ります」


入院 三日目


 ・・・ああ、おはよう。
 今日は午後からまた手術をするから、しっかりと睡眠を取っていてくれ。体力勝負だよ。頑張ろう!


入院 五日目


 手術は成功したよ。安心して。

 ああ、そうだ。昨日、ご家族の方が来られていたんだけど、術後だったのもあり帰ってもらったよ。また来るって言っていたし、経過が良くなれば僕の方から連絡することになっている。みんな心配していたよ。頑張って元気な顔を見せれるようになろう!

 今から注射するから、またすぐに眠ってしまう。また明日、いっぱいお話しよう・・・・・・


入院 六日目


「・・・あ・・・んん」

 おはよう、よく眠れたね。

「おはよう、ございます」

 今はもうお昼過ぎだよ。お腹、空いたかい?

「ああ・・・まぁ・・・えっと、手術は、どうでした?」

 もう、ばっちりだよ。後は回復を待つだけなんだが、本当に楽しみだよ。

「・・・今度は右手の感覚がないのですが・・・・・・」

 まだ麻酔が残っているんだね。起床したばかりだし交感神経が鈍っているのもあるんじゃないかな。なぁに、そんなのは直ぐに回復するよ。
 ほら、食事は喉を通るかい?必要な栄養は点滴で接種はしているが、胃腸から吸収される栄養の循環は他の内臓への活性化になるから、口からの食事は大切だからね。

「あの、ここの方は『あなた』お一人なのですか?」

 ・・・いや、看護師や他に医師も多く居るよ。

「なにか・・・静かで他の人の気配みたいなのが全然なくて」

 ・・・今もこうやって君に食事を口へ運んでいるのは看護師の方だよ。細菌の無駄な感染をさせないために、無駄な会話を禁じているんだ。ほら、君、彼女の肩を叩いてみてやってくれ。

 ・・・ポン・・・ポン

「・・・他の患者さんは??」

 ここは一人部屋だよ。君をこんな事故に巻き込んだ『加害者』の方は全ての自身の過失を認めていて、全面的に君の回復に協力してくれているんだ。だから君は今後の心配もなく治療に専念していいんだよ。

「・・・目は、目の包帯はいつ取れますか?」

 どうだろうねぇ、どう?痛みや何か異常はありますか?

「いえ、全然、大丈夫です。目を瞑ったまま眼球を動かしても違和感も無いです」

 そうかそうか。明日にでもCTやMRIをまた撮って診察してみましょう。その結果次第だね。

「・・・分かりました」


入院 十一日目


「いつになったら目が見えるんですか。腕も全然動かせないんですけど?!」

 ・・・経過が良くなくてね。残念だが、まだ少し掛かりそうだ。

「家族はどうなってるの?誰も来ないじゃない!『あなた』、治す気なんてないんじゃない?」

 酷いことを言うねぇ。僕が一番、君のことを案じて思っているよ。

「この!・・・包帯を取って!・・・この・・・あんたの顔を見せなさい!」

 落ち着いて・・・お注射しようか。安らかに眠れるからねぇ・・・・・・


入院 十二日目


 あんまり動いちゃだめだよぉ、傷が開いちゃうからね?

「あなたは何者?!ここは何処よ!」

 私は医者で、ここは病院だよ?全く、何を言っているんだい?

「うそよ!ずっと変な臭いがしているわ。清潔感を感じない臭いよ!それにいくら個室だって言っても静か過ぎる!他の面会者や入院患者の物音ひとつしないのはおかし過ぎる!!」

 ここの従業員にはしっかりと教育をしているからねぇ。この個室も一般病棟ではなくて特別室だから、外部とは離れているんだ。

「私は事故の被害者なのよね?じゃあ警察や保険屋が事情聴取に来るはず!それも無いなんて変でしょ?!」

 面会は医者の判断の元に下されるんだよ。僕がダメと判断したなら例え警察でも入れないさ。
 ・・・この調子じゃまだまだ”ダメ”だね。

「・・・!!あなたの声・・・どこかで聞いたような・・・・・・」

 ・・・プスッ・・・・・・


【監禁】 三十日目


 いやぁ、こうやって、君と一緒に過ごす時間を待ち望んでいたんだぁ。全てを共有してさぁ。食べる物も、共に吸う空気も、過ぎる時間も、そして生も死も。お互いがお互い次第という運命共同体。最高だぁ!♡

「・・・あなたの声・・・凄く不快だわ。吐き気がする。なんで・・・何故・・・・・・」

 今日は少しモルヒネを点滴に入れようねぇ。きっと、気持ちよくなるからさぁ。”お互いに完治”したら、他の薬物も共有して楽しもうよぉ♡。

「マジ、気持ち悪い。この嫌悪感・・・どこかで私は経験している。私の耳元でいちいち喋らないで!本当に気分が悪いわ!!」

 もう、その怒った顔や声も素敵だぁ。大好きだよぉ♡。
 ・・・ペロォ・・・チュッ♡。

「やめろぉぉぉぉぉ!このサイコ野郎ぅ!!」

 ・・・ん?
 ・・・拒絶反応を少し起こしているね。免疫抑制剤を少し増やそうか。


監禁 二か月後 『私』


 私はもう少しで何かを思い出せそうでいて、なかなか出てこない。
 自分の名前や家族のことなんかは思い出してきたの。このことはあの医者なのかどうかもわからない男には言っていない。でも、最近の記憶がまだ出てこないことがとにかく恐ろしいわ。

 事故・・・私は本当に事故をしたの?車はおろか、バイクの免許も取っていない私が??

 絶対『あいつ』は嘘を付いている。

 足はずっと何かで縛られている。その感覚がある。両手の感覚がまだ無い。どうなっているのか・・・・・・

 目の眼球を動かす感覚がある。失ってはいないようだけど・・・怖い。なんとか『あいつ』への怒りで恐怖を誤魔化そうと必死なの。でないと自分の置かれた状況を考えてしまうのが恐ろし過ぎて挫折しちゃそう・・・・・・

 あいつのイビキがすぐ近くで聞こえる。隣で寝てやがる。今の内の何とか出来ないだろうか。

 ・・・くっ!相変わらず首しか動かせない。

「・・・ぐぅー・・・ぐぅー・・・ぐがっ!・・・グスッ、ああ・・・おはよう、起きてたの?ごめんね、寂しかった?」

 ・・・・・・

「大分と経過が良くなったよぉー。・・・さて、今日はお待ちかね、目隠しを取ろうか!やったね!楽しみだろ??」

 こいつ・・・何をそんなに楽しんでいるんだ。ムカツク。

「ちょっと、起き上がろうか。・・・よっこいしょっと!」

 身体が急に、強制的に起き上がった
 起こされた??

「さぁ、待っててねー、今包帯を取ってあげるよぉー」

 頭の包帯の圧力が徐々に緩められていく。こいつの顔を見て確認するや否や唾でも吐きかけてやろう。

「さぁ、明かりは豆電球にしてあるけど、ゆっくり目を開けるんだよぉ」

 そんなことは言われなくても分かっている。本当に虫唾が走る言い方と声だ。
 オレンジ色の優しい豆電球の明かりで、確かに目が痛むことは無いが焦点を合わせることにまだ苦戦している。全体がぼやけて輪郭の把握が難しい・・・・・・

 ベッドに座っていて、シーツの下にある自分の足がなんとなく分かる・・・その向こうの壁には額縁・・・なんらかの絵か・・・絵の内容、詳細はまだ見えない・・・右手の奥に扉が開け放たれているのが分かる・・・その先は真っ暗で電気は点いていなようだ・・・腰の辺りにテーブル・・・様々な薬品類と医療器具が多数・・・その上部に点滴がぶら下がっている・・・・・・

 右手・・・?・・・右腕が無い気がする・・・瞳孔が絞られ焦点が合ってきた・・・左手は?・・・ある。

 急に左半身に重みを感じ、重心が左へと向けられた。

「・・・ばぁ!やぁ、こんにちはぁ~♡」

「・・・キャアァァァァァァァァ!!」


記憶


 男の顔が急に左から至近距離で現れ、キツい口臭とその顔で全てを思い出した。
 人生において最悪な日々だったことを、無意識の中で思い出さない様にしていたんだろう。
 そう、私は一年も前から”この男”に『ストーカー』のように付き纏われていた。

 事故だって?違う。
 最後の記憶はこいつが私の部屋に隠れていて、必死に逃げている所を車で・・・・・・

 そのまま攫われてここに連れてこられたという訳。

 別に、私は看護師になりたかった訳でもない。本当の夢は「歌手」。歌い手だった。SNSだけの世界でちゃんと歌を評価されて有名になりたかった。ただ、看護師の免許を取るだけ取っていたら就職に苦労はしないだろうとの人生の妥協案として、夢への保険としてのただの寄り道だったのに・・・このクソ男に出会ってしまった。

 ただの「合コン」だった。本当に、心底行きたくなかったの。ずっと断り続けてきたけどでも数合わせとして頼まれて、少しは女子友とも愛想良くしとかないと色々と不便な女の世界だからと思い、嫌々に参加しただけの飲み会・・・一縷の下手な算段が無かった訳でも無い。
 友達の凛花りんかが「将来有望の医者と知り合っておくのも女の特権」とか言うから、もし玉の輿にでも乗れたら夢の歌い手への近道かなとも考えてしまったバカな私を、今の私は呪うことしか出来ない。

 その合コンで出会い、それからはこいつの訳も分からない自信家で、余程の自身の能力の低さから現れる”自慢話”を聞かされる羽目になる。

 最初は友達の顔も立てなきゃダメだろうと思って「凄いですねぇー」とかおべっか言ってたけど、DMでもそんな感じのが続くとは思ってもいなかった。ずっと無視しててもお構いなしで送ってくる。流石に怖くなってきて、せめて看護学校卒業までは穏便に済ませたいから十通に一回ぐらいは返信を無難にしていたけど、それも良くなかったのかもしれない・・・・・・

 最悪なのは、偶然なのかこいつの執念なのか、自宅近所のコンビニで出会ってしまったこと。

 その時は用事があって急いでる風に装い、あいさつだけで済ませたはずなのに、住まいがこの近所だということがバレてしまった。今思えば、その時点で私の人生は終了していた。恐らくこいつは「尾行」していたのだろう。

 DMでのやり取りではそのような素振りは見せず、今まで通りの自慢の毎日。料理では米粉から作って焼いたというパンの画像。ギターを弾き語る動画。医者として院長や後輩に頼られて困るという愚痴に扮した自慢。女友達にモテるて困ると、告白されて断ったという聞きたくもない報告。

 何もかもウンザリだった。

 コンビニで出会った一週間後ぐらいから、郵便ポストに「嫌がらせ」が始まった。

 変な液体が塗られていたり、謎のDVDが投函されていたり。挙句には私が一番嫌いな「あの虫」の死骸を入れていて、私がびっくりし怯えた途端にこいつが現れ、虫を素手で掴み外へ投げて捨てた。どう考えてもこいつの自作自演、「マッチポンプ」なのが明かだ。

「もうやめて下さい!迷惑です!!」

 と、はっきりと言ってやった。
 それからは”俺、凄いでしょ自慢アピールDM”は無くなり、一か月ぐらいは鳴りを潜めていた。

 しかし、それからは要するに「お伺い」を立てる必要が無くなっただけだった・・・・・・
 家がバレ、紳士的な仮面を被った装いを脱いだクズ野郎には、もはや常識という文字は無く人間性の欠片も無かった。


拉致


 不法侵入、盗撮、恐喝、変態行為、様々な嫌がらせ・・・・・・

 もはや思い出したことを後悔している。

 夜逃げ屋に依頼をして、その日の夜に消える手筈まで行ったのに。
 何とか学校の編入学制度の手続きを済ませて後は消えるだけだったその日、今思えばそれも後悔でしかない。もっと命の危機だということに焦りが足らなかった。車で左から突っ込んできてそして・・・これが最後の記憶。

 頭を打って意識が消える前。運転席で満面の笑顔で私に突っ込んできたこの世の最悪な笑顔。それが今、私の眼の前に・・・・・・





「・・・ばぁ!やぁ、こんにちはぁ~♡」
「・・・キャアァァァァァァァァ!!」

 私の左腕が肩から無くなっている!変わりに、こいつの胸部から頭部が縫い合わされて背後の下からこっちを覗き込むようにニヤけている。

 いや・・・腕だけではない・・・左半身、左足までも自分のではなく、このクソ男の全身が私の左半身となり変わっている!

「あ・・・ああ、いやぁぁぁぁぁぁ」

「うふふふふふ・・・これで、一生離れられないねぇ♡」

 左胸、心臓のギリギリまでは残され、それ以外の左半身と背部は全てこいつ。
 私の部分は右足と臀部、右半分の腹部に胸部と頭部だけ。
 右腕は私の・・・じゃない。私の右肩からこいつの右腕の肘から先だけが生えている・・・腕枕をしているような形で裏首筋から肩までと接合されている・・・だから、さっき起き上がる時に抱きかかえられるように強制的に起こされたのだ!


絶望


「移動がしやすいように僕は両足を残したよ。本当は全部半分づつにしたかったんだけどねぇ・・・へへへ♡。ほら!・・・よっこいしょっと。こうやって君を抱きかかえるようにしてどこでも行けるんだぁ。ランラン♪ルルゥ~♪拒絶反応がまだまだ激しいから、ずっと免疫抑制剤を打ってなきゃダメだしまだ外出なんかは無理だけど、早く密着デートが出来るように頑張るから楽しみにしていてね♡」

「・・・こんな・・・こんなこと・・・・・・」

「感動で言葉が出ないよねぇ。うんうん、分るよぉ。胃と腸の消化器系統を繋げたから、お互いが食べた食物も吸収し合えるし、君のお世話は全て僕がしてあげるから安心して♡。右腕は君を抱きかかえれる方を優先しちゃったから、こんなに短くなちゃったけどね、君の洗顔や歯磨きなんかには丁度いいよね」

「いや・・・いやいやいやいやいやぁ!!」

「血液型はお互いA型だったし、色んなバランスを考慮して今は胃腸だけの共有にしたよ。本当は肺や排泄も共有したかったけどねぇ。でもその前に・・・二人の子供も欲しいから、いつでも交尾が出来るように配置もしたから・・・おっと♡、ごめんねぇ、つい興奮しちゃってさぁ。えへっ♡チュ♡チュパチュパ♡」


 私はずっと、どうやって死ぬかということ以外は何も考えられなくなった。


「とうとう俺は・・・デミコフを越えた・・・愛しい『あなた』を手に入れ、そしてへ・・・・・・」


END


NEXT⇩ ~変死観者~


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