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【小説】『Dystopia 25』~楽園~Phase Ⅵ



Colony Ⅰ


 ライト、ウェルバー、パメラ、セーラの四人は、第1コロニー管轄の森まで移動してきた。
 その道中、木の皮や藁、動物の毛皮で衣類を作るForesterフォレスターらしき風貌の子供が鹿や猪を捕らえる用の罠に足を捕られて怪我をし、そのまま罠を抜けれずに脱水症状で死にかけていた。その罠とは人の背丈ほどの縦に穴を掘り、上に枯れ木や葉を敷き詰める簡単な罠なのだが、念のために底には尖らせた木杭や竹、鋭利に砕いた岩を敷き詰めて足を負傷させ、安易に穴から抜け出せないようにしたものだった。
 声を掛けても返事がなく、足などが血で汚れている。四人は居ても経ってもいられずにその子を救助した。どうしたものかと考え話し合ったが、四人も急ぎの旅路になり十分な備えなどなく飛び出した身であるために、パメラ達が傷の応急処置をしてからそのままウェルバーが担いで、一緒に第1まで目指してきた。

「急がないと、危ないな」

「でも、一旦は第1へ誰かが偵察してからの方が・・・・・・」

「その時間が無い。こいつ・・・汗を一切かいていない。確実に三日以上はあそこに放置されていたんだ。内臓か脳に血液が凝固して死んでしまう・・・それに俺たちの現状も大丈夫とは言えない。足跡を消しながらの警戒移動でもう二日も経ってしまった。このまま何ごとも無かったように正面から乗り込もう。こいつの今の衣類は脱がせてフォレスターであることを隠し、救助を逆に求めてみる。”普通”のコロニーであれば外壁の見張りはただのセンターで過激派ではないのが定石だ。まだ子供だし、見張りに良心さえあれば救助を優先してくれるだろう」

「そう・・・だといいんですが」

「その流れで俺たちも入っていき、騒動に紛れて消えよう」

 四人は冷静を装い気持ちを落ち着かせてから第1の外部入口、木組みで作られた外壁の中央にある大きな扉の前へとやってきた。

「・・・おぉい!誰か居ないか?!子供が重症なんだ!開けてくれぇ!!」

 ・・・・・・

 特に誰からも返事が無い。

「すみませぇん!!」
 セーラが変わりに声を掛けるが、扉からは同じく静寂しか返答が無い。
 ライトが恐るおそる扉まで近づき、聞き耳を立ててみる。肩をすかし、両手を左右で空を持ち上げた。どうやら見張りは一人も居ないようだった。

「どうします?」

「・・・仕方がないな」
 ウェルバーは行き倒れている少年をパメラとセーラに任せて、木組みの壁をライトと一緒に登り始めた。


 壁の頂上まで到着すると、ミシミシミシ・・・とロープが突っ張る音と共に、ガコンッ!と重そうな木柱を組んだ扉が動き、地面に食い込んだ下から持ち上がり出した。

 パメラとセーラは二人で少年の肩を両側から抱えながら、第1コロニー内へと入って行った。ウェルバーはその様子を上から確認すると、ライトに合図して巻型のハンドルブレーキを解除する。

 ガコォォォォン!!!

 人が潜れる程度にしか開けなかった木組み扉だったが、その重さ故にけたたましく音を立てて閉まる。その衝撃を足から揺れを感じ、ライトが少しふら付く。

「大丈夫か?降りよう」

 ウェルバーの背後には外側の様によじ登らなくてもいいように、簡単に組まれた昇降用のスペースがあった。そこから二人は素早く降りて女性陣と合流する。


 四人はガランとした第1の集落を眺めながら、少しだけ唖然とした。人の姿は疎か、気配すらない。廃れたどころか、これはもはや廃墟、廃村状態だった。

「・・・行こう」
 思考停止状態だったみんなを、ライトが起こす。

「・・・誰も居ないのでしょうか?」

「いや・・・そんな訳はないだろう。とにかく、水と清潔な布、安全な場所を確保しよう」

 一応に息を潜めながら、コロニー外側の木や藁で建てられた家を物色していく。


Nomads


 各コロニーの殆どが、中心に行くほど家や建物が石やレンガ、そして木造を組み合わせた作りになっている。外側へ行けば行くほど、土壁から草や藁といった簡易的な住居へとグレードダウンしていくのだが、そこにヒエラルキー階級は殆ど無い。どのような作りであれ、制作した者がその権利があり周囲を気にすることもなくそこに住む。外側に住む人の殆どが、そこに定住せずに各コロニーで鎖国や閉鎖宣言をしていなければ渡り住むという、ヒッピーや遊牧民のような生活をしている者も少なくない。

 フォレスター程の自由を求めず、しかし天からの恩恵である配給そのものに懐疑的な者たちが、Centerセンター教に内心、反対するように自然の動物を家畜化しその動物の恩恵で暮らす者たちがいる。彼らはこのColoniaコロニア世界という大きな意味では完全な中立者であり、何かに依存することもなく、かといって否定することもなく、人類が行う行為や人間そのものも自然の一部と考えている部分が大きい。ウェルバーの思想としてはこの遊牧民Nomadsたちに近かった。

 Nomadsノーマッドは他とは違い組織化することはない。

 正に、自然と各コロニーでNomadsノーマッドの家族、家系が誕生し各々の一族単位で移動をしている。ヤギ、豚、ニワトリを外壁の外側で間取り家畜化しているノーマッドが多く、それらの乳、肉、卵などはカミキリムシの幼虫と並ぶ「美食材」となっている。

 配給にもそういった食材はあるが、乾燥されたり加工され長期保存が可能にしてくれている。その分の新鮮さが無く各々の「美食材」を知った者からすると”味気ない”らしい。

 ウェルバー達のような「木こり」「ハンター」の様に”天然素材”を齎してくれる者は暗黙のように、みんなが重宝してくれるようになっていた。
 ウェルバーはそんな彼らのエリアで、そして彼らノーマッド達は全てのコロニーを渡り歩き受け入れられているので、誰よりも”リアルな情報”が貰えると踏んでいた。
 のだが・・・・・・

「殆どの家屋が崩れ、枯れているね」

「ああ、何日も、誰も住むこともなく手入れされずに朽ちたんだ」

「もう少し、奥へと行ってみる?」

「先ずは井戸を探してくれ。水が最優先だ」

「ならコロニーの中腹部まで行くことになると思います。大丈夫ですかね?」

「・・・俺が担いで一人で行こう。何も全員で行く必要はない。ライト、三人で取り合えず身を隠せそうな空き家と、食料の調達をしておいてくれ」

「分かった。じゃあ右側、第8寄りの家から探すから、もし何かあったら右壁沿いに来て」

 ウェルバーはフォレスターの子供を抱えながら、真っすぐに進んでいった。


「ライト様、あの子、この後はどうしますか?」

「んー、まだ何も考えてないよ。今はとりあえず人命第一だ。その後は、あの子の好きにさせると思うよ、兄さんも」

「罠・・・とかじゃないですよね・・・・・・」
 パメラが何かを心配し、不安になっている。

「罠?なんの??」

「チーターなどとは違い、積極的な危険行為は無いとは聞いてはいますが、ただ『野蛮だ』と教えられています」

「そうなんだ。僕も実際に完全なフォレスターに会うのは初めてだけど、印象は危険というより自然、素朴、野生、かなぁ。話が出来るなら変な考えが無い分、こっちが敵意さえなければ大丈夫じゃない?裏とかを考える人間よりも安心だと思う」

「・・・・・・」


Cannibalism


 ウェルバーは井戸を見つけて少年の唇を濡らすかのように、水を飲ませてく。

 両足は傷だらけで傷口に泥や砂が入り、かなり良くない状態だった。そのまま所どころ血が固まり砂などの異物を取り込んだまま治癒してしまうと、そこの血流が悪くなったり細菌が入ったままだと骨まで腐ってしまう。ヘタをすれば切断しなきゃならない可能性もある。なんとか意識が戻れば傷口の洗浄と殺菌用の薬草を塗り込むなどをして、手当をしないと破傷風を起こす。

 ウェルバーは自分も十分に水分補給し、皮袋に目一杯の水を入れライト達に持ち帰らなければならなかった。


 一息ついて、周囲を見渡す。周辺の家々は木材の支柱と石、土とで作られた壁。第6でも同じく中腹エリアの作りで簡単には朽ちることの無い家群の中に井戸があった。

 まだ夜明けから一時間も経ってはいない明朝。みんなまだ寝ているのか、それともここ中腹にすら誰も居ないのか。井戸から近い一軒の家を外から警戒しながら舐めるように見渡す。人の寝息すら聞こえない。寝起きのteaの匂い一つもしない。正にゴーストタウンのように不気味さを感じていた。

 その家の玄関前まで、息を殺しながら近づくと中から人影が動くのを目の端で捉えた。

「・・・おい」

 小さく声を掛ける。腰に添えた伐採用の手斧に手を置きながら。するとその影が勢いよくウェルバーを襲ってきた。

「うおぉ!!」

 ウェルバーは驚き、つい反射的にその使い慣れた手斧で反撃し影をなぎ倒した。手斧は右のこめかみから頭蓋を砕き、右目を飛び出させながら脳幹まで到達している。
 返り討ちにする前、その瞬間に見たその影の顔は完全に瘴気を失い、目の焦点も合わず口からは終始よだれを垂れ流す|Prober《プローバー》そのものだった。

 ウェルバーは嫌な予感をさせながら、その家屋の中に入ってみるとそこにはやはり無残に食い散らかされたここの住人であろう二体分の死体の肉片が、バラバラに転がっていたりテーブルの上に”展示”されていたりしていた。


Z Salts


 プローバーの発生原因は誰にも分からないでいたが、ウェルバーにはそれぞれの特徴があることに気が付いた。

 第3の女性プローバーは嫉妬、僻み、復讐、劣等感など、そんな精神状態から満たされることのない欲求が爆発し、気がフレた者だとレイアが言っていた。ただ、かの第3表層戦争で戦いにおいてもここ第1プローバーのように完全な獣化はしていない印象である。意思疎通はし合った上で、自分自身を狂気の世界へと落としている様子だと感じた。その中でも二極化していて、単独で落ちるところまで落ち自暴自棄になる者と、自由同盟の過激派には『集団心理』として洗脳と承認欲求を使い邪教のような新興宗教を開く集団に属する者がいるのだとか。

 第6、第5で発生するプローバーはウェルバーも見たり聞いたりしたことがあり、彼らは”何らかの理由”で「捨てられた子」や「保守過激派のセンター教の上層部」から稀に出現する程度だった。

 そして、第7での『噂』

 ウェルバーも噂でしか聞いたことが無かったが、その特徴と少し似ている。

1、殆ど、もしくは完全に理性を失っている。
2、遊ぶように人を食い散らかす。
3、捕食ターゲットに見境が無い。


 第3はどれも当てはまらない。第6、第5は自身の感情や気分で左右される。怒りや絶望、そして相手次第な所もあるソシオパス系統。
 ただ、どれも最終的には惨殺、捕食、狂気でまとめた総称としてProberプローバーとされた。


 第7は「栽培所」「農家エリア」として有名だった。

 新鮮な野菜や果物を自家栽培し、それらを嗜好品として物々交換を行っており様々な植物を育てている。医療が盛んだった第6のその底上げに至るのは、第7の様々な薬草、漢方、そして麻酔の効果がある通仙散つうせんさん。アサガオやその他の植物を調合して作られた痺れ薬で、外科的手術には必要とされる薬も第7から原料を貰っていた。

 しかし、第7の闇としてウェルバー達には知る由もないのが「麻薬」類の栽培、そして開発である。

 苗や種など、どこから得たのかはもう不明。確実に配給に含まれることは無い。ただ秘密裏に医療以外の用法を見出し、興奮剤、鎮静剤、幻覚剤などを合成していった「合成麻薬」がなぜか出回っていた。

 自然、天然物である「大麻」や「多年草たばこ」はまだ”マシ”な方で、合成された薬『Z Salts(ジーソルト)』と呼ばれる麻薬が人を廃人にしたり狂人にしてしまう。その成分は「カート」「マオウ」の草汁を粉末状にし「シンナー」「アルコール」「灯油」を混ぜた液体に溶かして注射する。少量で鎮静効果ダウンの後に興奮効果アッパー、そして幻覚が見えてくるという。

 これらの技術は元々ここ第1コロニーで開発され、第三次フロア抗争時に収束されたものの、第7で一部、引き継がれていたのであった。

 それらの影響の末に、多くのプローバーを生み出し現在に至る。


Pull a few strings


「キャァァァァァァァ!!!」

 ある屋敷の一画が悲鳴と共に戦慄が走った。血の海の中央に横たわる自由同盟の立役者だったリベルタスの無残な死体を明朝、世話役の者に発見される。

「目撃者は一人も居ません。完璧な暗殺です。見張りや護衛、合計9名も同じように喉元を一閃の一撃で叫び声一つ上げれずに即死。犯人はかなりの腕前・・・いい仕事してますね」

「・・・そうか」
 レイアは朝一番の悲報の報告を受けて、自ら殺人現場へと足を運んだ。何か落ち度や足が付くものが無いかの最終確認も踏まえて。

 そして誰もがレイアを疑う者はいない。どのような組織のトップであれ、自らが動き自らが危険な道を行こうとする者なんて見た事も聞いたこともないからである。

「一連の騒動の見せしめだろう・・・フェミス党お抱えの手練れ集、傭兵、客人の可能性が高い。至急、周辺を漁れ。生粋の暗殺者であればあるほど得物は使い慣れた物を使用する。これほどの血飛沫・・・一滴の痕跡ぐらい残っているかもしれん」

「ははっ!!」

 いつものように冷静な判断で部下に指示をする。

 リベルタルが死んでいる二階の寝室から退室し、外廊下へと出て深呼吸する。目下にはレイアの配下の者が等間隔で建物への侵入者を防いでいる。周辺の第3の民が何事かと数人が好奇心で見に来ていて、部下に事情の説明を求めている様子だった。

 この後にレイアには大仕事が待っている。暗殺なんかよりもずっと難しくて苦手な政治の話。自由同盟を他に仕切っている者たちと今回の被害者、レイアにとっては遺族への説明や説得、そして犯人の”でっち上げ”の偽装工作だった。

「犯人の目星は付いているのかね?!」「どうしてこんなことが続くの?!」「あなた達が統治し出してから、治安が悪くなる一方じゃない?!」

「・・・先ほども言いましたように、皆様方に反対している者達だと我々も認知しております。早急にフェミス党及び保守派への身辺調査を行っています」

 レイアが質疑応答をしている場に、一人の側近が裏から現れレイアに耳打ちをし出す。

「・・・なにぃ?!・・・分かった。ありがとう」

「今度はなんだ?!犯人を逮捕したのか?!」「どうなんだ?!」

「えー、詳細はまた追って報告するが、犯人の目星が付いた。私も犯人逮捕の為に直ぐ行かねばならない。とにかく、安心してくれたまえ」

 群衆が騒めき出す。レイアが集まる民衆を抑えるために簡潔に結果だけを伝えた。何人かの要人にも、お付きの者たちがちらほらと耳打ちしている。恐らく同じ情報が伝わっていると思われ、木陰でレイアの命を狙っていた狙撃手や暗部が撤退していくのがそれを確信させた。狼狽する群衆を尻目に、早々とレイアはその場を去って行った。


Evidence


 レイアにとっては計算外なことが起きた。それは『パトラの死』の報告だった。

 レイアは自らが暗殺したリベルタルの血のついた短剣を、パトラ達フェミス党が住むコロニー中心部へと続く主要道へと捨て、返り血を浴びた服を適当な家屋の床下に忍ばせておいた。暗殺犯の疑いをフェミス党へと向け、その計画が上手くいけばリサへの今後の支援にもなる。失敗したとしても自身はそのまま消え、犯人の核心的な特定が定まらない状況が作れる。レイア、リサにとっての時間稼ぎと候補者一名の消失、二兎を得れることになっていたのだ。

 レイアは状況の把握に足が早まる。

「死因や何か解っている情報はあるか?」
 報告を受けた部下に再度詳細を聞き出す。

「死因は不明のままです。ただ、外傷は一切無かったそうで病死などの自然死か、毒かもしれません」

「服毒死、そして毒殺の可能性もあるってことか。死亡の推定時刻などは分かっているか?」

「発見されたのは夜明けてから間もなく。その時点で死斑すら出ていなかったそうですので、彼誰時かわたれどきかと思われます」

「そうか・・・リサは?今どこにいるか知ってはいるか?」

「リサ様ですか?・・・ええっと、今朝はずっと見かけてませんね。・・・そう言えばパメラ様もずっとお見掛けしませんが、大丈夫なのでしょうか・・・ちょっと人を集めて探させておきます」

「・・・ああ、頼む」


「レイア!貴様ぁ!戦争は起こすは挙句、解放運動と戯言を抜かす自由同盟の奴らへの演説!!そしてパトラの死・・・我々への、そしてこの第3コロニーの崩壊を企てる気かぁ!?!」

 パトラが住む屋敷へと到着と同時に、フェミス党のご隠居したベテランお局がここぞとばかりに集まっている民衆の前でまくし立てる。

「自由同盟のリベルタルも死んだ。こちらの犯人は何処の差し金だろうな。その威勢は、まるでパトラが殺されたとでも言いたそうだけど、そうなのか?」

「な、なにぃ?!」
 お局は驚きと共に困惑を見せた。


「いいか、みんな聞けぃ!これは第3のかつてない危機だ!リベルタルは間違いなく誰かに殺された!暗殺だ!私はここに来る前にその無残な遺体を見てきた所だ。ウソでも何でもない。疑うのなら今すぐにでも見に行くがいい!まだ凄まじい血痕が残っているだろう。パトラの死因は責任を持って調査する!もし、他殺だとすればこれはもう第2、もしくは第3を侵略しようとする他の組織的な陰謀だろう!もはや自由だ厳格だと内部で争っている場合ではない!みんなの力を合わせる時だろう。無駄な憶測と争いは、今は止めろ!休戦だ!敵を見極めろ!!」

 公に、そして急にそれぞれの要人二名の死を宣言する現女帝の言葉に、その場にいた全員が状況の把握をするのに思考を使うことしか出来ないでいた。リベラル勢と同じく、威厳と威勢のあった有識者たちは事実確認をしにバラバラと引っ込んでいく。

 またもや長らしく場を収めたレイアは、玄関先からパトラに寝室まで到着した。治安部隊が現場を調べている。現場検証の二名はレイアに一礼をするが、確実にフェミス党、もしくは保守過激派の人間で間違いなかった。いくつかの質問をするが、二名共が知らずか口を閉ざしている。

 ただ、見覚えのある髪留めがレイアの足元に落ちていた。

「・・・何か見つけましたか?」

「ああ、いや、履物の紐が緩んだだけだ」

 治安部隊はそのまま室内を物色を続け、レイアはその場を立ち去った。


True love


「・・・二人だけにしてくれ」
 レイアが護衛に退室を促し、二名の護衛と世話役の一名が一礼をして出て行く。リサだけを残して。

「・・・大丈夫か?」
 レイアは先ず、リサの心情を気遣った。

「・・・はい、ありがとうございます」

 あえて言葉にはしないが、レイアはリサとパトラの関係を知っていた。質問や詰問をすることもなく、レイアはパトラの部屋に落ちていた髪留めをリサに手渡す。リサは驚くこともなくそれを受け取った。


 沈黙が続く。


 お互いが気づいていた。レイアがリベルタルを。リサがパトラを。示し合わせた訳でも無く、それぞれがあるべき姿、場所に収まるかのように考え動き実行した結果が、沈黙を作り出した。



「レイア様・・・・・・」
 外から、扉の直ぐ外から声がした。

「なんだ」

「死因が判明致しました。今流行の『Z Salts』の過剰摂取、オーバードーズにて心停止。フェミス党はこれを公表しない意向。血塗られた衣服と凶器と思われるリベルタル殺害を示唆する証拠も発見。表向きはパトラが単独で暗殺を命じ、その責任を取る形で自害したというシナリオで行くそうです」

 頼んでいた密偵からの報告だった。それを聞いたリサはレイアの前で泣き崩れる。レイアをリサを抱きしめたまま、一滴の涙を流した。


『NEXT』⇩


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