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YELLOW ⑤

 ​​​​​小学生ぐらいだろうか、

 まだあどけない少女の歌声。


 大人の女性の歌声からは、

 何事にも揺るがない

 強い意志のようなものが感じられる。


 一人、 二人、 三人・・・


 その中には

 母の声も混じっているように

 僕には思われた。


 晩年を迎えた

 年老いた母の声ではなく、


 まだ僕が小さかった頃の、

 若く初々しい母の声。


 気のせいだろうか?


 若かりし頃の母の声なんて、

 そもそも覚えているはずがないのだ。


 不意に 僕の目から

 一筋の涙がこぼれ落ちた。


 その涙は 目尻からこめかみをつたって

 未明の大地のうえへと流れ落ち、


 そして

 草原を覆う朝露といっしょになった。


 不思議なものだ。


 仰向けになったまま、

 からだを動かす気力のようなものは

 まったく残されていないというのに、


 こうやって 僕はなんなく

 涙を流すことはできる。


 僕は 深くまぶたを閉じた。




 ​​​​​マンリョウの丘を訪れてくださり、  本当にありがとうございます。  私たち一人ひとりの、心の中の草原が、  やさしい風によって、  結びつき、つながってゆくことを、  心から願っています。