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<#100文字の架空戦記>ビスケー湾海戦

フランス北部・ビスケー湾洋上

 どうやら英国人と日本人は、軽巡洋艦以下を牧羊犬として扱い、重巡洋艦以上の船を猟犬のように扱うらしい。深夜のビスケー湾、戦艦の数では上回っていたはずの独仏と合衆国義勇艦隊の艦艇の多くが炎上していた。

 世界の運命がフランス北部の海上で決められようとしていたことを理解するには、世界恐慌後の世界経済圏のブロック化とその再編成から紐解かねばならない。第一次世界大戦後の戦後不況に苦しむ欧州をしり目に世界経済の頂点に君臨した新大陸-合衆国で起きた「大不況」は、すでに物資・電信網・金融がグローバル化していたために、欧州に波及、欧州のさらなる不況は欧州諸国の植民地諸国へも波及することになる。各欧州帝国内の最大の産物消費地である本国が不況になれば、植民地からの物資に対する需要も減少する。こうして欧州から地中海を通じて紅海へ波及、インドを経てアジア、極東へ波及した。各国は経済を維持するために、それまでの自由貿易経済政策を反転させ、本国と植民地をまとめたブロック経済圏へと再編した。自国経済圏内の外貨流出を防ぐことも目的とされた。自国の経済圏が小さいブロックは自ずと行き詰まることが目に見えていた。再編成の火ぶたを切ったのはベルギーだった。本国が隣接しており、植民地諸も近いことからフラン=ブロックへ接近した。


 世界不況の震源地である新大陸は、大戦の債務を回収することで乗り切ろうとした。借金取りに対して2つの帝国は全く別のアプローチで対抗した。一つは前大戦の元凶であるドイツを締め上げるフランスと、アジアでの帝国の市場拡大を目指したイギリスであった。特にイギリスは広範囲にわたる帝国の防衛の一部を極東の同盟国に肩代わりさせると同時に、首輪をはめる意味で再び日本に接近した。日本としては、北部のソ連への脅威への対抗、自国の弱い経済圏がスターリング=ポンド=ブロックに加わることで、アジアへの権益を元手が少ない方法で得ることができた。締め上げられたドイツは、さらなる不況とインフレ上昇による政情不安、急進政党の台頭による新政権が誕生していた。経済の回復を目指す一方、再軍備宣言は欧州大陸を緊張させた。しかし、博打であったラインラント進駐がフランスとベルギーの妨害で失敗すると政権は崩壊した。ここでフランスはドイツへの積極介入を余儀なくされた。ドイツは親フランス政権のよって運営され、フランスの衛星国へと転落した。そのフランスにおいても、借金取りである合衆国の意向を強く受けていた。


 こうして世界不況からの世界再編によって生まれたスターリング=円経済圏とドル=フラン経済圏は、その誕生が半ば強引であり、経済という市民生活に直結する問題であったために、地球上の様々な地域において軋轢を生んでいた。今や経済圏の対立と競争は、経済だけでなく、軍事的問題にまで拡大しようとしていた。しかし、こうした対立は世界に緊張をもたらしたが、前大戦の記憶からその戦場を限定する動きも起きていた。どうやらインド人をはじめとした植民地からの兵士や新大陸や極東の兵士が再び欧州大陸の土の下に埋もれるような事態にはならなそうだった。どの政府の為政者もあの塹壕での日々を再び過ごすことは絶対に避けたい記憶であり、多くが従軍していた国民からは、決してそのような事態には賛意が得られないことも理解していた。各国は考え抜いた結果、海の戦いにのみ限定しようと構えていた。経済圏には海洋流通がもはや必要不可欠であり、海洋の覇者こそ、次の経済的覇者になることは明らかであった。


 ラインラント進駐失敗で崩壊した伍長の政権にかわって、親仏政権となったドイツは軍備においても、ドイツ新造艦の主砲口径には制限をかける形での再編されることになり、装甲艦(ポケット戦艦)とシャルンホルスト級巡洋戦艦の整備を進めていた。それは強大な欧州海域の覇者ロイヤル・ネイビーにフランス艦隊が挑む為の補助兵力として整備されていた。ドイツ装甲艦の対抗として計画されていたフランスの整備計画は、元々が優秀であったため、軽微な変更のみで継続された。
 英国はドイツの復活とフランスの動きに困惑していた。彼らは再びボナパルトの栄光を取り戻そうとしているのかといぶかしんだ。フランスの建造計画とドイツ海軍の再編成は、海軍休日後を見据えた「新標準艦隊計画」の計画繰り上げの決定をイギリス政府に決断させた。首相のチェンバレンは融和を模索したが、年数のかかる艦隊整備を間に合わせるため、軍部の意見に妥協することになった。こうして欧州大陸とブリテン島の間で再び建艦競争が発生しようとしていた。戦争の火種が再び大きくなっていることは、誰の目からも明らかであった。


※注釈:こちらはTwitterの #100文字の架空戦記 で投稿した駄文を加筆・修正したものです。過去のツイートはこちらにまとめておりますので、ご参照ください。

#100文字の架空戦記 とは? についてはリンク先からご参照ください。


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