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花を渡すとき

仲の良かった先輩が産休に入った。
職場で唯一気の許せる人だったと思う。
歳は10ほど離れているが、そんなの気にせずになんでも話せた。

大人になるほど、常識の範囲内がわかってくるので、人に踏み込みづらくなる。
でも先輩にはまったく壁を感じず、共通点が多かったので打ち解けるのに時間はかからなかった。


また、最寄駅が二駅ほどの距離なので、物理的な距離も、先輩との関係性を深めてくれたきっかけのように思う。


そんな先輩にお礼をしたく、出産前に前々から話していた"近所で朝活"を実現させることにした。

私たちは、互いの最寄駅の中間地点にあるパン屋で待ち合わせをした。ここは、孤独のグルメで松重豊も訪れた言わずと知れた超人気店。


私たちの共通点として、東京の下町散歩を題した番組をよく見ていたので、その頂点?ともいえる孤独のグルメが来たというのだから選択肢はここ以外なかった。

AM10:00、45分待って私たちもやっと入店した。

そして当たり前のように、2人とも松重豊がたべたサンドイッチを頼む。パンの種類は10種類ほどから選べたので、先輩はチーズリュスティック、私はごまパンにした。

そして松重豊も食べてなかった食後の
デザートまで頼んだ。朝から至福



今までは、仕事の日にランチに行くことが多く、会社の近くともあり、どこか遠慮しながら話していた。
だがここは私達のテリトリー。気兼ねなく仕事の愚痴やプライベートの話をした。


仕事の愚痴を言える人って少ない、というか
諦めてしまう。
仕事の内容から、対象の人間像まですべて話さなければならない。私の語彙力では伝わらない。

だから、仕事上で思ったことをストレートに話せるひとは先輩しかいなかった。


そしてパン屋をあとにして、わたしは気になっていた花屋に先輩を誘った。それはいつしか立ち読みした雑誌で、この駅に一度行くとまた思い出してしまう花屋があるというのだ。特集を組まれるほどセンスのあるデザイナーが話していたので間違いない。

駅前の学校の真裏、そこは花屋だけでなく、雑貨屋、ギャラリー、カフェなどが併設されていた。



予想通りの素敵な花屋には、その雰囲気には似つかわしくない、レコードショップの店員みたいなよれたTシャツを着たおじさんがいた。
レジ横にはMDが沢山並べられていた。

デザイナーがこの花屋をそう絶賛するには理由が綴られていた。それは花の性質を説明しながら、巻き紙に花の名前と色を書いてくれるというものだった。

わたしが購入した花には、トルコキキョウ「ジュリアスラベンダー」🪻と書いてあった。花言葉は希望。柔らかい雰囲気の色を選んだ。

私は、駅のホームで別れるときに
先輩の未来に希望が溢れますように」 とその花を渡した。先輩の雰囲気にぴったりの色。

先輩は泣いていた。 

私は、そう言いつつ母がつけてくれた自分の名前の由来だと気づいた。

大事なときや、大事なひと、感謝には花を渡したくなる。このひとはそんな存在だった。


先輩へ

沢山話し相手になってくれてありがとうございました。仕事とは違うベクトルで大変だとは思いますが、ご自身のお身体第一に、お子さまとの貴重なお時間をゆっくりお過ごしください。
また会えることを楽しみにいています。

希未

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