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夜中にジャムを煮る

感化されやすくて困ってます。
嘘です、困ってません。
なんなら楽しんでいます。

任侠映画を見た後は肩で風を切って歩くし
ディズニープリンセスを見た後はちょっと溜めて振り返るし
映画「ロリータ」を見た後は赤いペディキュアを塗ってうふうふする。
とにかく感化されやすい。

中でも感化されやすいのは食事。

はじめて小説「かもめ食堂」を読んだ時は
「海苔が柔らかいおむずびが食べたい!
 コンビニのパリッとした海苔のやつじゃなくて!しっとりしたやつ!!」
と、もう眠りに就いていた当時の彼氏に訴え(とても迷惑)た。
その時は夜中だったので我慢したものの
元カレは翌朝ゴミ捨てに出たついでに海苔の柔らかい系おむすびをオリジン弁当で買ってきてくれた。
私は飛んで喜んだけれど
夜中に寝ていることに気付かず訴える迷惑な彼女に対して優しすぎんか?元カレよ・・・。
私の名誉のために言っておくと
彼が寝ていることに私は気付いていなかったし起こしたことについては平謝りした。
そして朝買ってくれることなどつゆほども期待していなかった、マジで。ホントに!(2回言うと嘘くさくなるのはなんでなの?)

マンガ「3月のライオン」では第一話で豚コマのカレーライスが出てくるけれど
あまりにも美味しそうで私のお家カレーはその頃からずっと豚コマが定番だ。
この漫画の中ではカレーに唐揚と温玉を乗せる描写もあるのだけれど
そのあまりの豪華さとハイカロリーさに身もだえしながらやっぱり真似した。
だって美味しそう過ぎるんだもん(誘惑に弱い)

グルメ系漫画が流行った時期は真似したいものが盛りだくさんで
時間もお金も胃袋も足りないのだが?!と思ったなぁ。
大人気のおむずび屋さん、
お取り寄せのふりかけ、
24時間営業のお店のソルロンタン・・・。
思い返しても涎が・・・(是非拭いて?)

でも手軽にマネできることしかやりたくないので
テレビで放送されたお店にすぐに行くようなことはしない。
テレビ放送後ってめっちゃ並ぶんだもん。
並ぶのは好きじゃない。

そんな私の「感化されごはん」の中でずっと心に残っているものがある。
それはいちごジャム。

ある年の帰省からの帰り、地元の駅で
「帰りの新幹線の中で読む本でも買おうかなぁ」
と本屋に立ち寄った。
なんだか表紙が気になったという理由で手に取ったのは
平松洋子さんの「夜中にジャムを煮る」
今でこそ何作も読んでいる平松洋子さんとのはじめての出会いだった。

いくつものエッセイが載っている中で
私はその表題作「夜中にジャムを煮る」にとても心を奪われた。
少しざわついた新幹線の中で読むその文章の中には
たったひとりきりで感じる静寂が存在していて
まるで私自身もその場にひっそりこっそりいさせてもらえるように感じた。
明日から始まる仕事に感じていたほんのりげんなりした気持ち
その波立った気持ちがしっとりと撫でられていくようだった。

新幹線の中で1冊すべて読み終わり「夜中にジャムを煮る」だけ読み返した。

まぁ、今日作るわけじゃないけれど近いうちにジャム作ろう。
と思ったすぐ感化されるマンの私はいちごを買って帰った。

その夜、ご飯を食べてお風呂に入って
明日は仕事だし早めに寝ようとベッドに潜り込んだものの中々眠気がやってこない。
困ったなぁ、明日が辛くなるじゃんか・・・と思いながら何度も寝返りをうった。

寝返りをうちながら夜が深まっていくのを肌で感じていたその時、ふとひらめいた。
あ、夜中にジャムを煮ればいいんじゃない?

もうひんやりしている部屋にヒーターをつけて
手と苺を丁寧に洗ってヘタを取っていく。
いちごの半分の重量のお砂糖と馴染ませたらそのまま寝かせる。
じわりと苺から水分が出てくる30分後お鍋に移して弱火で煮る。
ふつふつ、くつくつ。
自分にだけ聞こえる音でジャムが出来上がっていく。

本の中から感じた静寂がそこにはあった。

私はコンロの前まで椅子を持ってきて小さなガスの火を眺めて過ごした。
本を読んだ時と同じようにそれはざわざわとした気持ちを撫でてくれて
少しずつ落ち着いていくようだった。

ジャムが出来上がるころ
大丈夫。と思えた。
何がかは分からないけれど。
眠い目をこすりながらジャムを瓶に詰めて眠りに就いた。

あの日の静寂を私は忘れられない。
気持ちがざわついた時、夜中にジャムを煮ようかな。
と思う。
たったひとりの決して寂しくない時間。
それがそこにあるような気がするから。

ついでに言っておくと私のいちごジャムの作り方は
よしながふみさんの「きのう何食べた?」に出てくるシロさんレシピだ。
感化されやすいマンはハイブリッドに感化されるのだ。


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