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連載「休眠預金活用レポート」VOL.5 人と人がつながる関係人口を生み出すことは 幸せな社会を創出する重要な要素

農家や漁師などの生産者と消費者をつなぎ、消費者が生産者から直接生産物を購入できる産直プラットフォーム。新型コロナウイルス感染症拡大も要因の一つとなって、その市場は大きな発展を続けています。スタートアップから大企業までが参入する市場は、戦国時代さながら……。そうしたなか国内最大級の産直アプリ「ポケットマルシェ」を運営する株式会社雨風太陽(岩手県花巻市)は、「産直EC」から「産直SNS」を目指し、販売者と購入者のつながりから一歩進んだ、食を媒介として人と人、人と地域がつながる「関係人口」の創出に取り組んでいます。
関係人口とは?関係人口が増えるとどうなるのか?休眠預金事業を活用した「関係人口研究室」ではどんな結果が得られたのか。レポートします。

関係人口を増やす!その突破口は「食」にあり

株式会社雨風太陽が産直EC「ポケットマルシェ」(以下ポケマル)を立ち上げたのは2016年9月。卸売業者や小売店を通さず、果物や野菜を栽培する農家、海で漁をする漁師などから直接商品を購入することができる仕組みは一般の産直ECと変わりませんが、その理念は「食を媒介として生産者と消費者の関係性を育んでいく」ことにあります。この理念の元となるのが、代表取締役の高橋博之さんが著書『都市と地方をかきまぜる 「食べる通信」の奇跡』で提唱した「関係人口」という概念です。ちなみに現在では、国土交通省や内閣府が関係人口の分析を行い、創出・拡大に向けた事業を立ち上げるなどといった活動が進んでいます。

さて関係人口とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々とさまざまな形で関わる人のことを指します。例えば人口が量的に減ったとしても、第二の住民として、地域のさまざまなシーンに関わる人が増えていく質的な変換がなされれば、その地域の活動は活発になるのではないか。その突破口を切り開く可能性が「食」にあるとし、生まれたのがポケマルです。

関係人口が生まれる仕組みは?そのプロセスを可視化する

ポケマルでは、最初は単なる「お客さんと生産者」だった両者が、メッセージ機能や投稿機能でのやりとりからやがて名前で呼び合い、子どもや家族、仕事の話などの話をするようになったり、生産者に会いに出かけて行ったりするような関係が生まれています。オンライン上で、なぜこうした関係人口が自然発生的に生まれるか。そのプロセスと評価指標を明確にするため、休眠預金事業を活用して2021年に発足したのが「関係人口研究室」です。

調査では、すでにポケマルに登録している生産者とポケマルのユーザーに対して、お互いに対して抱いている気持ち、起こった出来事、考え等をヒアリングし、現時点でポケマルにおいて生まれている両者の関係性を明らかにしました。生産者と消費者としての出会いから関係人口に発展していく仕組みを可視化することが目的です。その結果の一部がこちらです。

ポケマル生産者・ユーザー調査よりSIIF作成

コミュニケーションを促進する機能を持つプラットフォームを

奇しくも国は、関係人口創出のプロセスを、都市住民が地域と出会い、何度も現地に足を運ぶことで関係を深めるという、リアルでの移動を必須条件とした関係人口創出のプロセスを提示しており、ポケマルにおける「関係人口研究室」の調査分析は、それに疑問を呈する形となりました。さらには、新型コロナウイルス感染症によって移動が制限されてしまった社会では、関係人口の創出は難しいのかという新たな課題も生まれましたが、出会いのきっかけは、リアルでもオンラインでもどちらでも可能という結果が得られました。

ポケマルで関係人口が生まれる過程

では関係人口を創出するために大切なのは何か。それは出会った人と人とのつながりが続き、深まっていくこと。生産者へ直接メッセージを送ることができたり、購入者が商品や生産者への思いを投稿することができたり、「買って終わり」ではなく、人と人との対話が生まれるようなコミュニケーションを促進する機能を持つプラットフォームが、関係人口の創出に重要な役割を担っていることがわかりました。

地域や生産者との深いつながりは、ウェルビーイングを高める

色んな生産者さんに感動しっぱなし。すごく大変な想いをされているというのがわかって、温暖化で海がおかしくなっているなどというのもコミュニティに投稿してくれているので私も知ることができる。日常にあったことなどをコミュニケーションしている生産者もいるし、体調が悪かった時に励ましてくれた生産者もいた。

驚いたのは、東京都が最初に自粛しないといけなくなったとき、1回しか買っていない生産者さんから、「大丈夫?何か送ろうか?」って連絡がきた。びっくりしたのと同時にとても感動した。この感謝は絶対忘れちゃダメだと、カードとともに感謝の気持ちを伝えさせてもらった。カードを送ったら、「カードを見て泣いちゃった」とツイートしてくれて、さらに感動した。

(コロナ禍の前に)生産者さんの所に、直接遊びに行ったこともある。とても優しくて、とても頑張ってらっしゃる方で、本当にお会いできて嬉しかった。生産地の後ろが山で、前は海の絶景で、息子が生産者さんに「この前台風がありましたが、その場合どうするんですか?」と質問したら、生産者さんが「うちは大丈夫だったけど、そうなってしまったらしょうがないよね」とおっしゃっていた。息子も災害があった際に生産者さんのことを心配しているんだな、と知ることができ、食育としても本当にありがたく思っている。

生産者との関わりエピソード

ポケマルでは、食を介して人が出会う仕組み、コミュニケーションを促進してつながりを深める仕組みを同じプラットフォームで提供しており、プラットフォームを真ん中において、ユーザーが生産現場へ足を運ぶなどのリアルな機会の創出につながっています。こうした仕組みが生産者と消費者の関係性を維持し、深め、関係人口の創出につながっています。代表の高橋博之さんが執筆されたブログにも、人と人との情緒的なつながりを生み出しているエピソードが描かれていますのでぜひご覧ください。
天国にいるポケマルユーザー"ここさん"のこと

一方で、オンラインだけでは、関係人口の創出には十分でないことも浮き彫りとなりました。雨風太陽ではこの結果を得て、生産者のもとで自然を学ぶ「親子地方留学」など、リアルな体験を通して地域に関わっていく事業も立ち上げています。

生産者とつながりが深いユーザーは、幸せな状態を現すウェルビーイングが高いとの結果もあり、関係人口を生み出すことは幸せな社会を創出する重要な要素であることも示唆しています。分析結果は公表され、今後は多様なプレーヤーによって活用され、関係人口を生み出す社会の実現に貢献するものとなるでしょう。

ポケットマルシェ(ポケマル) 公式 note


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