見出し画像

社会課題解決に取り組む企業を支える金融市場とは

~提言書『社会的インパクト時代の資本市場のあり方』セミナー開催~

■ シリーズ: ESGの一歩先へ 社会的インパクト投資の現場から ■ 

画像1

3年間で約10倍にも市場規模が拡大した社会的インパクト投資。GSG国内諮問委員会がまとめた提言書『日本における社会的インパクト投資の現状』および『社会的インパクト時代の資本市場のあり方』を発表するセミナーが6月7日、Nagatacho GRiD (東京都千代田区)で開催され、ビジネス、金融、ソーシャルセクターなどから社会的インパクト投資に注目する幅広い関係者100名以上が集まった。

セッションは2部構成。第1部は社会的投資推進財団(SIIF)常務理事の工藤七子が司会進行を務め、最新レポート『日本における社会的インパクト投資の現状2018』について、執筆者であるケイスリー株式会社代表取締役幸地正樹氏が報告した。

画像2

◇司会
社会的投資推進財団(SIIF) 常務理事 工藤七子(一番左)
◇パネリスト(左から)
第一生命保険株式会社 運用企画部部長 運用調査室長 竹内直人氏
株式会社三井住友銀行 成長産業クラスター業務開発グループ グループ長 上遠野宏氏                                                                                                          ケイスリー株式会社 代表取締役 幸地正樹氏

『日本における社会的インパクト投資の現状2018』によると、2018年度の社会的インパクト投資市場規模は2016年度の337億円から約10倍の3440億円と急速に拡大。その要因として、① 野村アセットマネジメントなどの投資信託やクラウドファンディングなど個人投資家向けの商品が増えたこと、 ② 広島県と県域6市の広域連携によるソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)が導入されたこと、③メインストリームの金融機関からさらなる参 入が拡大したことなどがあげられた。今後加速する動きとして、社会的インパクトの評価ツールの標準化、SDGsの拡大、先端技術の活用などにも触れた。

また、ケーススタディとして、生命保険会社として初めて社会的インパクト投資に参入した第一生命の事例、2019年からSDGsローンを開始した三井住友銀行の事例を紹介した。

パネリストとして登壇した第一生命保険運用企画部部長 運用調査室長の竹内直人氏は、社会的インパクト投資のメリットとして、運用収益、社会的インパクトとともに、「インパクト投資を通じてベンチャー企業の持つイノベーションを生命保険に活用することも狙いの一つ」と話した。その一例として、投資先であるシリコンバレーのベンチャー企業Neurotrack社と提携して開発した認知症保険が10万件超の契約を生むヒットとなった事例を紹介。スマホの画面を5分間みつめるとAIが眼球の動きを分析して脳の認知機能を把握できる技術を保険の契約者向けサービスとして活用した。

収益面についても「インパクト投資は社会貢献に近いという意見もあるが、世の中にインパクトを与えるような事業であれば企業価値が向上しないわけがない。個人的には中長期の時間軸で捉えれば社会の課題解決に貢献する企業への投資は利益が見込めると考えている」(竹内氏)と評価した。

また、三井住友銀行成長産業クラスター 業務開発グループ グループ長の上遠野宏氏は、融資を受ける企業側のメリットについて「第三者機関がSDGsを認めることは企業にとってのIR効果があり、新しい融資を呼び込む効果も期待できる」と社会性を可視化できる点を指摘した。

第2部はGSG国内諮問委員会ソーシャルエクイティ・ファイナンス分科会がまとめた提言書『社会的インパクト時代の資本市場のあり方』をもとに、 日本取引所グループ総合企画部課長の須藤奈応氏が進行を担当し、4人の パネリストがセッションを行った。

画像3

◇司会
・株式会社日本取引所グループ総合企画部課長 須藤奈応氏(一番左)
◇パネリスト(左から)
認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会常務理事 鴨崎 貴泰氏
一般社団法人ソーシャル・インベストメント・パートナーズ 理事  白石智哉氏
ユニファ株式会社代表取締役 土岐 泰之氏
新生企業投資株式会社インパクト投資チーム シニアディレクター 黄 春梅氏

分科会発足の背景には、ビジネスとして社会課題に取り組むベンチャーの中でも株式公開によって大規模な資金調達を目指す企業や、非上場でも株式を通じた資金調達に関心を持つ経営者が増えている現状がある。そのため、2018年8月〜2019年2月まで7回に渡って当事者が集り、資本市場に照らし 合わせた課題について提言書をまとめた。

提言書では議論を深めるために、社会的課題解決に取り組む企業を①ソー   シャルIPO型企業 ②ソーシャルPE型企業 ③ソーシャル事業化準備企業の3タイプに分類。提言としては①総合的な支援コミュニティの必要性 ②投資家と企業家が出会える市場の整備 ③投資家・企業家の双方に役立つ社会性評価・評価制度の導入 ④個人投資家向けの環境整備が示された。

セッションではインパクト投資を受けた起業家および投資を実行した金融機関の事例について、当事者からの発言が関心を集めた。保育の社会課題を解決する事業で10億円以上の資金調達をしたユニファの代表取締役土岐泰之氏は「当初は銀行からの融資が受けられず、友人知人から資金を調達していたが、資金集めのために事業内容を話すと共感してもらえることが多かった。この共感を企業価値に変えることが大事だと経営者として意識するようになった。ソーシャルアントレプレナーであることは他企業と差別化する意味でも有効な武器であると感じる」とソーシャルIPOを目指す意義について語った。

後に同社にインパクト投資を実施した新生銀行投資インパクト投資チーム  シニアディレクターの黄春梅氏は「インパクト投資はややリターン目線を 下げ、ミドルリスク・ミドルリターンで捉えているが、リスクとリターンのバランスは他のベンチャー投資と変わらない。一方でインパクト評価は継続して可視化できるかが課題でもあり、国として認証制度を導入するような検討がなされるためにも、まずロールモデルが必要だと感じる」と投資する側の目線について語った。インパクト評価のツールについては日本ファンドレイジング協会常務理事の鴨崎貴泰氏が国内海外の事情について解説した。

ソーシャル・インベストメント・パートナーズ理事の白石智哉氏は「夢を語るのであれば人類の課題を解決するために資本市場を駆使していきたい。日本に足りないのは企業家であり、そのためには金融がサポートして多くの事例を作っていくことが必要である。インパクト投資自体を目的にするのではなく、社会課題を解決する企業家が活躍できるような金融市場を考えていきたい」と締めくくった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?