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映画感想:ザ・フラッシュ(ネタバレ有り)

 DCの映画を見る度に書いている気がするが、いかに製作の裏でゴタゴタが起きていようと、やっぱり気になってしまうので、なんだかんだ観に行ってしまうのだった。
 今作も正にその類で、主演俳優の問題行動や、復活を遂げたマイケル・キートンのバットマンが出演するバットガールのお蔵入り+そのキートンバットマンががっつり関わっていたが、ゴタゴタが起きたせいで再撮影、再編集されたらしいという、多くの不安要素を抱いていた。他にも、ヘンリー・カヴィルのスーパーマン引退やジェームズ・ガンによるワンマン的な仕切り直し、ロック様とザッカリー・リーヴァイの不仲騒動などなど、書き出したらキリがないほど最近のDC、というより、ワーナー周りはトラブル続きで、そういった報が入って来る度に残念な気持ちになっていた。
 それでも観に行ったのは、僕が歴代最高のバットマンと思っているベン・アフレックのバットマンの最後の出演作になるであろうことと、キートンバットマンを映画館で見たいという願望があったからである。フラッシュポイントを原作にするのならば尚のこと、バットマンは外せないキーパーソン的な扱いになるはずだと思ったからだ。

 しかし、結果は期待外れの残念な出来だった。
 なんというか、豪華なカメオ出演をさせればファンが勝手に傑作認定してキャアキャア喜ぶだろ?みたいな感じで馬鹿にされているような気がしてしまった。

 そりゃ、テンションは上がる。あの人が演じたあのキャラも、まさかのあの人が演じるはずだったあのキャラも、出てくれば「おおっ」とは思う。
 でも、だから何だというのだ。
 がっつり関わってくるわけでもなく、ストーリーに影響を及ぼすわけでもなく……。単に登場しただけになっている。
 あと、ゴーストバスターズ/アフターライフを見た時にも感じたが、いかに映像の技術が進歩しているとはいえ、故人をホイホイ登場させるのは良いことなのだろうか?ワイスピスカイミッションのポール・ウォーカーのような撮影中に……の場合なら必要性を感じるが、今作の場合は前述したように、まったく必要性を感じない。(ニコラス・ケイジは喜んでいるかもしれないが)
 では、がっつりストーリーに関わってくるキートンバットマンはというと、こっちもこっちで酷い。単に登場させただけのようなぞんざいな扱いだ。
 そりゃ、映画館であのヤバい笑みを浮かべるキートンバットマンを拝めたのは嬉しい。アクションはかっこよかったし、若きヒーローたちをケープで身を挺して守る姿には感動した。
 でも、ブルース・ウェイン、ひいてはバットマンというキャラクターの演出には、どうにも引っ掛かる点が多かった。
 登場時の、ゴッサムが安全な都市になった結果必要とされなくなり、屋敷で孤独に暮らすしかなくなった世捨て人のブルース・ウェインという設定は悪くなかったが、あのキッチンでの戦闘は、さすがに間が抜けている。
 堕落しているなら、ダークナイトリターンズっぽくワインで飲んだくれて現実逃避しているとか、キングダムカムっぽく外骨格を身に着けてヨボついているとか、そういうのなら分かるが、あんなドタバタコメディみたいなアクションをするのは腑に落ちない。というか、全体的に軽薄過ぎて、あのキートンバットマンに見えないのだ。
 もちろんティム・バートン版にもユーモアはあった。でも、ティム・バートンはブルース・ウェインもバットマンも、あんなドタバタコメディみたいな撮り方をしていなかったぞ!
 一番許せなかったのは、スーパーガールが幽閉されている施設に潜入した時に、足で威嚇して職員をビビらそうとしたシーン。
 恐怖を克服して恐怖そのものになろうとしたバットマンが、あんな間抜けな脅し方をするか!そんなギャグはいらん!
 その直前の、武装した職員たちをあのバットラングで一掃するシーンとかは滅茶苦茶かっこよかっただけに、そういうのが気になってしょうがない。世界一の探偵であるバットマンが、鍵を開ける時に古い機械を使って時代遅れと揶揄されるギャグなど見たくはないのだ。せっかく復活したキートンバットマンをかっこ悪く撮らないでほしかった。いくらフラッシュの映画の客演とはいえ、あんな演出はないだろ!
 それに加えて、ベン・アフレックのバットマンにもワンダーウーマンの真実の投げ縄を使ったギャグをさせないでほしかった。冒頭のアクションは滅茶苦茶かっこよかったが、バットマンの信念をギャグっぽくしてしまうのはどうなんだ。しかも、後の出番はフラッシュを諭すだけで終わってしまうし。
 それと、新しくデビューしたサッシャ・カジェ演じるスーパーガールは凄く良かったし、ヘンリー・カヴィル演じるスーパーマンのいとことしても説得力のある、厳めしくも端整な顔つきはたまらなかったが、キートンバットマン共々死ぬ運命を避けられないという展開はどうなんだ。
 というか、そもそもフラッシュが迷い込んだ世界では従来のジャスティスリーグの面々が存在しておらず、頼れるのはキートンバットマンとスーパーガールということになっているが、だとすればフラッシュが迷い込んで来なかったら、あの世界はゾッド軍団のカーラを巡るあれこれで滅亡確定だったってことなのか?
 それではまるで、殺す為に登場させたようなものじゃないか。いくらなんでも、扱いが酷過ぎる。フラッシュが歴史修正をしても、あの世界はあのまま終わりを迎えていたのではと思うと、やりきれない。
 その点に関しては、物語の一貫性の無さにも通じていて、フラッシュ個人のパーソナルな問題は解決したかもしれないが、結局トマト缶の位置を変えて父親を救ったせいでまた歴史が変わり、完全に元通りの世界にはならなかったという結末は、なんじゃそりゃで片付いてしまう。
 しかも最後に引っ張り出してきたのは、とても今後再演してくれるとは思えないジョージ・クルーニーだし。(確か、バットマンを演じたことを本人は後悔していたのではなかったか?)

 なんというか、全体を通してキャラクター愛に欠けているのだ。サプライズ登場ばかりを主軸にしたせいで、それぞれのキャラクターの扱いが粗雑すぎる。この辺はX-MENF&PやスパイダーマンNWHがとても上手にやっていただけに、(特にNWHは金字塔的大傑作だったので)マルチバースを主軸にした話として、劣り過ぎている。ドクターストレンジMoMでもキャラ愛が無いという批判があったが、あれは何にしてもサム・ライミが撮ったから許されている面があるのだし、あの世界線のプロフェッサー率いるイルミナティは決して清廉潔白な組織ではなかったし、何より展開もアクションも面白かった。が、今作にはその面白さが無い。アンディ・ムスキエティ、多分アメコミ映画は好きなんだろうが、アメコミ自体に興味は無いのではないか。
 肝心のフラッシュの高速移動演出も、ほぼ十年前のX-MENF&Pのクイックシルバーやスナイダーカットに負けているし、多元ユニバース演出もCGが粗くて気になるし、スーパーガールやゾッド軍団の超人アクションもMoSに負けているし……。アンディ・ムスキエティ、新しい体制でやるバットマン映画、ブレイブ&ボールドの監督に決まったらしいが、不安でしょうがない。

 何よりも、ワーナーから色々と酷い扱いを受けたマイケル・キートンが今後またバットマンを演じてくれるのか分からないし、これでベン・アフレックのバットマンも見納めなのかと思うと……。

 僕は心のどこかで、フラッシュポイントのこれを期待していて、ベン・アフレックのバットマンでこれを見れたら最高だなあと夢想していたのだが、そんなことはなかった。あんなことするなら、マイケル・キートンでもなく、ジョージ・クルーニーでもなく、BvSで演じていたジェフリー・ディーン・モーガンにトーマス・ウェインのバットマンをやってもらえば良かったのに……。
 もし、それを真っ当にやってくれていたら、それだけで傑作認定したし、ベン・アフレックのバットマンの勇退として、華々しい最後となっただろうに……。

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