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何も隠さない



あんなにも踠き苦しんだあの日を、いつの間にか忘れていて私の一部だったものがバラバラに散っていくことに何も思わなくなった。どうしてだろうか。忘れていくことに寂しさを少し感じる。もうあの時の私はいなくって。あの頃のあなたもいないのに。


昔木綿のハンカチーフの歌がとても好きだった。
恋人が都会に染まっていく歌。変わらないでと願う彼女と変わっていく彼、別れを感じる歌が妙に好きだった。


しほは本当に分かりやすいんだよ


彼は言う。確かにそうだ。感情を隠せない。嬉しい時や照れてる時、怒ってる時や面倒な時、全部が顔に出てしまう。声のトーンにも。でも誰にでも分かりやすかったわけではないんだよ。彼は私を私で居させてくれる。何も隠さずありのままでいさせてくれる。その度に思い出し、どうしてなんだと大泣きしたあの日の夜、私は忘れない。お風呂の中に涙が溜まってしょっぱくなった浴槽のお湯はもうとっくに冷えてるはずなのに彼の体温でちっとも寒くなかった。大丈夫だよと包み込んでくれる彼の両腕に抱かれながら静かに泣いた。無償の愛をくれるはずだった、本当に欲しい人からは貰えなかったのに。


1人でも平気だったセミダブルのベッド、何故か1人だと今じゃ広く感じる。彼の温かさを恋しく思う夜が増えた。離れていると妙に彼の笑顔が頭に浮かぶ。元彼と別れ、もう5カ月経った。元彼といた3年間、彼といる3カ月。時間なんて関係なかった。いつの間にか私の中に入り込んできた彼の存在は大きくて。愛おしいのだ。私の友達や先輩、誰に会っても彼は変わらない。可愛くも思う


親友と結婚の話をした。
結婚するかもしれないなんて考えれば考えるほど涙が出そうになる。電話越しに泣きそうになりながらひたすら耐えた。
もうそんな年かと、何だか感慨深く思う。彼女の愛は安心するんだ、私も同じくらいいや彼女よりも彼女を大切に想う。彼女が自分自身を大切にしているように私はそれよりも彼女が大切だ。出来るなら同じ墓に入りたい。この世で一番大切で愛しい存在、それが変わることは一生ない。


でもいつか彼女よりも大切な存在が出来るんだろうな


私は愛せるだろうか


家族そのものを。形あるものを。



何も隠さない。恐れることなんて何もない。
私が私を丸裸にする。何も怖いものなんてないのだから。


何も隠さない。隠すことなんて何もない。
私という人間が私をわたしらしくさせる。



2023.11
何も隠さない

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