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読み取れないクッキー 


日曜日
9時30分

部屋の掃除が終盤に差し掛かった頃、

チャイムが鳴る。
何も頼んだ覚えがないのに、1つの荷物が届いた。

新手の怪しい詐欺かも、と少し疑いながら
恐る恐る箱の送り先をみると
「石田」と書かれていた。姉からだった。
特に事前に連絡もなかったので、少し驚いた。



中にはお菓子が入っていた。
チョコレートかなと思いながら、オシャレな缶をあける。
可愛らしいクッキーがたくさん並べられていた。

可愛いクッキー


私はそのクッキーを眺めながら、
「なぜ急に?」と本当に不思議な気持ちになった。
以前にも急に物を送ってきたことが何度かあった。
その度に、何を考えてるか分からず「怖い」と思った。

突然お菓子を送ってきたこと。
クッキーが好きと言った覚えがないのに、
クッキーが送られてきたこと。
やっぱり不思議だった。




私にはクッキーを送ってきた姉の気持ちが分からい。何を考えてるか、測り取れない。
その優しさや気遣いを汲み取ることができない。

姉の姿を想像する。
クッキーを選ぶ姿。
私の家の住所を打ち込む姿。
その時のいろんな表情。

でも、そんな姿を想像しても
何も感情が湧かない。もし友達や恋人なら、
想像するだけで私は嬉しく愛しくニヤついてしまうだろう。


私は姉に幼いころ、たくさん虐められてきた。
見た目も行動も好きな物も私が持つ全てを
簡単に否定してきた。
その小さな否定が長く積み重なり、私の自尊心は長い時間かけてどこかへ消えてしまった。

完全に取り戻すことは、大人になった今もまだ出来てない。
潜在的な意識として心の中に縫い付けられて
引っかかって、解くことができていない。
私はまだずっとずっとそれに縛られている。



過去は消せない。
私にはもう、幼かった頃のように
姉の善意や優しさといったぬるく暖かい感情を汲み取ることができない。感情が動かない。

私は姉からのクッキーを、
「ただのクッキー」として食べることしか出来ない。もう一生、クッキーに込められた意味を受け取ることはできない。


私はそれを「しょうがなく」「当たり前だ」「ざまあみろ」と思う。

だけど、どこかで「ごめん」とも思う。


私はその「ごめん」を消化するほど、強くなく割り切れていない。
この気持ちをどうすればいいか分からない。




私はこれにいつか向き合わなければならないのだろうか。
もう何もいらないから、もう思い出したくないんだ。もう縛られたくない。

そう願う自分がいる。




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