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孤独死現場での過剰請求相談の実例

遺品整理現場での知っ得シリーズ

本日は前回の孤独死現場の遺族へ原状回復費用を請求できるのか?とは反対に、家主側から過剰請求された遺族からのご相談を受けた実例のご紹介となります。

ある賃貸物件で亡くなった方の連帯保証をされている方からご相談を頂きました。なんでも、賃貸物件で親戚の方が孤独死されたそうで、家主側から原状回復費を請求されているとのことでした。

原状回復費について支払うのは問題ないのだが、いささか高すぎるような気がしてならないので相談に乗ってほしいというものです。

後日、日程調整をしたうえで賃貸契約書や家主側から送られてきた見積書などを持参して頂き、事務所にお越し頂きました。

状況としては次のような感じです。

死因:不明(検死の結果不明で、警察には事件性なし・自殺の可能性もないだろうと言われている)
場所:賃貸物件の室内
発見の状況:訪問ヘルパーが発見
死亡から発見までの期間:4日程
遺体の状況:腐敗等はなし
入居期間:約8年
室内の状況:めだった破損などはなし
家主側から請求されている原状回復費:約50万
家主側から請求される予定の逸失利益:具体的な数字は言ってきてないが、請求するかもとの含みあり
敷金:約14万
家賃等の延滞:なし

おおまかな状況としては上記のような感じです。家主側からは、事故物件になるので家賃補償(逸失利益の損害賠償)も考えているが、まずは原状回復費を支払って欲しいという請求だったそうです。

では実際にこの請求に対して連帯保証人の方はそのままの金額を支払わないといけないのか?

というお話しですが、原状回復費の内訳を確認したところ、項目としては、「クロスの張替」、「畳・襖の交換」、「クリーニング」、「鍵交換」などで、その他にはモニター付きインターホン設置などが項目としてあります。

今回、家主側からの請求の一番のポイントは「事故物件」になるかどうかです。

一般的に自殺や殺人、火事などによる死亡は事故物件となり、家主側には次の入居希望者の方へ、そうした事実があったことを伝える義務(告知義務)が発生します。

では、今回の事案ではどうでしょうか。まず注目する点として発見までの期間です。

今回は入居者の方が高齢者ということもあり、定期的にヘルパーが訪問しており、だいたい1週間に2度ほど訪問する頻度だったとのこと。

ですので、今回の場合は死後4日程度で発見されたということになります。また、1月という寒い時期でもあり、発見も早く遺体の腐敗などはなく室内へのダメージはありません。

誰にも看取られずに亡くなったケースではありますが、これが事故物件にあたるのか?というと、事故物件には該当しないと判断される可能性が高いかと思われます。

基本的に孤独死と呼ばれる状況は自殺と異なり、故人に責任が問えるものではありません。

自殺の場合は本人の意思で自死に至る行為を行い、その結果室内が血液などで汚れたり、心理的瑕疵と呼ばれる「気持ち悪い」と感じる被害を部屋に与えています。

また、賃貸した部屋は「部屋」として利用するべきであり、自殺などで使用するのは用法(部屋の使い方)に違反する善管注意義務違反にも該当するでしょう。

つまり、自殺の場合は故意で室内に損害を与えているので、その被害を回復する責任が本人(またはその相続人や連帯保証人)に発生します。

しかし、孤独死と呼ばれる多くが、突発的な発作だったり、病気の結果などであり、本人が自ら望んで死のうと思って死んでいる訳ではありません。

ですので、孤独死された本人には室内へ被害を与える意思はなく、故意や過失というものがありません。

つまり、責任がない以上、損害賠償のような請求をすることはできないということになるわけです。

そうすると今回のような、発見も早く、遺体の損傷もないケースではそもそも孤独死や事故物件ということを論じる必要もなく、室内で普通に亡くなったというだけということになります。

でも、室内で人が亡くなっている以上、それは事故物件なんじゃないの?と思われる方もいるでしょう。

しかし、過去の判例でも示されている通り、賃貸物件であってもそこで生活している以上、突発的な発作や病気などで人がなくなることは、ごくあたり前のことであり、それについては入居者には責任はないとしていることから、室内で人が亡くなったという一事をもって即事故物件とはならないと考えられています。

ですので、今回のケースは自殺のように入居者側に責任があるとは言えない為、損害賠償ができないのはもちろん、原状回復についても通常の退去と同じように考える必要があるケースの可能性が高い案件です。

では改めて、家主側から請求された内容を確認すると、クロスは全面張替、畳も全て表替え、クリーニングや設備の交換なども全額入居者負担となっています。

また、その請求書には入居期間や経年劣化などの国土交通省で出されている原状回復に関するガイドラインの指針は一切考慮されていないものとなっています。

特に、モニター付きインターホンの設置の項目については、あきらかにグレードアップとも取れる内容で、正直なところ、よくこれを入居者への請求にいれてきたなと思わずにはいられませんでした。

もともと設備として設置されていたモニター付きインターホンを入居者の過失などで壊したという話しならわかりますが、新設する請求をなぜ原状回復にいれてきているの?という感じです。

恐らく家主側の頭では、孤独死=事故物件→事故物件なら賠償請求できる→せっかくだから、フルリフォームをしてその代金を入居者側に支払ってもらおう!といった考えだったとは思います。

ただ、近年はガイドラインについては一般の方にも浸透してきていますし、孤独死に関する考え方もインターネットで調べれば専門家の方々いろいろと書かれていますので、少し確認すれば、今回の請求にはだいぶ無理があるものと分かったはずです。

ただ、原状回復費の請求金額については家主側と入居者側が納得するならいくら高額な金額であっても、その合意は有効となります。

ですので、無理のある請求であることを知りつつ、払ってくれたら儲け物というつもりで、家主側が請求してきた可能性も十分あります。

行政書士としては、交渉に立ち入ることはできないので、上記のような一般的な考え方とガイドラインの指針の説明、過去の判例などをお渡しさせて頂き、それでも家主側が納得しないというなら弁護士も紹介しますという形で今回のご相談は終了となりました。

賃貸物件における、孤独死や自殺といった問題は一般の方にはなじみのない問題でもありますが、超高齢社会の日本ではいつ自分の身に降り掛かってきてもおかしくない問題でもあります。困った時はまずはお近くの専門家にご相談してくださいね。

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