河合隼雄とクリシュナムルティ

僕の人間心理に対する関心や教育の基盤は、日本にユング心理学や箱庭療法を導入したことで知られる、故・河合隼雄さんの本から与えられた。

河合さんの子どもに対する真摯な姿勢や無限の可能性への慈しみは、僕にとっていまでも手本になっている。
また河合さんは、カウンセリングに臨む中で、クライアントの人生の中に転在する出来事が、まるで星座のようにつながる瞬間を見出し、それを「巡り合わせ」(心理学上では布置=コンステレーション、元々は星座の意)と呼んだ。

参考動画
https://youtube.com/watch?v=TcW40V9pzpw&feature=share

そんなことあるのだろうかと思っていたが、ふとした時に巡り合うことがある。

数年前になるが、知人からの紹介で、ジッドゥ・クリシュナムルティに触れた。
1896年にインドで生まれた彼は、自分を「世界教師」として崇めてイギリスへの留学や世界での布教活動を世話した教団を自ら解体したり、一切の宗教教義や現代の構造的条件づけからの自由を説いたりした哲人で、ブルース・リーやチャールズ・チャップリンをはじめ、様々な人々の思想形成に影響を与えた人物として知られる。
自己への洞察から真理を見出し、世界との関係を再構築しようとする試みに、なんとなく河合さんとの類似点を感じたためか、惹かれているのだと思う。

話が変わるが、僕はスターウォーズが大好きだ。
生みの親のジョージ・ルーカスは、遥か彼方の銀河系に描かれる叙事詩=スター・ウォーズを創作するにあたり、神話学者のジョーゼフ・キャンベルに師事した。
キャンベルから「原始的神話は常に形を変え、社会に衝撃を与える」ことを教わり、ルーカスは、現代に横たわる親子の問題をスターウォーズのテーマとして物語に重ねた。
また洋の東西を問わず、古今の神話や哲学、宗教、文化をモチーフにしながらルーカスはスターウォーズを創った。

そして、このジョーゼフ・キャンベルにも影響を与えた人物がいるが、それは誰か?
なんとクリシュナムルティとカール・グスタフ・ユングだ!(他にもいるようだが調べてないので割愛)
ユングとの逸話は把握できていないが、クリシュナムルティとは1924年に大西洋上を航行する船で偶然出逢った。その時の議論によって、キャンベルの関心は、キリスト教的世界観からアジア哲学へとシフトした。そのシフトがスターウォーズに与えた影響を計る術は持ち合わせていないが、幾許か想像に難くない。

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参考情報
https://www.wagmag.com/following-your-bliss-on-the-heros-journey/
“His association with Asian thought began while sailing back from Europe with his family in 1924. On board, Campbell met the great Indian philosopher, Jiddu Krishnamurti, who espoused an intriguing philosophy known as “truth is a pathless land.” Krishnamurti thought that truth could only be found through the mirror of relationships, through the understanding of your own mind and through observation, not intellectual analysis. This sparked a deep interest in Hindu and Indian thought in the young American. Echoes of the psychiatrist Carl Jung – whose idea of the collective unconscious draws on the similarities in world mythologies – and James Joyce, author of “Finnegans Wake” and “Ulysses,” can also be found in his work.”

https://www.bbc.com/news/magazine-29753530
https://www.esalen.org/memorial/joseph-campbell
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その証左になるか分からないが、ジョージ・ルーカスは、2006年にクリシュナムルティのドキュメンタリーを制作総指揮し、さらに、若き日のインディ・ジョーンズを描いたドラマシリーズの一話に、少年時代のインディとクリシュナムルティが、宗教や信仰について議論するストーリーを挿入している。

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インディアナジョーンズとクリシュナムルティ(ドラマ)
https://www.youtube.com/watch?v=byG9ZOW-biI

Young Indiana Jones Historical Documentary 22 - Jiddu Krishnamurti
https://www.youtube.com/watch?v=WhAa6_O3qJw
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ちなみに、キャンベルの口癖は、"Follow your bliss"(至福に従え) だった。
クリシュナムルティがインディに、宗教という様々な人間の思考の産物に共通する神性が人の心にあることを悟すシーンはとても象徴的だった。
教義や偶像、建築物に従うのではなく、心に従えといっているようだし、ユングが論じた集合的無意識や原型論にも通じる気がする。

自分の人生に、少なからず影響を与えている人物や物語が、なんとも緩い紐のように一つにつながったような、この感覚。
河合さんのいうコンステレーションとはもしかしたら文脈が違うかもしれないけれど、何か根源的なエネルギーに触れたような気にさせてくれる。
外界は何も変わっていない、でも自分の中に変異が感じられたことに、意味を見出している。

AIとアルゴリズムの進化により、自分より自分のことを人工物の方が「知っている」時代が訪れるという。
それでも、いま・ここで、何かに導かれるように巡り合うインサイトまで、人工物がもたらすのだろうか?
言語や思考、認識を超えた何かが自分の中に潜んでいるというと、怪しく聞こえるが、そんな世界の余白は、まだまだ人工物から不可侵であってほしい。

少なくとも、家族や身近な人たちが、自分を洞察し、気づきを得て、そして思いがけずコンステレーションを感じる、満ち足りた時間を多く持てる時代であってほしい。

”Empty your mind.”(Bruce Lee)


*クリシュナムルティに関して、著書は一冊読んだ程度で、詳しく知っているわけではない。
しかし、ネットでいろいろ検索して見る限り、現在のポジティブ心理学やトランスパーソナル心理学の源流に繋がる概念を生み出し、少なくない知識人に影響を与えてきたようだ。
これに関しては、別にまとめてみたい。

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