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ようやく東京マラソン

早朝の風景

目覚めと準備

コーヒーマシンの前に立っていた。コーヒーを出すボタンとカップ洗浄用の水を出すボタンがある。どうやら紙カップをリユースしているらしい。中を見るとうっすら汚れている。カップ洗浄用の水を出して中を濯ぐが、もちろん汚れは落ちない。
それでも仕方なくカップを再度セットしてコーヒーを入れるボタンを押したところで、レース前でノンカフェイン生活をしていることを思い出した。

そこで目が覚めた。
レースの朝。4時半にかけたアラームよりも少し早い4時17分。

起きてすぐに体温を測定して、決められたアプリに登録する。35.3℃。
毎朝測っている体重と体脂肪率を測る。73.4kg。いきなり近年ないほどの高い値。そんなに不摂生していないはずなのだが。

水を一杯飲むとすぐに便意を感じてトイレに。昨夜飲んだ整腸剤が効いたのか快腸。レース当日なかなか便意がないとイライラするので、良かった。

昨夜用意した着替え。
忘れずに乳首に絆創膏を貼るのは男性ランナーあるある。
Tシャツは東京マラソン2020の記念Tシャツ。

財布、切符、保険証、現金、Suica付きクレジットカード、ジェル、塩タブレットをマルチポケットのパンツに入れる。
パンツのポケットだけでは収納力が今ひとつなので、つくばマラソンで貰った、小さくて軽いポーチも持つ。

朝食を取る。おにぎりとゆで卵とソーセージとカステラ。消化の悪いものは食べないと言う人もいるが、私は割と普通に食べる。

身体を動かしてみる。右足首と背中が少し痛い。
経験上、レース前にどこも痛くなくても、いざ走り始めると最近気になっていた痛みは全部出る。レース前に痛い箇所は庇うので、そこまでひどくならないが、庇った代償として別のところが痛くなる。
でもまあ仕方ない。

手荷物に持つものは最後まで迷う。曇り空。傘は持たない。スポーツドリンクもやめておく。
iPhoneとApple Watchの充電器は入れる。

会場へ

現地入場時刻は7時から8時45分。昨年出た東京レガシーハーフは早く着き過ぎて、身体を冷やしてしまったので、8時くらいに着くように出る。

曇り空。風も殆どなく寒くない。サングラスはいらなかったかもしれない。

電車の中で、これまでのことを思い出す。
マラソンを始めた頃に少なくとも東京マラソンを走るまではやめないと宣言。
ようやく当たった2020年大会は一般ランナーの出走が中止になり、その出走権を延長しまくって今年に至る。だから、私にとってこれは東京マラソン2020なのだ。
感慨深い。

新宿に向かう電車の中にも東京マラソンに出るランナーの姿が目立つ。足にチップを付けているのですぐにわかる。
新宿に着いて、その流れに乗って長い地下道を会場まで歩く。地下道は寒くなくて良い。

混雑の中、受け付け。予定通りちょうど8時。アプリを開いて写真を見せる。
続いて、手荷物検査。ペットボトルなど飲料の持ち込みが禁止されている。
確認が終わると有無を言わさずバッグにシールを貼られる。
続いて金属探知機を通る。
そこから結構歩いて手荷物を預けて、あとは並ぶだけだが、まだスタートまで1時間近くある。
整列時刻まででも30分以上あるので、トイレに並ぶ。日の当たらない寒いところで長い行列に並んだせいで、駅でもトイレに行ったのに、かなりの量が出て驚く。でもこれで安心。終わったら整列時刻の10分前。理想的だ。

レースの風景

コンディション

曇り空。スタート時の気温が8〜9℃、湿度40%。風速1m。最高気温13℃。言うことがない。
たまに太陽が覗くと暑いが日陰が多いので、あまり問題はない。ところどころ風の強い場所があるが、走るのが難しいほどではなく、冷たい風が適度なクールダウンになる。

スタート前

自分が指定されたF列に入って、空いたスペースに場所を確保。割と人との距離が近く、ストレッチなどもしづらい。
周りを見渡すと、外国人がとても多い。
後ろでマスクをしないでずっと喋っている外国人に閉口した(スタートまではマスク着用のルール)。どうせレース中はマスクを外すので、レース前にマスクを付ける意味は甚だ疑問だが、それにしてもうるさい。
外国人の中には、後ろに小さなゼッケンのようなものを付けている人が目立つ。よく見るとニューヨークとかシカゴとかボストンとかレースの名前が書かれている。東京マラソンがアボット・ワールドマラソンメジャーズ6大会の1つであることに関係ありそうだ。
シカゴマラソンと書かれたアルミシートを身体にかけている人がいた。東京マラソンでレース後に防寒用にアルミシートを貰えるのは知っていたが、東京だけじゃないんだな。

8時55分の整列時刻が近づくとしきりに早く整列しろと放送が流れる。DブロックとEブロックの人は特に急いでとのこと。理由は不明。
早く整列しろと言う放送は整列時刻を過ぎてもしばらく続いていた。時刻までに整列しないと最後尾からのスタートになる。

整列時刻を過ぎるとそろそろと列が動き始めたが、しばらくすると止まる。そんなことが何度か続く。
たくさんのペースメーカーの人たちが所定の位置に向けて歩いていた。レース中は結局1度も見かけなかったが。
防寒用に使い捨てのビニールポンチョなどを着ている人は、スタート前に捨てるコーナーがあり、うず高く積まれていた。

前の方から波のように拍手が伝播してきた。続いて、車椅子マラソンがスタートしたとの放送。号砲は全然聞こえない。

スタート

しばらくするとまた前の方から拍手が伝播してきた。時計を見ると9時10分。ほどなくマラソンがスタートしたと言う放送。相変わらず号砲は聞こえない。
それでも少しずつ列は動く。
ようやくスタート位置が見えて来るとテンションが上がる。
一方で決められた場所ではなく、地面に捨てられた防寒用のポンチョなどがとても多いことが残念だった。
せっかくのスタートなのに、足にレインコートが引っかかる。転んだら誰が責任を取るんだ。

序盤

スタートしてすぐのところで路上に直径10cmほどの穴。危うく踏みそうになった。怪我をしたら誰が責任を取るんだ。

最初の5kmはほぼ下り坂。テンションが上がっていることもあって、速度が上がりがち。
私は今回6’15”/kmペースで4時間半を目指している。PBよりもだいぶ遅いが、3年ぶりのフルで、全然自信がない。とにかくスピードを出し過ぎないようにと気をつけてはいたが、それでも気付くと6分ペースくらいだった。

通常は5キロを過ぎれば、かなりばらけるものだが、どこまで走っても混雑が緩和しない感じだった。
今回は2019年以前のレベルに戻った37000人のランナーがフルマラソンに参加。これは国内の他の大きなレースと比べても2倍くらいの規模。道幅が特別広いわけではないので、その分混雑するのは当然だ。

走っていたら「同じTシャツで走ってるんですか?」と話しかけられた。
確かに周囲には私と同じTシャツを着た人がポロポロ見える。だが別に友達同士同じTシャツで出ようとしている訳ではない。
これは東京マラソン2020の記念Tシャツなんだと言うと納得してくれた。

以前はなかった秋葉原方面への折り返し。どこまで走るのかきちんと把握できていなかったので、長く感じた。下見大事。

中盤

無理な追い越しもエネルギーを使うので、流れに乗って走っていたら、10km過ぎたあたりからペースがかなり落ちてきた。
今度は目標の6分15秒よりも遅い6分20秒くらいのペース。10kmまでの貯金を食い潰し、だんだん平均ペースも目標ペースに近づいて来た。

東西に伸びる永代通りはビルに塞がれて日陰が多い上、風も強い。そんなところで何時間も応援したりボランティアしたりしている人たちは、本当にありがたい。

兜町あたりで右手の方で拍手や歓声。折り返しのトップ集団がやって来たのに気づいて右手を見ると先頭集団の中にいる井上大仁が見えた。
走行ルートを右寄りに取って、エリートランナーを眺めながら走る。設楽悠太と松田瑞生に声援を送った。

雷門はコース中でも1番の人気スポット。立ち止まって写真を撮る人に注意のアナウンスが入る。
PBを狙うレースでは絶対しないが、私も立ち止まって雷門をバックに自撮り写真。
ついで雷門に手を合わせて一礼し、その後の無事なレースを祈願。

15km過ぎで時計を見ながら、まだ1時間半ほどしか経っていないのを確認して、残り27km、時速5kmで歩けば7時間のリミットには間に合うなあと考えたりする。ただ25km以上歩くのも相当嫌だったりする。

20kmを過ぎたくらいから歩き出す人がポロポロ出てくる。
他の大会より脱落が早い印象。東京マラソンは10倍を超える倍率なので、どうせ当たらないだろうと走ったこともないのに申し込んで、幸か不幸か当選する人の話をちょいちょい聞く。そう言う人が練習不足で臨んで、早々に脱落するのかもしれない。

ペースが遅いので、余裕がある。面白い応援に声を出して笑ったり、周りのランナーを眺めたり。

コスプレランナーはそれなりにいるが、特別多い印象ではない。私が見た範囲で目立っていたのは、エジプトのファラオの格好をした人、ジャンケンの札を持ったサザエさん、キャプテンハーロック、スーツ姿の人など。

友人など、特定の人を応援に来ている人は気合が入っている。そして見つけると凄く大きな声で叫ぶ。走っている間に結構そんなシーンが多く、ランナーと応援する知人が会うのに居合わせる確率ってどの程度なのかと一瞬考えたが、グリコーゲンが勿体無いのですぐにやめた。

ハイタッチしてくる観客は殆どいない。特にルールではないのだろうが、自然とそうなっているようだ。行動制限がかなり緩和しているが、何もかも以前に戻ったわけではない。

25kmを過ぎたところでかなり元気なことに気付く。
1カ月ほど前に30km走した時はペースを落としてもクタクタになったが、35kmくらいまでは充分行けそう。
30kmで壁が来るとそこからの12kmは長いが、35kmまで行ければ、あとはなんとかなるだろう。

ふと数日前、上司に東京マラソンに出るので翌日ダメージで出社できない可能性があると伝えた時のことを思い出す。上司は「混みそうだな。都心に出ないようにするわ」と言っていたが、そこは嘘でも「気が向いたら応援に行くよ」ではないか?こんな余計なことを思いつくのも余裕があるからだ。

終盤〜ゴール

30kmが近づいて来ると少し疲れが出てきたが、壁を感じる気配はない。さらにここで2回目のジェル補給。今度はカフェイン入り。3週間カフェインを絶った身体に、これは驚くほど即効で効く。少し感じていた疲れもスッと抜けた感じ。

そして気付く。
これはもっとペースアップできるのでは?
足に余裕がある。

ぐいっと足を前に出して、ペースアップ。
6分30秒くらいまで落ちていたペースを6分10秒ペースに。

それまでは無理せず他人について走っていたから気にならなかったが、ペースを上げると途端に追い抜くのに苦労する。ランナーの多さがここでもろに効いて来る。この辺りに来ると歩いている人もかなり多い。
やむを得ず右へ左へと人をかき分けるように走るが、これはかなり足に来る。

無理して追い抜いていたせいか、34km過ぎからこれまで痛くなったことのない左膝がかなり痛くなってきた。だが歩くほどではないし、速度を落として痛みが緩和するものでもないと判断してそのまま走る。

左側の観客がしきりに「お疲れ様!」「あと少し!」などと声援を送っているが、これは折り返して反対車線を走る40kmを過ぎたランナーへの声援だろう。痛い膝を抱えてまだ7-8km走らなければならない自分には辛い声援。

35km地点の時計を見て、グロス(号砲からのタイム)で4時間半はほぼ無理と判断した。
一方でこのまま行けばネット(自分がスタートラインを超えてからのタイム)での4時間半にはだいぶ余裕があるのでペースを落としても良いところだが、落とすメリットがあまり感じられないので、そのまま走る。速く走った方が早く着くし。

36kmを過ぎると左膝の痛みはあまり感じなくなったが、右足首が痛くなってきた。そう言えば今朝から痛かった。だがやはり走れないほどではない。

以前折り返し地点だった品川よりかなり手前になった田町の折り返し地点だが、それでもかなり遠くて退屈。日比谷から3km以上ある感じ。
こんなに遠くまで行って、また戻るのかと思うと憂鬱になる。
東京タワーあたりで折り返したい。

残り3キロのところで、沿道から「あと少し!」と言う声援。
近くを走っているランナーが「少しじゃねえ!」と言い返す。
その通り。でもあなた、まだ元気じゃん。と心でツッコむ。

40kmのあたりで沿道からの「頑張ってあと100人抜いて!」と言う声を聴いて、確かにこんなに人がいるのなら100人くらい抜けそうだと思って、また少しペースアップ。
後から記録を見ると40km過ぎてから約300人抜いていた。

丸の内仲通りに入ると残り1km。この辺りは割と詳しいので、残りの距離を把握しやすくて精神的に楽。

東京駅の前で皇居に向かって曲がってゴールまで約200m。カメラを向けてゴールゲートを撮影。


ゴールの瞬間はカメラ撮影されているはずなので、できるだけ良い顔でゴール。
そう言えば曇り空だったのでサングラスはほぼ手に持っていた。レース中に撮っていただいた写真も顔がよく映っているだろう。


ゴール後

ゴール後のゲートをバックにした自撮りは疲れた顔が嫌で何度か撮り直す。立ち止まるなとのアナウンス。

妻にLINEで着いたことを連絡したらすぐに電話。追跡ページで走る様子を見ていたそうだ。予測タイムまで出るそうで、エリートランナーみたい。

ルートに沿って進みながら、メダル、ドリンク、ポンチョなどを渡される。
寒くはなかったが、一応渡されたポンチョを被って、さらに1kmくらい先の手荷物置き場に誘導される。
40km以上走ったランナーをずいぶん歩かせる。


起床時からレース前まで痛かった背中は、レース中、なぜか1度も痛くなかった。それがここに来て痛み始め、レース中に痛くなった左膝も右足首も痛くて、足を引き摺るように歩く。

手荷物を受け取った後、更衣室はかなり高い階段を登らなければないと知り、更衣室は諦めて、ポンチョを脱いで上着だけ着て帰路に。


帰宅するまでかなり足が痛かったはずだが、その実あまり覚えていない。東京マラソンに出るまでの数年間や楽しかったレースのことを思い出しながら、楽しい気分で歩いていたからだろう。途中で夢にまで見たコーヒーを飲み、帰宅してから風呂上がりに儀式のようにビールを飲み、早々に就寝したが、久しぶりに飲んだコーヒーと酒のせいか、まだまだ今日の楽しい一日を思い出して、寝付けなかった。



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