見出し画像

帰ってきた東京マラソン2020

念願の当選

2019年9月。1通のメールを受け取った。東京マラソン2020当選の通知である。
これまで何度も申し込んで、1度も当選しなかった大会。この時の抽選倍率は11倍だったと記憶している。
開催は2020年3月1日。
この大会は東京五輪の最後の選考レースにもなっており、ここで日本記録を更新して日本人1位を獲得すれば、自動的に東京五輪マラソン代表にも選ばれると言う大会なので、有力選手がこぞって参加した。
知人には、東京五輪に出ることになるかもしれないなどと冗談を言ったものだ。

異例の事態

2020年1月ごろから世界的な感染拡大が話題になり始めていた。
2月になっても騒動は収束するどころかむしろどんどん拡大し、人々は不安に駆られ、様々な対応が検討され始めた。
マラソン大会中止の噂もあったが、さすがに目前に迫った東京五輪選考レースが中止されるはずもないと楽天的に構えていた。2月の中旬には下見で半分ほど走ってみた。浅草や門前仲町はまだまだ混雑していて、走りづらかったのを覚えている。

東京マラソンが中止になるわけはない。そんな期待があっさり裏切られたのは、下見ランをした少し後のことだ。
一般ランナーの参加が取りやめとすることを告げるメールが届いたのだ。参加できるのはいわゆるエリートランナーのみ。つまり五輪選手の選考には影響がないと言うことだ。
当時の感染者数は、現在から見れば、ほとんど無視して良いほど少なかったが、社会不安は今より遥かに大きかった。当時の様子を忘れかけている方も、4月上旬に出された初めての緊急事態宣言で街がゴーストタウンのようになったことは記憶しているだろう。何が正しいのか、いつまで続くのか、誰もが迷っていたこの時期、この判断がなされたことに、批判はできない。

「俺の東京マラソン2020」開催

それでも心残りすぎて、大会前日の2月29日(土)、コースを自分で走ることにした。
名付けて「俺の東京マラソン」。明日のランナーよりも先にゴールさせてもらう。

よく晴れて気温もちょうど良い気持ち良い日で、翌日エリート選手のために行われた本番よりも条件は良かったほどだ。
着替えるために普段使っているランニングステーションに行くと、来週からは早朝営業を辞めると話していた。こうして時短営業の動きが出始めた時期である。

本当のレースとスタート時刻を合わせて、都庁前に。
同じようなランナーがかなりいる。一斉にスタート。
水分補給はコンビニ。エイド補給として、10km過ぎで天然鯛焼き。30km手前でマネケンワッフルも購入。
同じような試みで走っている人は途中でもたくさん見かけるが、ほとんどはグループ走。みんなで記念写真を撮ったりしながら和やかに走っている。まだそれくらいで目くじら立てる人はいなかった頃。
1人で走っている私としてはちょっと羨ましかった。

数週間前に下見した時には門前仲町あたりにたくさんいた人通りが極端に減っているのが印象的だった。たくさんあった屋台も皆閉じていた。

35km過ぎ、本当の大会じゃないんだしと、歩き始めたら、後ろから来たランナーにもうちょっとだから頑張れと声を掛けられた。私がどこまで走るのかも言ってないのに。
それでもその声に元気をもらってランを再開して、無事ゴール。
翌日はテレビで他人事になった東京マラソンを観戦。大迫傑の日本記録達成と代表決定に興奮した。

消えていなかった火

非公式とは言えコースを走り切って、一応気持ちは落ち着いたが、ちゃんと東京マラソンに出る希望の火は消えていなかった。
参加できなかった一般ランナーには、Tシャツなど多くの参加記念品が送られて来たが、2万円近い参加費は当然返金されない。
代わりに次回大会の出走権が与えられたのだ。
まともにエントリーすれば、次にいつ当選するか東京マラソンの出走権は、走れなかった私にとってはとても嬉しいものだった。もう一度高い出走費用を支払わなければならないのだけど、それは全然気にならない。
面白かったのは、次回大会で完走すれば、2020年と2021年の両方のメダルが貰えると言う話。まあ作ったものを残しておいても仕方ないのだろう。

二転三転、延びていく予定

ところがしばらくして出走権の話は少し変更される。当初2020年に出走する予定だったランナーには2021年の出走権が与えられると言う話だったが、2021年か2022年のどちらかの出走権を選べることになったのだ。
確かに2020年の参加者を全て2021年に振り返ると、新たな参加者はほとんど参加できず、超プラチナチケットになってしまうからだろう。
1年後、感染が落ち着いているかは分からないと判断して、私は2022年の出走権を選んだ。

1年後に感染が落ち着いていないかもと考えたのは事務局も同様らしく、2021年の大会は通常の春ではなく、秋に行われることになった。1年延期した東京五輪の直後である。その時期ならば、五輪をやってマラソンはできないことはないだろうと思われた。
ところがこれも結局延期された。
2020年大会中止と異なるのは、延期というところ。
参加者は改めて参加費を払う必要がなく、グッズもそのまま使えると言うメリットがある。時期は2022年3月。東京五輪2020を2021年にやったことから、東京マラソン2021を2022年に行うことは誰も気にしなくなっていた。
本来2022年大会出会ったはずの大会が2021年に行われたことで、2020年の大会中止で、2022年の出走権を選んだ人はどうなったのか?正直なところ私は知らない。
なぜか?
2022年の出走権を選んだ我々には2021年になってから、さらにメールが来たのだ。
2022年の出走権を2023年に変更しても良いと。
そして私は変更した。だから2022年の出走権を持った人がどうなったのか知らない。

そして2023年

このように様々な変更に振り回されながら、2020年にあった私の出走権はここまで残って来た。
そして10月19日。いよいよ東京マラソン2023の出走料を振り込んだ。
費用は23300円。3年前よりかなりかなり高くなっている。無料だった手荷物預けは別途1000円。こちらも支払う。

とは言えついに東京マラソン2020が帰ってきた。
そう私の中では「2023」ではなく、「帰ってきた2020」だ。
お前、ほんとによく帰ってきたよ。実家の母親みたいな気分だよ。

ところで2020年の完走メダルはまだ貰えるのだろうか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?