在野のグッドほとけ#2 鳥取県倉吉市 三佛寺投入堂の仏像
重要文化財などに指定されている昔の仏像ではなくあまり注目されていなけれども、味わい深く最高な現代の仏像を紹介する企画。第二回は鳥取県倉吉市で出会ったホトケたちを紹介します。
三佛寺(輪光院)・十二支地蔵
国宝・投入堂で有名な三仏寺の境内寺院である輪光院におかれた12体の地蔵菩薩。それぞれが干支を表していて、なんとも面白い。赤子のようにふくよかなお顔で、それぞれの動物と接しているのだが、仲が良さそうなものも悪そうなものもあったりする
それぞれの表情は実にコミカルで、穏やかな微笑みをたたえているいつものお地蔵さんとはかなりイメージが異なるものだ。
猿や羊とはかなりうまくやっているような感じで、特に羊はめちゃくちゃなついている。ただちょっとモメてるっぽかったのが虎だ。
なぜか数珠のようなものを虎と奪い合う地蔵菩薩。顔も相当キレている。今回の十二支の中で圧倒的に強面な虎と喧嘩していることからも、お地蔵さんの気の強さが伝わってきておもしろい。
それぞれの表情がほんとにいいんだよなぁ。比較して楽しめるのも最高なグッドほとけ。
三佛寺・苔むしたお地蔵さんとヴィーナス観音
同じく三仏寺の境内から、苔むしたお地蔵さんのお姿を発見。津々浦々のお地蔵さんと同じようにかなりデフォルメされていて、脅威の2頭身である。
穏やかな微笑みを浮かべながら苔むしている姿は、癒やしである。うたた寝をしているようにすら見える。そのお地蔵さまの中央には真新しい小さな観音様が置かれていた。
なぜか衣が風にそよいでいる。後ろのお地蔵さまとはかなり異なる西洋的なタッチだ。なんだったらボッティチェリが描いたヴィーナス(女神)の姿を思い出させる7頭身である。非対称ながらバランスの良い立ち姿がそう思わせるのだろうか。こういった古い仏像には見られない独創性が楽しめるのが、在野のグッドほとけの醍醐味である。
三佛寺・リップ地蔵と7人の小人たち
三仏寺の入り口でも愛すべきお地蔵さんを発見。柔和で女性的な立ち姿だが、パッと見は普通である。だが近くによって見てみると…
赤いリップをしている。いいんだ。お地蔵さんもリップしていいんだ。そのキュートさにおかしみを感じるとともに、極赤なリップをしているにもかかわらず微笑んでいる姿はどこか「おかん」を思わせる。
同じ境内には、めっちゃ無表情なお地蔵さんと怖くなるくらい爆笑してる七福神が配置されていた。衆生を救済するタイプの白雪姫?それとも妄想代理人のOP?感情の対比が一周回って怖かったんだけど、なにか霊験あらたかな感じも醸し出していた。
倉吉市・豊田家住宅の三者三様三福神
鳥取県には5人の仏師がいる。そのうちの3人が倉吉市在住だ。その3名それぞれが作った3体の七福神像が、1900年に建てられた豊田家住宅という文化財の玄関に置かれている。
和上作・三面大黒天
倉吉の三仏師の1人、小谷和上氏の彫った「三面大黒天像」。大黒天といえばニコニコしているお爺さんのイメージがあるが、こちらの大黒天はブチ切れている。手に持っている打出の小づちで殴りかかってきそうな勢いである。
歯もしっかり彫られており目は赤い。ブチ切れ大黒天の肩には弁財天と毘沙門天の顔が乗っているという、一体でいくつもの役割を果たすマルチな大黒天様なのだが、弁財天は無表情だし毘沙門天はブチ切れてるしで基本的に悪を滅する怒りの方向にギアが入っている気がする。
大黒天は本来はマハーカーラ(ブチ切れ暗黒シヴァ神)が仏教に取り入れられた形なので、どちらかというとオリジナルに忠実な表現と言えるかも。
仲倉裕朋作・弁財天像
同じく倉吉の三仏師の一角である仲倉氏が彫ったのは、非常に流麗で対象的な弁財天像。琵琶を構えた涼し気な立ち姿が美しい。
あとシンプルに顔がイケメン。このクールな感じはサブカルバンドマン感がある。これはかなり周囲の人々を惑わしてそうだ。となりにブチ切れ大黒天が立っててこの涼やかさを出せるのはすごい。
山本竜門作・微笑み大黒天像
最後の一人、山本竜門氏の「ほほえみ大黒」は、木目が効果的に使われた非常に独自性の強い作品。倉吉を福の神でいっぱいにしたい(最高!)という竜門氏の想いの通りに、倉吉市では様々なところで策品を見ることができる。
木目の使い方はアフリカンなフェイスペイントさえ思わせ、どこかトライバルな雰囲気をたたえる。幸福を希求する願いが込められた満面の笑みに、こちらも福がおすそ分けされるようだ。
変わり種だと、有名なあのアザラシも像になっている。アザラシなので全くニコリともしていないという、なんだかエグい生命力を感じる作品になっている。このように竜門氏の作品が何十体も配置されている倉吉白壁土蔵群は、街歩きが最高に楽しい観光地でもある。
赤い石州瓦と白い壁が美しい倉吉。機会があればぜひ仏像も楽しんでほしい。
超余談・投入堂やばい
今回紹介した仏像の多くは「投入堂」で有名な三佛寺の境内にある。もちろん「日本一危険な国宝」というキャッチコピーで有名な「投入堂」も見に行った。
てっきりこの投入堂の建ち方が「危険」なのだと思いこんでいたが、「危険」なのは道中だった。垂直にすら感じる峻険な岩壁を鎖を頼りに登ったり、「馬の背」とよばれる傾斜のついた岩の上を這いずりながら突き進んだり、天然のアスレチックである。お互いに励まし合いながら壁を登るインド人旅行者一家の姿を見ながら、お互いえらいとこに来てしまったな、と勝手に心の中でメッセージを送った。
そうして山を登りきったあとの達成感。これは最も危険であると共に、「最も満足感のある国宝」と言えるかもしれない。そして細いながらも我々の体を支える木の根や、切り立つ岩壁を登る70代くらいのシニアの方々から感じられた、生命の力強さ。
崖の上に立つお堂をぐるっと回る箇所では、足を滑らせたら最悪死ぬというある種の臨死体験ができる。小学校中学年ぐらいのお子さんがお母さんに「もしここの床が抜けたらどうする?」と聞かれていた。お母さんは「それは神様がそう言ってるってことだからもういいの」というかなりハードコアな回答を繰り出していたが(お子さんも面食らっていた)、そういった霊的なものを感じさせられるスポットであることは間違いない。
かなり気合を入れて臨まないといけないが、それでも行く価値のある場所だった。オススメです。