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2023年 印象に残ったライブの記録と最高のフェスを見つけたこと

2023年に見に行ったライブの中で特に印象に残ったものをピックアップして残す。ちなみに動画はたいてい参考映像で、当日のものではない。

1/15 失われない音楽祭@梅田Shangri-La

2023年春の解散を発表したbonobosと、4年ぶりに復活した天才バンド(TENSAIBAND BEYOND)のツーマン。終わりを迎えるバンドと、復活を(何でもないような顔で)果たしたバンドが「失われない音楽祭」というタイトルでライブを行った。天才バンドは「BPM」などの未発表曲を中心に高い即興性と小ボケで満たされた演奏で笑いと感動が入り混じる。特にラストで「君が誰かの彼女になりくさっても」を弾き始めたSundayカミデと、なぜか「天王寺ガール」を歌い始めた奇妙礼太郎のカオスさは、彼らが帰ってきたことを感じさせた。解散を間近に控えたbonobosに感じたのは、音楽性の幅広さと圧倒的なテクニック、そしてうたごころ。「グッドモーニングマイユニコーン」から始まったライブは、2ndシングル「Water」から最新曲「おかえり矮星ちゃん」まで広がり20年の歴史を叩きつけられた。特にラストで演奏された「春のもえがら」は東日本大震災を受けて作られた大名曲で、彼らがこの曲をどれだけ大切に思っているか感じられ、普通に泣いた。

2/18 Pavement@なんばHatch

Lo-Fiを代表するPavementの2022年再結成後来日ツアー。自分が彼らを知ったときにはすでに解散していたので、生で聴ける機会が巡ってくるとは思っていなかった。そして結成から34年たってもPavementらしいヘロヘロで、ふにゃふにゃで、切ない郷愁のあるスタイルで演奏されていることに感動した。彼らが2曲目に演奏した「Shady Lane(木陰の小路)」では、スラングなども織り交ぜながら「誰もが木陰の小路をほしがっている、誰もが木陰の小路を必要としている」と歌われる。途中でイントロをミスって、照れ笑いをしながら仕切りなおすスティーヴン・マルクマス。彼らが生み出した余白と世界観は、完璧さを求める世間に対するカウンターで、この時代を生きる者たちのShady Laneそのものだった。

3/3 bonobos LAST LIVE@BIGCAT

bonobosの大阪ラストライブは「GOLD」から始まった。この楽曲で描かれた希望に満ちた別れの情景から、この素晴らしいバンドの演奏を聴けるのが今日で最後だということを惜しむ気持ちがとんでもなく大きくなっていった。そして圧倒的な技量で演奏される、20年の歴史。ラストは一番聴いたアルバムから、「グッドモーニングマイユニコーン」だった。そして3/5のラストライブでbonobosは解散し、素晴らしいベーシストであった森本夏子が引退した。「GOLD」で歌われた再会があることを強く願う。

4/11 ANIMALS AS LEADERS@BIGCAT

トシン・アバシ率いる超絶バンドの来日。普段はあまりメタル寄りの音楽は聴かないのだが、ANIMALS AS LEADERSは心臓を刺しに来るような内省的なサウンドで、オルタナとメタルの架け橋になるような音楽として愛聴している。しかし実際生で聴いてみると、やはり信じがたい技術であった。独自性を突き詰めた先にあったテクニックとうたごころの共存に痺れた。

5/16 スカート×街裏ぴんくツーマン@梅田CLUB QUATTRO

なんでこれ実現した。シンガーソングライターと漫談家の異種格闘技戦。しかも前後編じゃなくて、交互にネタ→曲→ネタ→曲…と進んでいく混乱。途中で街裏ぴんくが演った「カンカン音研究所」が最高に面白かった。音を冷やして冷やして、凍り付かせた先にきゃりーぱみゅぱみゅの『にんじゃりばんばん』のカンカンッという音が作り出せる。そのカンカン音の研究所を見学したときの思い出を語るという嘘すぎる漫談。スカート・澤部も名曲「CALL」をやったり、「資源ですね~」という謎の受け答えをしてしまったり、それこそ嘘みたいな状況だった。

大阪に来るたびに見に行ってしまう街裏ぴんく氏はなんと2024年に史上最多出場者5,457人を叩きだしたR-1グランプリで決勝に勝ち残り、そして悲願の優勝を果たした。地上波で彼の嘘を愛する新たなソウルメイトを獲得してほしい。

6/9 海豚刑警(イルカポリス )@京都UrBANGUILD

台北のバンド・イルカポリスの来日。キュート!ミラクル!ドリーミー!ギタボギャル・伍悅がめっちゃ日本語練習してきてたのも、もう推しでしかなかった。全部のMCに基本的に「!」が5個くらいついているエンパワー即席日本語。個性的なメンバーが展開した、ポップな台北の夜。「アンコールありまーす!」といってステージを去っていってすぐ戻ってきたのも良。好きです。

7/10 Festival Frue Zinho@大阪 味園ユニバース

FRUEの関連イベントでユニバースに3組が集合。角銅真実×古川麦の日本語の音そのものを愛してるような、ひらがなが浮かぶ良い浮遊感。そしてサム
・ゲンデルの圧倒。なにより、トリを飾ったBala Desejo。出会えてよかった系バンド金賞。素晴らしい祝祭感でラテン・グラミー最優秀賞の一角に選ばれた怪物バンドは、味園ビルをリオデジャネイロへと変えた。何一つ聞き取れないのに最高のコール&レスポンス、ポップなのに独特な哀愁のあるハーモニー、個性的すぎるフロント3名!(※来日ライブはルーカス・ヌネスを除いた3名のヴォーカルで行われた)

強すぎる輝きは長く続かない。フロント4名が個々に活躍しているBala Desejoは、2024年の春に解散を予定している。もう一度見たい!惜しい!

8/26 橋の下大盆踊り@愛知・豊田大橋下

2023年の夏はやたら盆踊りに参戦したこともあって、ぜひともこの「橋の下大盆踊り」に参加したかった。愛知県豊田市のでっかい橋の下で毎年やっている狂ったお祭り。ヒッピーの皆様大集合。SAICOBABがシタール×フレームドラムという特異な編成で、フレーズを反復させ続けて聴衆をトリップさせる現場を目撃し、それぞれスタイルの違う獅子舞が6団体集まって演武を行うステージを堪能、屋台も含め最高なお祭り感を味わうなどした。インドネシアの民族音楽・ガムランを日本でやっておられる深川バロン倶楽部さん、音楽も舞踊もすっごくよかった。そして一度は聴いてみたかったTURTLE ISLANDの「この世讃歌」も生で聴けた。盛り上がりすぎて予想通り大変な空間だったけど、夏の締めくくりに燃え尽きるような熱量を欲していたのでちょうどよかった。

9/15 宮坂遼太郎×細井徳太郎@京都 大粒の泪

時にサイケデリックに、時にプリミティブに、不規則なリズムから「音楽の誕生の瞬間」すら想起させるスーパーパーカッショニスト・宮坂遼太郎。SMTKや七尾旅人のサポートで知られ、圧倒的なテクニックと独創的で(激情と評したい)サウンドで唯一無二の存在感を示すギタリスト細井徳太郎。関東拠点と思われる二人のコラボが京都で見られるとは。

床にランダムに置かれた大量のパーカッションからは、様々なリズムと音が繰り出される。金属的な音、張られた皮の音、電子的な音、貝や骨のような質感の音。ビートの上では、ギターという枠組みでは捉えきれないような、自由なインプロヴィゼーションが演奏される。アンビエント/エレクトロニカ的文脈から捉えるか、フリージャズ的文脈から捉えるか、といったような既存の枠組みにあてはめることがそもそも難しい、原体験的な音楽。耳だけでなく、体で感じる音楽。最高だった。

10/8 京都音楽博覧会2023@京都・梅小路公演

京都はあいにくの大雨。くるり主催の音楽フェス・京都音博では、いつもいろんなジャンルのグッドミュージックを博覧できる。この10年自分の中の日本人ミュージシャンランキング一位を取り続けている中村佳穂氏は、大雨の中で最近のバンドセット(伊吹文裕と深谷雄一がツインドラムで入ってるやつ)で演奏。ライブの中間で、昔の曲をやりますといって自分が大学生の時にいつも感動していた「シャロン」をやってくれた。大きく変わっていくこと、いつまでも変わらないこと、豪雨の中で歌に痺れながら考えていた。

日が暮れて、槇原敬之の時間。そんなに詳しくない自分でもわかる大ヒット曲の数々。大雨で凍えながら聴いた「冬がはじまるよ」は、感動半分、寒すぎるわ!半分。ただ、一流のミュージシャンが見せる圧倒的なライブのクオリティは、やっぱり「最高」としか言いようがない良さがあった。ポップスターであり職人、そしてお茶目。

11/3-4 FESTIVAL de FRUE@静岡・つま恋リゾート

この年に参加した音楽イベントで、No.1のクオリティだった。特にブッキングの精度が半端なくて、正直存じ上げない方も多数参加しているのに、自分に刺さらない音楽が無いという恐ろしいフェス。自分が見た演奏全てについて語り尽くしたいが、流石に紙幅が足りないのでいくつかピックアップ。

11/3の出演で一番衝撃を受けたのは、Clown Coreだった。断言できる。人生で見たライブで間違いなく一番変だったし、そして圧倒的な技巧と生演奏への強烈なこだわりに感動した。狂おしいほど複雑な展開の曲を、仮設トイレを模した狭い空間に二人で入って生演奏してしまうという、白昼夢のようなライブ。彼らの存在を叩きつけられ、ただ衝撃を受けることしかできなかった(その場で咀嚼できる情報量ではなかった)。FRUEはミュージシャンと観客の距離が近く、各演者が普通に会場内を歩き回っているのだが、Clown Coreは覆面バンドなのに、その中身とされているSam GendelとLouis Coleが会場内各所に普通にいてそれも面白かった。

11/4の出演も本当に全部良すぎて書ききれないが、特にブラジルの至宝・Hermeto Pascoalの演奏が見られたのは、一生の思い出になった。バンドメンバーのHermetoへの強い信頼感が伝わってくる演奏で、ストイックな即興性と多幸感の強い音像が入り混じり、マジで脳がシェイクされるくらい踊った。フュージョンを聴きに静岡に集まる人がこれだけいて、何百人が踊り狂っているという事実にも興奮した。FRUEはラテン音楽に力を入れているフェスのようだが(7月に味園でみたBala DesejoもFRUEが呼んだ)、見るたびにパーカッションの凄さにやられてしまう。

そしてこの日は中村佳穂も出演。メンバーは今までと全く違う、閑木弦介、宮川純、宮川剛というジャズに精通した、即興性の強い演奏もこなせる編成だった。そして出順が一つ前だったSam Wilkesが飛び入り参加するというサプライズがあった。即興で合わせるSam Wilkesとメンバーたちの音のコミュニケーションに、ライブが、ひいては音楽そのものがまた好きになった。いつもに比べ、骨格がむき出しになったようなこの力強い編成をまた見たい。

ちなみに中村佳穂はHermeto Pascoalのライブにも飛び入り参加。FRUEではミュージシャン通しの即興コラボはよくあるようだが、日本人が来日アーティストのステージに立つことは稀だそうで、この二日間では中村佳穂とSam Wilkes、Hermeto Pascoalの2ステージでのコラボだけだった。軽薄にこんなことを書くべきではないかもしれないが、中村佳穂は日本を代表するミュージシャンとして、アメリカの最先端の音楽を担うベーシストと、そしてブラジルの伝説のピアニストと、後に語り草になるであろう共演を果たした。

12/1 CRCK/LCKS『総総続続』@大阪 ANIMA

大阪で超絶技巧ポップバンド・CRCK/LCKSのライブに参加。2023年にリリースしたアルバム『総総』の名前が冠されたライブツアーで、期待していた圧倒的な銀行の新曲「AfterImages」も聴けて大満足。歌も含めてここまで緻密なリズムだと、見る側も構えて聴いちゃいそうなんだけど、あまりにも演奏が上手すぎてただ気持ちよくさせられてしまう。

石若駿(ドラム)が36分のビートを叩きまくる名曲「No Goodbye」は、音源とは異なる衝撃的なテンポアップ長尺アレンジ版(上記の動画のver)を演奏していた。リズムに対する解像度があまりにも高すぎて、きっとメンバーの皆さんが見えている世界と、自分が見えている世界は全く違うものなんだろうなと思わされた。ただその高次元のリズムの解釈の世界を、メロディとハーモニーで多くの人が楽しめるものとして提示してくる場面もあれば、なんだったら自分がついていけないこと自体が楽しくなってくるという、ある種のトリップ状態になる場面もあった。高い演奏技術は音楽にとってマストではないのだが、高度なテクニックは人を感動させる。

12/12 上原ひろみ@大阪 フェスティバルホール

Hiromi's Sonicwonder JAPAN TOURと名付けられた上原ひろみの、新譜を携えた2023年ライブは、この「Sonicwonderland」と名付けられた曲が印象深い。ヴルフペック、コリーウォン、ルイスコールなど近年シーンをリードしてきたミニマルファンク界隈へのカウンターともいえそうな、ファンキーでタイトなリズムと、お茶目な悪ふざけ的サウンド。上原ひろみほどの成熟したキャリアを持つジャズミュージシャンが、ここにきてまた新しい一面を見せてくれたことは、往年のマイルス・デイビスを思わせる。

また彼女が2003年に発表したスリリングな展開が印象的な「XYZ」を生で聴けたのも素晴らしかった。新旧そろい踏みである。ツアーメンバーが素晴らしく、2022年にみたクインテットとのライブと異なり、ピアノ、トランペット、ベース、ドラムというがっつりバンド形態!キューバのトランペット奏者、アダム・オファリルのシルクの布のように滑らかで繊細な音に衝撃を受けた。どれほどの修練を積めば、トランペットからこんな音が出るんだろう。圧巻のベースを弾き続けたアドリアン・フェローの素晴らしさは言わずもがな。

まとめ

2023年に行ったライブとしてはこんなところ。特にFRUEに出会えたのは自分の人生にとってかなりの僥倖だった。毎年いこう。みなさん、2024年は静岡で会いましょう。


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