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F1 2022 レビュー 第4戦 エミリア・ロマーニャGP ~雨のレースの難しさ

2022/4/22~24に開催された、F1エミリア・ロマーニャGP。
イタリアのエミリア・ロマーニャ地方にあるイモラサーキットが舞台です。

久しぶりのF1レビューとなりました。
前戦のオーストラリアGP。時差もほとんどなく、日本でも昼間に見ることができたのですが、土曜日に打ったモデルナワクチンのおかげで、高熱は出なかったものの2日間とも寝てしまい、気づいたら終わっていました…。
疲れが相当溜まっていたのかもしれません。

今週も何かとキツかったのですが、レースをしっかり振り返ってみました。
雨が展開を左右した3日間。せっかくなので、雨のレースの難しさについても語ってみました。

イモラサーキット

正式な名前はエンツォ・エ・ディノ・フェラーリサーキット。
あのフェラーリ創始者、エンツォ・フェラーリの名を冠している。
かつて、イタリア半島にある「サンマリノ共和国」の名前を借り、「サンマリノGP」が開催されていた。

2006年以降開催されなかったが、新型コロナのパンデミックによりフライアウェイができなくなり、その代替としてイモラが名乗りを上げ、サーキットがある地区「エミリア・ロマーニャ」を冠してGPが開催されるようになった。

ここは、オールドファンなら心に刻まれているサーキットだろう。
今もタンブレロコーナーのコース外にはセナの銅像が佇み、多くのファンが訪れるスポットになっている。

コース幅が狭く、近くに川が流れているためランオフエリアが広く取れない。
今年もそれが明暗を分けることになってしまった。

雨のレースの難しさ

今週は天候がコロコロ変わる難しいGPウィークだった。

正直、レーシングカーは雨の中を走るのに適していない。
一般車は車重が重く、タイヤも溝が切られていて路面の水をかきながら進む。
それに比べてレーシングカーは一般車よりもはるかに軽く、その上エンジンの出力が桁違いに高い。
車体が生み出すダウンフォースと、スリックタイヤの高いグリップを使ってサーキットを駆けるマシンも、雨が降ってしまうとより危険度が増す。

F1用のレインタイヤにも溝が切ってあり、一般車と同様に路面の水をかきながら進むが、スピードを出しすぎると一般車と同じく「ハイドロプレーニング現象」が起こり、瞬く間に滑ってしまう。

※タイヤメーカーのダンロップが、ハイドロプレーニング現象について解説した動画。一般車でもヘビーレインの時にはコントロールが難しいことがあります。

そんな条件下でも、F1ドライバーはマシンを操り、白熱のレースを見せてくれる。
雨のレースと聞いて、オールドファンが思い浮かべる言葉はもちろん「雨の中嶋」。
1989年のオーストラリアGP。
雨のアデレイドでファスてストラップを記録しながら4位入賞した中嶋悟。
中嶋さんのドライビングテクニックが素晴らしいのはもちろんだが、雨になるとマシンスピードが落ち、欧米人に比べて体力的に不利な日本人でも結果が出しやすい、とも言われる。
ただ、現在は当時と比べてマシンも大きく変わっているので、今はもう少し条件はイーブンになっているかもしれない。

ウェット時に使用されるタイヤは2種類。
青い文字のレインタイヤと、緑の文字のインターミディエイトタイヤ。
レインタイヤは雨が降り続いているようなヘビーレインの状態で使用する。
タイヤのトレッドに大きく溝が切られていて、前述のように路面の水をかき分けながら走る。
対してインターミディエイトタイヤは、トレッド面に浅い溝が切られていて、雨は止んだが路面が濡れているような状態で使用する。このような状態を「ダンプ」という。

雨用のタイヤが用意されているとはいえ、前述の通り雨中のレースは危険が伴う。
雨の程度にもよるが、レースがスタートできそうな時には、セーフティーカーが先導してフォーメーションラップからレーススタートし、しばらくそのままレースが続くことがある。レースをコントロールするスチュワードがレースが開始できるコンディションになったと判断すると、セーフティカーがピットに入り、レーススピードで残りの周回を争うことになる。

また、2014年のジュール・ビアンキ選手の事故の教訓から、レース中に雨がひどくなってレース続行が困難な場合は、バーチャルセーフティーカーによりマシンスピードを落とす処置もとられる。
もちろんレース開催が困難なほど強い雨の場合は、赤旗によるレース中断もある。

ベルギーのスパ・フランコルシャンサーキットのような、山の上にあって天候が読めないサーキットや、マレーシアのようにスコールが降る地域でのレースなどは、幾度となくレース中断を余儀なくされることがあった。
鈴鹿も例外ではない。2014年の事故は本当に残念だったが、元々台風が多い10月に開催されるとあって、台風接近により予選が丸ごと翌朝に順延、ということもあった。

雨の金曜日

金曜日から難しいウェットコンディション。
FP1は雨の中の走行。

迎えた予選。Q1はまだ天気が持ったものの、角田が悔しい敗退。
ウェットコンディションの中、マシンを煮詰められなかったか。
とにかく明日の挽回に期待。

Q2では好調フェラーリのサインツがスピンアウトしてしまい、赤旗中段。
その最中に再び雨が降り出し、各車とも路面が乾いていた時に出したタイムを更新できなくなってしまった。メルセデスの2台がここで敗退。

Q3 は全車インターミディエイトタイヤで走行。雨は降り続き、ずっと走っていないとタイムも出しにくい。
結局、トップタイムを出したのはフェルスタッペン。フェラーリのルクレールを抑えてのPPだったが、難しいコンディションの中の紙一重のトップタイム。明日のF1スプリントには、フロントロウにルクレールを従えて臨むことになった。

天候が回復した土曜日

土曜日は昨日とは打って変わって、晴天のドライコンディション。
レース前にFP2があるので、各車コースのコンディションやドライのセッティングもチェックできる。

今年1回目のF1スプリントレース。
今年も数戦で予定されている模様。
昨年始まった新しい予選方式で、記念すべき1回目のレースについては以前記事にまとめたので、ご参考までに。

しかし、こんなコース幅もランオフエリアも狭いイモラサーキットでスプリント予選とは…。
集まったファンは嬉しいだろうが、波乱のレースになることは容易に予想できる。

レースは1周目から波乱の展開。
PPのフェルスタッペンがスタート大失敗。
間隙を突くようにルクレールがトップに躍り出る。

セナの事故後にシケインになったタンブレロコーナーを、やや団子状態で各車駆け抜ける。
やっぱり狭くてヒヤヒヤもの!
すると、案の定ガスリーとジョウ・グァンユウが接触し、ジョウがコースオフ。
セーフティーカーがコースへ。
スプリントレースなのに、ずっとSCがコースに入っているようでは意味がない。

5周目にレース再開。
予選Q2でクラッシュしてしまったものの、タイムは出していたため10位からスタートしたサインツ。
ここから、サインツのオーバーテイクショーが始まる。
次々と前の車を料理していき、5位まで順位アップ。
スプリントレースは、前日の流れをチャラにすることができるのも魅力。

レース終盤。2位を走るフェルスタッペンが、トップのルクレールにじわじわ追いついてきた。
20周目。ホームストレートからDRSを作動させ、タンブレロでダイナミックにルクレールをパス。
そのままトップを守り切ってチェッカー。
ルクレールはトップを死守するため、タイヤを思いのほか使いすぎてしまったようだ。

今年一発目にしてニューマシンで初めてのF1スプリントは、なかなかエキサイティングな内容になった。テレビで見ていても楽しめたのだから、現地で見ていたらもっと楽しかっただろう。
ただ、ティフォシ(イタリアのフェラーリファン)にとってはほろ苦いスプリントになってしまったが…。

ダンプ状態の難しい攻防

昨日までの晴天はどこへやら。日曜日はレース前にまた雨が降ってしまった。
レコノサンスを迎えるころには雨は止んだが、路面は濡れたままのダンプ状態。

このコンディションが一番難しい。
そのまま晴れてくれれば路面がどんどん乾いてゆき、いつドライタイヤに変えるかの駆け引きが面白い。
しかし、雨雲レーダーではレース中にもうひと雨来そうな予報もある。
レースは全車インターミディエイトタイヤでスタートとなったが、もし途中で雨が降り出したら、溝が減ったタイヤでマトモに走れず、多重クラッシュの恐れもある。

幸いスタートの時間までに雨は降らず、レースは無事スタート。
昨日の大失敗から一転、フェルスタッペンがトップを守る。
逆に大失敗したのはフェラーリ。3位スタートのペレスや、マクラーレンのノリスにも先に行かれてしまった。

4位スタートのサインツも、中段の団子状態の中に埋もれてしまい、そのままタンブレロへ。
サインツのすぐ右側を走るリカルド。濡れた路面の中、スタート直後の混沌とした争いで行き場がなくなり、サインツのフロントにヒット!たまらずサインツがスピンし、コースアウト。
ぶつけられたのも不運だが、その上深いサンドトラップに足を取られて万事休す。
押し出したリカルドはそのままコースに復帰するが、空しく回転するだけのサインツのタイヤ。
せっかくフェラーリとの契約が2年延長されたと発表したばかりなのに、まったくツキのなかったサインツ。
サーキットに集まったティフォシたちも肩を落とす結果となってしまった。

レースは中盤を迎えても、雨が降る様子はない。
バトルがなければ、各車一列に連なって走るレース。
一筆書きでコース上を早く走れるライン(レコードライン)を各車が順番に走り抜けるので、濡れたコースに一筋の乾いたラインができる。
インターミディエイトタイヤも構造はスリックタイヤとほぼ変わらないので、乾いた路面の上を走ると、溝が消えていってしまう。
その状態でラインを外れて濡れた路面を走るとグリップせずに危険。さらにその状態で雨が降って路面が再び濡れてしまうと、早くタイヤ交換しないとさらに危険度が増す。
だが、今日はしばらく雨の心配はなさそうだ。
17周目を境に、各車ミディアムタイヤに次々と交換。
ダンプ状態の路面から一転、ドライでの争いが始まる。

角田のオーバーテイクショー!

昨日のF1スプリントでも順位を上げ、決勝はメルセデスの2台よりも前、12位からスタートした角田。
序盤の混沌とした争いをすり抜け、ドライタイヤへ交換する頃には9位にまで順位を上げていた。
そして前を走るマグヌッセンを抜いて8位。国際映像でもバッチリその模様が映った。

昨年、デビューしたての角田はこのサーキットでF1の厳しい洗礼を浴びた。
チームのファクトリーが近く、旧マシンで十分走りこんだコースなだけに期待されたが、残念な結果に終わってしまった。
しかし、今年は難しいコンディションもものともせず、落ち着いたレース展開でどんどん順位を上げている。マシンが大きく変わっても、1年間の経験を活かし、着実に成長した姿を見せてくれている。

地元フェラーリが見せた「焦り」

レースは終盤。心配された雨も結局降らず、路面はすっかり乾いてしまった。
その後は特に大きな順位変動はなく、スタートから終始レッドブルが1-2をキープ。
開幕からずっと強さを見せていたルクレールは3位。せっかくの地元レースで予想外の展開。

50周目。ここでフェラーリが動く。
ルクレールをピットへ呼び、新品のソフトタイヤへチェンジ。
トップとはかなりの差があるため、ファステストラップの1ポイントを狙う戦略か?はたまた、レッドブルよりもペースが速いと踏んで、このタイミングで勝負をかけてきたか?

トップとは差が離れていても、前を走るペレスとはそこまで差はない。
このまま走ると、ペースの速いフェラーリに追いつかれ勝ち目がなくなる。
ここはルクレールに呼応し、ペレスもソフトタイヤへ。
すると、トップのフェルスタッペンも「僕も替えたい!」とピットへ入り、ソフトへ。
ファステストラップすらも死守する作戦のようだ。

ルクレールとペレスはお互いファステストラップを更新しながら僅差の争いを演じる。
どちらが勝つのか?手に汗握る展開を固唾を飲んで見守っていた53周…
何と、ルクレールが縁石に乗ってしまいスピン!
クラッシュを間一髪で回避したものの、バリアにヒットしてしまった模様。
その周にピットインし、タイヤとフロントウィングを交換。
かなりのタイムロス。順位を9位まで落としてしまった。

残り9周。
前を走る車は皆、中盤に交換したミディアムタイヤ。ペースが違う。
マグヌッセン、ベッテルを簡単に料理して7位。
前を走るのは角田。混乱の最中、ベッテルを抜いて6位になっていた。
ひとつでも上の順位でフィニッシュしたいが、後ろから追いかけてくるルクレールはペースが違う。
下手に抵抗してクラッシュするわけにはいかず、前に行かせた。
最終的にルクレールは6位でフィニッシュ。

優勝はフェルスタッペン。久々に見た、レッドブルの1-2フィニッシュ。
チャンピオンシップにおいても大きなアドバンテージ。
前戦までリタイヤも多かったフェルスタッペンにとっても大きなポイント獲得となった。

まとめ

結局レース中に雨が降ることはなく、終盤はいつも通りのバトルを見ることができた。
流れを変えようとソフトタイヤへスイッチしたフェラーリ。
レッドブルも呼応してトップ3の争いとなったが、焦りの色を見せてしまったルクレールが痛恨のスピン。
フェラーリのお膝元で、散々な結果となってしまった。

今後イタリアGPもあるので、フェラーリの母国での活躍はモンツァへ持ち越しとなったが、その頃までフェラーリは強さを維持できるだろうか。
粘りの走りで3位表彰台となったマクラーレンのノリスも好調。
ハースやアルファロメオもいいリザルトを残している。
そして、怖いのはメルセデスの存在。他のチームよりひどいポーパシングを解決できれば、十分トップ争いができる強さを発揮する可能性を秘めている。

今レースは角田の活躍がクローズアップされたレースだった。
堅実な走行で7位フィニッシュ。チームメイトのガスリーに勝つセッションも増えてきた。
そうなると今後も楽しみになってくる。
マシンの特性に合わないサーキットもあると思うので、ずっと同じ結果を出し続けることは難しいと思うが、よりポイントを稼いでチャンピオンシップを盛り上げてほしい。

タイトル画像はF1公式Twitterより使用させていただきました。
雨の中を疾走するサインツのフェラーリ。結果的に残念な週末になってしまいましたが、次に期待ですね。

次戦は初開催のマイアミGP。
レッドブルが公開したこの動画、面白かったです!
主人公はペレス。クリスチャン・ホーナーのリラックスしている姿も珍しい。
そして、どこまでがロケでどこまでが合成なのかわからないほどのクオリティの高さ!NYからマイアミに向けて、レッドブルのマシンが疾走。
コミカルだけどエキサイティング!次戦が楽しみですね。


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