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スターバックはコーヒーを飲まない哀れな真人間である【読書の記録・3月】

3月今日までで4タイトル6冊を読んだ。

もう一つくらいいけるかもしれないけれど、満ち足りた気持ちなのでここでまとめておく。

NO RULES / リード・ヘイスティングス, エリン・メイヤー, 土方奈美訳

紹介は帯より。

「普通じゃない」経営手法で世界一成功している企業の
「自由と責任の企業文化」を
共同創業者が初めて明かす!

新常態の働き方とマネジメントが凝縮

ネットフリックスが成功し続ける企業文化を育んだコツを、以下の3ステップ x 3サイクルで説明している。

①能力密度を高める
②率直さを高める
③コントロールを減らす

つまりどういうことか。本の中でも登場した言葉を用いて例を挙げる。写したのではないのでやや異なる表現になっているだろうことに注意されたい。

①凡庸な人を2人雇うのではなくスーパースターを一人雇うこと
②いつでも、どこでも、上司を含む誰に対しても、特に改善点についてのフィードバックを行うこと
③承認プロセスをなくすこと。休暇規定を設けず好きな時に好きなだけ休む、誰の承認もなく巨額の契約を締結する、など。

コントロール(規則)で縛りつけずとも、コンテクストが十分に共有されたならば集団は自然に動いていくものだというのが実感できる。

また、その運用の難しさも多いに伝わってくる。

現在、私は集団を率いる場面がないので実践に移したい方法などを得ることはなかったが、こういう世界もあるのかと一つの学びになった。

色々な世界に触れるのはいいことだろうが、個人的には以下の箇所を胸に刻んでおきたい。

優秀な社員を採用し、それぞれが心からすばらしいと思うアイデアを実行する自由を与えれば、イノベーションは生まれる。ネットフリックスは医療や原子力といった安全性を至上命題とする市場に身を置いているわけではない。業界によってはミスを最優先すべきだ。一方ネットフリックスはクリエイティブ市場で戦っている。私たちにとって長期的に最大の脅威となるのは、イノベーションの欠如である。― p. 235



星の王子さま/サン=テグジュペリ

ファンも多く引用に出されることも少なくない名作だが、読んだことがなかったので手にとってみた。

まあ、それをいうならまず聖書とシェイクスピアを網羅すべきなのだろうけれど。

童話ということで、案外デタラメな本を読みたいという欲求は満たされた気がする。

おかしな大人ばかりがいるのだ。


白鯨/メルヴィル 八木敏雄訳

世界十大小説チャレンジ2作目。岩波文庫版。

『月と六ペンス』(面白かった)を書いたサマセット・モームが

『戦争と平和』(面白かった)と並べて十大小説の一つに選んだのだ、

面白くないわけがなかろう。

と意気込んで読み始めたが、期待を裏切られた気分だ。

何故か。


目次に続く7ページ、登場人物紹介に結末が全て書いてあるからだ。

Moby-Dick or, The Whale (モービィ・ディックあるいは鯨)なる原著の時点でこのような登場人物が記されていたのか、はたまた訳版出版に伴い、大航海小説で迷わぬよう気を利かせて指針を示してくれたのか。

恐らく後者ではないかと思うが、上・中・下三巻に渡り読み進めてきて、クライマックスに当たる白鯨(モービィ・ディック)との死闘にきたときのワクワク感がゼロ。

もし今後この本を手に取る方がいたら、勇気を持って大胆に登場人物のページを飛ばして捕鯨船での航海を始めていただきたい。

さもなくば凄惨なネタバレに喘ぐこととなる。(ぴえん!!!)

逆に、この名作を読んだ気になりたければ、上巻一冊を借りてきて登場人物3ページ分と目次に目を通せばよかろう。



タイトルからも想像に難くなかろうし、既に言及してきたが、一頭の白いマッコウクジラ、モービィ・ディックに挑む老人とピークオッド号の乗組員らの一航海の物語。

一章が数ページと短く、エピローグの前の章で135を数える。


上巻では主人公が捕鯨船乗船に至るまでにそれなりのページ数が割かれており、一つのできごとで一章の文構造も手伝いリズム感のよい滑り出しを感じる。


中巻ではいよいよ「十大小説」たる登場人物らのうざい語りも濃くなってくる。また、章の終わりごとに作者が「人間とはこうではないか」と語りかけてくることも多くなる。たまらん。

だから、異常におびえた鯨を目のあたりにして大げさに驚いてみせるようなまねはひかえたほうがよい。地球上の動物のいかなる愚行も、人間の狂気とくらべるなら、どれも愚行の名にあたいしないのだから。― 中p. 436

少々厄介で難解で屁理屈に満ちた言い回しが私は好きなのだと思う。

難解かどうかはその人の感性に依るところが大きいのは承知の上で。


下巻には「ピークオッド号、○○号にあう」と称した章が5つもあり、ついに白鯨と相見えるまでの航跡が堪能できる。

クライマックスについては上述の通り。

結末を知らなければこの長旅の終焉を楽しめるだろう。そのように読める人が羨ましい。


乗船後は人物に寄り添うのではなく第三者的、神的目線から見た章が多くなる。船について、捕鯨について、あるいは鯨そのものについてのひどく専門的で冗長な説明が挿入されており、やや眠気を誘われた。

しかし、ピークオッド号の追ったマッコウ鯨と、セミ鯨の対比を筆頭に専門的説明の中でも各所から主人公がマッコウ鯨に抱く並ならぬ畏敬の念が伝わってきた。また、その捕鯨行為に対しても然りである。

なんと美しく清楚な感じの口腔であることか!床から天井まで、花嫁衣装のサテンのようにつややかな純白の膜に裏打ちされている。いやむしろ、そのような純白の膜が一面に貼りつめられられていると言ったほうがよかろう。― 中p. 328 第74章 マッコウ鯨の頭―比較対象的考察
しかし、たとえこの鯨が王であるにしても、その栄光の王冠をいただく者にしては、いささか不機嫌な顔をしすぎてはいないか。あのだらりとたれた下くちびるを見よ!なんという巨大な仏頂面であることか!― 中p. 331 第75章 セミ鯨の頭―比較対象的考察



読了直後は酷く落胆していたものだが、こうして書き綴りながら振り返ってみるとこれもこれで悪くなかったような気がしてきた。

一つ改めて声を大にして言っておきたいのは、これはあくまで浅薄な知識と読書の趣味しか持たぬ人間の感想文に過ぎないということだ。決して書評のつもりはない。

期待が大きかっただけに読後の落胆もあった。そのためこれまでの読書記より批判的な語彙を用いたことを自覚せねばなるまい。

これによりこの記事の読者の皆様から『白鯨』があらぬ誹りを受けないことを願う。

とはいえ、敢えてこの本を是非読んでほしいと誰かに紹介することは今後もないと思う。


狂気に侵された老船長に対して真っ当な助言を繰り返す航海士スターバックは、かのスターバックスコーヒーの名前の由来になったのだという。

スタバ好き、あるいは鯨好きの方には一読の価値があるかもしれない。

スターバックがコーヒーを飲む描写は登場しないが。


流浪の月/凪良ゆう

推薦本。どんな内容か、予備情報ゼロのまま購入。まず、タイトルと表紙が素敵。


他に紹介してきた本よりも興味を持つ人がいそうなので内容にはあまり触れないでおきたい。

ごく控えめに一言でまとめると歪な二人の物語。

電車で読み進めていて、「読みかけの本を閉じてほんの10分後に人と会ったとき、私はニコニコ人と話ができるだろうか」と不安になった。

これは少しオーバーな表現かもしれないが、主人公らの苦しみに触れ、それくらいのめり込んだ。

「事実なんてどこにもない。みんな自分の好き勝手に解釈してるだけでしょう」―p. 205
事実と真実の間には、月と地球ほどの隔たりがある。その距離を言葉で埋められる気がしない。―p. 251

明るく祝福に満ちた物語ではないので、やたら誰にでも勧めはしない。

けれど、心の中では自信を持って「好きで、また読みたいと思う本」に分類できた。

山田くん紹介ありがとう!!なんだかんだ一日で読み切った。笑


読書の記録をまとめてきて

気づいたこと、感じたことは以前までの記事でも都度述べてきた。

今回は読後感の話を。

私は本を読んでいる途中、また読み終わったときに「あっさり」や「さっぱり」といったチープな食レポのような形容詞が浮かんでくる。

内容や構成、読みやすさをきちんと分析することはあまりないが、読んで率直に感じる、作品の纏った空気感を強く意識するのだ。

読んだ本の記録がてら内容を自分の言葉で書いてみたり感じたことを文章にしていく。

(私は記録しなければ、読んだ本の内容どころかタイトルすら忘れてしまうことがある。)

この過程を経て、空気感の認識を改めることもあるし、逆に以前にも増して納得することもある。

自分なりの解釈を補強する過程は面白い一方、初めに浮かんできた言葉だけ伝えたとき、どれくらい他人に伝わるのか試してみたい気持ちもある。



私の中で「いい本」かどうかの判断基準の一つに「もう一度読みたいと思うかどうか」がある。

纏った空気が好きで、もう一度その世界に浸りたいと感じたならば、それはもう一度読みたいと言い換えていいのだろう。

こうして分類してきた私にとって「いい本」の持つ空気には共通する部分(風味?)があるような気がする。

まだ的確に言い表すことはできないのだけれど。

読んで、記録してを繰り返すうちにこの輪郭ももっとはっきり見えてくるのかもしれない。

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