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炎の魔神みぎてくん グルメチャンネル ③「こんなときくらい素敵な服着るわよ」

3.「こんなときくらい素敵な服着るわよ」

 ロケの当日の朝は、昨夜までのしとしと雨がうそのような、素敵な晴天だった。もちろん春なのでいささか霞がでているのだが、雨の日にぬれながら街角案内という最悪の条件は避けられたわけである。もちろんのことだが、みぎては雨が苦手である。普通の人ならずぶぬれになって風邪を引く程度なのだが、この魔神の場合代わりに軽いやけどになってしまうらしく、とにかくひりひり痛いらしいのである。(温度が低いのだから凍傷かもしれない。)だから雨の日の外出ともなれば、かさだけでなくしっかり雨合羽まで装備である。これではハレの舞台にはあまりに情けない。
 ロケ開始は朝十一時、集合は八時半ということなので、コージとみぎてはいつもよりも早起きして準備である。通学だけならいつもどおりに適当に起きて(みぎては趣味の拳法の朝連で五時半ごろ、コージはさらにのんびり七時)七時半ごろ朝飯で、シャワーを浴びて服を着替えてちょうど八時半に学校に着くという段取りでよい。ところが今日は二人ともきっかり五時に目が覚めて、その後はそわそわドキドキしながら風呂に入るやら、服を選ぶやら、はたまた髪の毛をセットする(これはコージだけである)やらで忙しいわけである。いくら度胸満点の魔神といってもさすがに緊張しているのは明らかだろう。主役じゃないコージだってそれは同じである。

「みぎて、その服ちょっとだめ。こっちにしろって」
「えっ?そっかなぁ…俺さまこの色のほうがいいと思うんだけどさ」
「でもそれだと靴が合わないって。あ、このチョーカー貸して」
「あ、俺さま使うつもりだったんだけど。まあいいや、じゃあこっちにするか」

 という具合である。こんなになんどもとっかえひっかえ服を選んでいれば、時間などすぐに過ぎてしまうのは当たり前であろう。いや、おそらくコージだけではなく、ディレルやポリーニだって間違いなく大騒ぎに決まっている。

「みぎて、ところでそのバッグなんなんだ?」
「あ、これか?うーん、プロデューサーにもってこいって言われた」

 玄関口のところに鎮座している大きなスポーツバッグに気がついたコージは、ちょっと中をのぞこうとした。袋自体はみぎてが人間界に来た直後から使っているずいぶん古ぼけたナイロン製のものである。何処かの体育会系部活の連中が使ってるタイプ(部活だったら中からユニフォームやボールあたりがごろごろ出てくる)のやつで、この魔神が魔界からやってきたときに、身の回りのものをつめこんでいたものである。
 ところがバッグを触ったコージは驚いた。重い…中にダンベルでも入っているのではないかと思うほど重いのである。こんなとんでもない重さの荷物を持って、ロケに行くというのはいったいどういうことだろうか?ありえるとすればTV用の大きなビデオカメラがあるとかだろうが、まさかそんな機材をみぎてに預けるということは考えられない。それになにより明らかにこのかばんはみぎてのものである。

「あ、魔界の服だぜ。ほら、前によく着てたやつ。」
「えっ?あれか?あの革パンツ?」
「うん、あれ。こてとかブーツがあるからさ」
「…あれってこんなに重かったのか…」

 あけてみると確かに中には大きな銀色の金属製の小手やブーツ、それから褐色の「前垂れつき革パンツとベルト」まで入っている。これは間違いなくみぎてが最初にコージと出逢ったときの服装である。今でもちょくちょくこの「超エスニック」な姿をしたみぎてを見ているが、こんな重たいものをつけて平然としていたのかと思うと、いまさらながら魔神の筋力のすさまじさに驚かされる。

「でもコージ、プロデューサーさんこんなもんどうするんだろうなぁ…」
「まさか…うーん」

 不思議そうに首をかしげるみぎてと、スポーツバッグにおさまった魔界ルックのウェアーを交互に見比べているうちに、コージはうすうすプロデューサーの魂胆が読めてきた。どうやらこれは間違いなく、「みぎてに魔神らしい格好をして出演してほしい」ということなのである。この間の打ち合わせのときも「俺さま」自称を「魔神らしくて視聴者に受ける」といっていたことを考えればわかる。
 人間界にきた当初はともかく、最近のみぎてはすっかり街になじんで、服装も普通の(体型から言ってヒップホップが多いが)人間の服を着ることが多いし、大きな目立つ炎の翼も引っ込めている。魔神らしいのは体格以外には輝く炎の髪の毛と角、それから申し訳程度の小さな牙くらいのものである。これではたしかに視聴者が期待する「程よい魔神らしさ」を考えると、いささか迫力不足かもしれない。それを考えると今回みぎてには、魔界のころの服装で出演してもらったほうが都合がいいとプロデューサーが考えたというのもうなずける話である。
 しかしいくらコージでも、この事実(まだ推定段階)をみぎてに宣告する勇気はさすがになかった。さっきからせっかくこの魔神が、うんうんうなってコーディネイトした今日のファッションを、いきなり根底からひっくり返してしまうのは明らかだったからである。

*       *       *

 朝八時半少し前に、二人は講座の扉をくぐった。いつも朝一番に出てくるディレルは当然既に部屋にいる。今日のディレルはちょっとおしゃれなブレザー姿である。明らかによそ行き…研究室には卒業式のときくらいしか着てこないような服だろう。

「あ、おはよ。プロデューサーさんとスタッフの方、もうみえてますよ」
「やっぱりな、だから急ごうって言ったのに、みぎてぇ…」

 コージの突っ込みにみぎてはすまなさそうな顔になる。実は最後の最後になって、この魔神はまた服に迷い始めたのである。気持ちはわからないこともないのだが、遅刻しそうになるまで悩むというのはさすがによろしくない。
 するとディレルは笑いながら言った。

「あ、でもまだポリーニ来てませんよ。大丈夫ですって」
「…え?」

 ディレルにしてみれば、みぎてを慰めるつもりで言ったその一言だったが、コージはまったく別の危険を瞬時に悟った。いや、コージだけではない…今まで服のことで頭がいっぱいだったみぎてすら、わずかに顔を引きつらせる。目を見ればお互い「まったく同じことを考えている」ことがわかる。

「ディレル、ポリーニがまだ来てないんだよな。何か連絡…ないよなどうせ」
「うん、え?…あ」
「やべぇぜコージ…」

 微妙に緊張した声のコージに、ようやくディレルも事態を把握した。間違いない…彼女がもたもたしている理由は、突然病気になったということでもないかぎりただひとつである。そう、発明品をこっそり持ち込むつもりなのだ。その準備に手間取っている以外に考えられない。
 一気に不安のどん底に落ちた三人だったが…そのとき案の定タイミングよく当の本人が出現するわけである。(ちょうど集合時間だから当然である。)

「ねえねえねえ、みんな準備できた?できてるわよね?」
「朝からほんとに元気ですねぇ…えっ?」
「っていうか俺さま一気に元気なくなったんだけど…げげっ!」

 振り向いた彼らの目の前には、やはりポリーニが、それも両手に大きな手提げ袋をもって立っていた。袋の中は「珍発明品」が詰まっているのは明らかである。さらに…
 コージたちが驚いたのは今日の彼女の服だった。いつものかざりっけのない、白衣とTシャツとジーンズという姿ではない。なんと今日の彼女は…フリルがいっぱいついた薄ピンク色のワンピースに、頭にはでかいリボンまでつけていたのである。一部で流行(ごく一部だと思うが)の、ピンクゴシックとかいう系統の服だろう。ポリーニがこんな服を着ているのを見るのは、いくらコージたちでも初めてのことだったが、あまりに似合う(正確にはステレオタイプ的にはまっている)のを見ると、間違いなく彼女の趣味なのである。

「ポ、ポリーニ…その服…」
「あたしのとっておきよ。こんなときくらい素敵な服着るわよ。コージたちなんて普段着そのものじゃないの。テレビなのよテレビ」
「…うーん、ゴシックとか…そういう名前のブランドでしたよね、それ…」

 うめく三人に向かってポリーニは「勝った」とばかりに胸を張り、わざわざくるりと一回転する。ピンクのフリルがふわりと広がり、はでばでしいことこの上ない…というより既にコスプレの領域といったほうがよい。コージたちのファッションがおしゃれかどうかは別にしても、ポリーニのこの服が今日の収録にふさわしいかどうかについては、どう考えても疑問があるといわざるを得ないのだが…

「…番組がめちゃくちゃにならなければいいんですけど…」
「…自信がない。もう祈る気持ち…」
「俺さま、今猛烈に後悔しそうになってる…」

 一気に不安のどん底に落ちてしまった三人だったが、もはやこの段階ではどうにもならないのは言うまでもない。あとはテレビ局ががんばってうまいこと番組を作ってくれることを祈るしかないのが現実だった。

*       *       *

「全員そろってるようですね。ちょっと早いけど顔合わせと最終打ち合わせを始めるので、集まってください」

 全員が集合してからほとんどまもなく、研究室にテレビ局のスタッフが現れる。一人は既に先日会ったプロデューサーのボブ氏である。あと、大きなビデオカメラを抱えた背の高いカメラ係と、レフ板(ようするに銀色の丸い板である。反射光を顔に当ててカメラ写りをよくする道具なのである)とかばんを抱えたスタッフ、そしてもう一人、明らかに見栄えのするスリムな青年が一緒だった。日ごろ講座通いで世情に疎いコージたちすら見覚えがある。

「わっ、本物ですよコージ、スポーツキャスターのシンさんですよ!」
「たまげた。さすがテレビ局…」
「夜のスポーツニュースに出てる人だろ?俺さまも知ってらぁ!すげえな!」
「あとでサインもらえないかな。妹がファンなんですよ」
「あたしもほしいわ!筋肉だし!」

 どうやら今回の番組進行役は、元水球選手で、トリトン族では一、二を争う人気芸能人、シン・アル・カイトスなのである。同じトリトン族のディレルより、背のほうはやや高い程度だったが、体格のほうはさすがに水球選手らしく引き締まっていて格好いい。いつもはテレビでしか見たことがないので(歌手や俳優と違って生粋の芸能人ではないし)「あ、格好いいな」程度の印象しかもっていなかったのだが、実際にあってみると大違いである。とにかくきれいに焼けた肌とトリトン族にしては珍しい短く刈り込んだくすんだ金髪が素敵過ぎる。同じ男としてちょっとうらやましすぎるほどである。目立たないようにつけている小さなピアスがまたおしゃれである。
 早速の芸能人登場で浮き足立つ彼らだったが、面白いことにどうもシン元選手(という敬称がいいのかはちょっと迷うが)も微妙に緊張しているらしい。いろんなところで活躍しているキャスターなのだが、さすがに今日は魔神相手ということで、いつもより神経を使っているのかもしれない。「魔神」という肩書きはやっぱり迫力があるのである。

「あ、えっと、君が魔神くんだよね。あとお隣がコージさん?よろしく、シンです」
「お、おうっ!俺さまがみぎて大魔神さま。あ、あとでサインくれよなっ!」
「コージっす。ちょっと緊張してます二人とも」
「よかった。魔神っていうからどんな人だろうと思ってたけど、俺とあんまり歳も違わないみたいだし」

 ちょっとおっとりした感じで握手を求める雰囲気は、やはりディレルとおなじトリトン族という感じがする。もっともさすがに腕とかは、元水球選手ということでさすがにかなり逞しい。とはいえみぎてもそれ以上に筋肉アニキなので、握手をしている光景は音声がなければ異種格闘技の試合前の握手の状態である。が、音声付になるとお互いかなり緊張しているのがばれてしまって、笑えてしまうほどなさけない。
 みぎてに続いて握手をしたコージだが、やはりシンの手の大きさには驚かされた。日ごろ手足が大きくて(そのせいで靴で大騒ぎする)みぎての手に見慣れていなければ目を疑ってしまうほど大きいという気がする。もちろんさっきみぎてと握手したときの印象では、やはり魔神のほうが少し大きいのは間違いないのだが、一般人であるコージと比べるとぜんぜん違う。それに一番印象的なのは、温かい手のひらから伝わってくる力強さだった。なんというか…どこかみぎてと似通ったエネルギーのようなものを感じるのである。やはりトップアスリートともなると(現役ではないが)こういうところも似通ってくるものなのかもしれない
 意外なことにさほど緊張していないのはディレルのようである。

「あの、シンさんってこういう番組はよく出演されるんですか?」
「あ、えっと、いや僕も最近なんだ。まあやせの大食いで食べるのは好きだから、気に入ってはいるけど…」

 はにかみながら笑うシン元選手の答えは、やはりスポーツマンらしいものである。見かけは細身だが、どうやら相当に大食漢らしい。こういうグルメ番組出演者の条件は「食い物をおいしそうに食べる」なので、まずは食べるのが好きでないと勤まらないわけである。

絵 竜門寺ユカラ

 しかしこういう「お見合い」状態をいつまでも続けているわけにもいかないのは当たり前ということで、プロデューサーは(ちょっと笑いながら)ロケの最終説明を始める。

「えっとですね、とりあえず学校の紹介シーンなんですが、これは先ほどシンくんと一緒に撮影してきました。だから今からまず撮影するのは、講座でみぎてくんとコージ君の紹介ですね…」

 てきぱきと段取りを説明してゆくところは、さすがにプロである。まあこういうレギュラー番組は定型が決まっているので、毎回同じような説明をしているのかもしれないが…そう、定型どおりに話が進めば、何の問題もないはずである。
 コージはちらりと横目で、興奮した表情のポリーニを見る。そして彼女の大きなめがねの奥がきらりと光ったのを見た瞬間、どう考えてもこの収録が「定型どおり」に終わるなど、絶対にありえないことを改めて確信していたのは言うまでもない。

 さて、ロケスタートの十一時ちょうどになるまでのわずかな時間で、まずは講座の中のちょっとした整理と、それから服装のチェックである。もちろん昨日は大騒ぎで部屋中必死になって整理したはずなのだが、どうやらプロデューサー氏は不満らしい。

「えっと、ここの扉から中のほうを写すよね。ってことは…あ、これ、この実験道具を机の上に広げて」
「ええっ?わざと広げるんですか?」
「うん、実験台の上に何にもないと、研究室っぽくないじゃないよ。やっぱりちょっと怪しい雰囲気はほしいじゃないか」
「怪しいって…怪しいことしてるといわれるとどうなんでしょうねぇ…」

 プロデューサーの一言に、コージとディレルは顔を見合わせて苦笑する。「一般の大衆が魔法工学というものに抱いているイメージ」というのがとてもよくわかるからである。怪しい薬とか試験管とかガラス器具がぞろぞろあって、色のついた謎の液体が中に入っていて、机や本棚は手がつけられないほど乱雑になっている研究室というやつである。もちろん普段はこの研究室も非常に乱雑であることは間違いないので、うわさは核心を突いているといえないこともない。とにかくどうやら今回の大掃除は余計なお世話だったようである。
 プロデューサーの注文は案の定みぎての服装にも及ぶ。

「あ、みぎてくん、言ってたやつ持ってきてくれた?」
「おう、これでいいか?俺さまが魔界で使ってた服なんだけど」
「お、これいいね。魔神らしい服じゃないですか。じゃあそれ着て出演してください。」
「えっ?これで?これでテレビに出るのか?うーん…使い込んでるから色あせてるぜ」
「かまいませんかまいません。やっぱり迫力ないとね。あ、あとできれば翼もあったほうがいいから。いいかな?」
「俺さま…服、悩んで損した」

 あまりの予想外(コージにとっては明らかに予期していた結末)な注文に、みぎては思わずのけぞってしまう。もっともこの魔界のファッションは、この魔神の本来の姿ではあるので、なんら不都合はないともいえるのだが…「悩んで損した」という一言はすべてを物語っているわけである。
 というわけでせっかくのコーディネイトをあっさり脱ぐ羽目になったみぎては、一番魔神らしい昔ながらのスタイルになって再登場する(当然着替えはトイレでである)。真っ赤な髪の毛と小さな角は同じだが、上半身はだかで銀色の小手とブーツ、そして濃紺のエスニックな柄の前垂れがついた褐色の革パンツ、背中には光輝く炎の翼という本来の姿である。たしかにプロデューサー氏の言うとおり、この姿が一番魔神らしいのは間違いない。ただ問題はバビロンという人間界の都会を歩くにはいささか…いや大幅に脱ぎすぎであるだけである。こんな革パンツ姿がOKなのは、真夏の海水浴場と相撲の土俵くらいなものという気がする。いや、でっかい炎の翼までちゃんと出してしまうと、もうコスプレ会場くらいしか歩けるところがない。
 久々に見るつばさ姿に、ディレルは感嘆したように声を上げる。

「みぎてくんの翼、久しぶりに見たけどやっぱり大きいですねぇ」
「だろ?かっこいいと思うんだけどなぁ…」
「狭い部屋の中では邪魔すぎるのが問題」

 研究室のように決して狭いわけではない部屋でも、これだけみごとな翼を広げるとかなり邪魔という気がする。ましてやコージとみぎての狭い(1K)アパートでは、翼はほとんど布団のような面積になる。もちろん鳥の羽とは違って、この魔神の翼は髪の毛と同じく精霊力が作る幻影に近い。実体があるわけではないし、触ったところでやけどすることも(よほどみぎてが興奮している場合でもない限り)ないので、室内で広げたところでまったく支障はないのだが、見た目が狭苦しいというのはコージの言うとおりである。やはり魔界と人間界では住宅事情が違うのである。
 さて、みぎての格好が決まったのはいいのだが、他のメンバーはまだすったもんだである。コージの服やアクセサリーもいろいろ注文が入ったし(みぎてが脱いだ服を一部借りる羽目になった)、ディレルのブレザー姿も「ネクタイが地味だ」とかなんとか大もめである。結局よその講座から教授のネクタイを借りてきてなんとかなったのだが…コージたちの好みとテレビ写りのよい服というのはちょっと違うもののようである。
 ところがコージやディレルが驚いたことに、もう一人の「クレームがつきそうな服」であるポリーニのほうは、どうもプロデューサーは何も言わないらしかった。まあこの時点で服を着替えろといわれても、みぎてのようにあらかじめ準備していないかぎり無理だというのもあるのだが、それにしてもちょっと意外である。不思議に思ったコージはシンにこっそり聞いてみる。

「シンさん、彼女の服はあれで大丈夫なんですか?」
「…大きな声じゃいえないんだけど、あのプロデューサー、かなりぶっ飛んだ大げさな服が好きってうわさなんだよ。僕にもスポーツマンらしくぴちぴちのタンクトップとかそういう服がいいとか言うし…海パンだけはさすがに断ったんだけどね」

 プロデューサーに聞かれないようにかなり気をつけながら、耳元でこっそりささやくシンの様子を見るに、どうもそのうわさはかなり信憑性が高いようである。(笑い飛ばせるレベルではないということなのだろう。)道理でみぎてが魔界ファッションになったり、ディレルのネクタイを派手なものに取り替えたりするわけである。まあ海水パンツ姿で出演する羽目になりかけたシンさんのことを考えれば、ポリーニのなんとかハウスファッションなど充分まともである。
 まああんなこんなの末に、ロケ前の準備も大体終わるとやはり予定通り十一時である。

「じゃあみんないいですね。位置についてください。はい、そこ。」
「あ、始まるぜ。ちょっと緊張するな、コージ」
「シッ、だまってみぎて」
「じゃあはじめますよ。3、2、1、スタート!」

というわけで、クイズ番組『街角探検!下町とっておきクイズ』バビロン大学の回ロケは、コージやディレルの不安をよそにいよいよ始まったのである。

(④へつづく)

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