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炎の魔神みぎてくん ポリーニの発明天国①

1.「実は二人には是非披露宴に」

 バビロン大学魔法工学部の研究室は、訪れた人がびっくりしてしまうほど雑然としている。理工系の大学と言うものはえてしてそういうものなのだが、はじめてみた人は皆そろって呆れかえるほどごみごみしているのである。廊下には本棚やら故障した実験装置やら、それからロッカーとかが並んでいるし、部屋に一歩入ればこれまた古い実験台の上に雑然と転がっているガラス器具やら、そしてその間に設置された実験装置がある上に、周囲の棚には試薬やらファイルやらが乱雑に積み重なっている。地震になったら軒並みひっくり返って大惨事になりそうなとんでもない状況である。もちろん消防法違反確実なので、年に一度の消防署の査察ともなると、これはもう研究室総出で大掃除をするのだが、ひと月もしないうちに元のもくあみになってしまうのである。

 バビロン大学では数少ない女性の教授であるセルティ先生の研究室だが、この困った惨状はよそとさほど変わるわけではない。女性だからきれい好きであるとか、きちんと整理整頓されているだとかそういう話は、これは男性側の勝手な妄想にすぎないからである。

「おーいっ、コージっ!これどけてくれよっ!」

 研究室の入り口近くの狭くなったところで二人の青年が騒いでいる。一人はひときわ大柄で筋肉質の若者だった。両手でいっぱいのファイルを抱えており、ほとんど前が見えない。あれだけ勇壮な体格だから、ファイルそのものの重さは問題ではなかろうが、視界がふさがれているのは別問題である。広い廊下であれば少々前が見えなかろうがなんとかなるものだろうが、この雑然とした研究室の中ではかなり危険な状態だった。なにせ抱えたファイルの山が実験台の上のガラス器具や実験装置にぶつかってとても通れそうにない。
 もう一人の青年は呆れたように言った。

「そこにいったんファイル置いたらいいじゃん。いっぺんに運ぶから無茶なんだって…」

 言われてみればそうである。数十冊ものファイルを一度に抱えて運ぼうと言うのがそもそも無茶なのである。紙というものは意外と重いものだし、これだけ抱えれば前が見えないのもあたりまえである。いくら力自慢だといっても不安定になるのは仕方が無い。

 しかしこの部屋の惨状では、たとえファイルを脇においても、この大柄の青年にとっては通りにくいという事実にはかわりがないかもしれない。なにせこの青年はといえばそんじょそこらではなかなかお目にかかれない立派な体格なのである。見上げるような身長にまるでレスラーのような太い腕と分厚い胸板とくれば、何も無くても部屋が狭く見えてくる。彼くらい見事な体つきともなると、このくらいの荷物なら軽々持ってしまうのも当然だろう。いや、それだけではない…
 なにせ人目を引く見事な輝く炎の翼と炎の髪、赤茶けた健康的な肌のたくましい臥体、額には小さいながらも角もある。ちょっと丸い童顔でくりっとした目だというところが迫力不足なのだが、とりあえず申し訳程度の小さな牙まで生えている。どうやらこの青年は人間族ではない。明らかに本物の炎の魔神…ジンとかイフリートとかそのたぐいなのである。力自慢であるのも当然のことだろう。が、いくら力があってもこういう場合はうまく行くとは限らない。

 魔神はファイルを傍の机に半分置こうとしたが、それがなかなかうまくいかない。中途半端に狭い通路に身を置いてしまったせいで、姿勢を変えようとすると傍の実験器具をひっくり返してしまいそうになるからである。いや、この魔神の体格が良すぎるのである。しかたなくいったん戻ろうとするが、これがまただめである。ファイルがいつのまにかずり落ちはじめ、今や崩壊寸前になっている。こうなってしまうとどうにもならない。わなに落ちたネズミのようなものである。

「ちょ、ちょっとやべぇっ!コージっ」

 魔神はもう一人の青年に助けを求めた…が、コージと呼ばれた彼も両手は完全にふさがっている。こちらの青年はどうやら普通の人間族らしく、大柄でもなんでもない。ちょっと細い目と漆黒の短い髪の毛のどこにでもいそうな学生である。魔神と並ぶとずいぶん小柄に見えるが、それは比較対象が悪い。
 助けを求められた青年…コージだったが、魔神ほどではないが何冊もの分厚いファイルを抱えている状況は彼も同じである。すぐには助けに出れる状態ではない。それでもしかたなくファイルを机に置いて助けに出ようとしたコージだったが、とても間に合うわけはなかった。あれよあれよという間にファイルは魔神の手から床へと次々と落下しはじめたのである。

「あーっ!」
「やった…」

 魔神と青年がどうすることも出来ず立ちすくむ中、ついに大量のファイルは悲惨な物音とともに滑り落ち、床いっぱいに展開されてしまったのである。

*       *       *

「だからいっぺんに運ぶのは無理だって言ったじゃん」
「すまねぇ、コージ」

 コージという青年は床に広がったファイルを一冊一冊拾い集めながら魔神に言った。その口調は「恐ろしい魔神」に対するものではない。明らかに友達とか家族とかに対するような、親しみがこもった…いわば慣れたものである。噂に聞く魔神のとんでもない力を考えると、ちょっと無謀ともいえる気安い言葉遣いだった。この魔神が見掛け倒しだというのならば話はわかる。しかし近くにいるだけではっきり伝わってくるオーラ…彼の持つ精霊力は、触れることが出来そうなほどの密度だった。万一怒り出せばこの学校など消し炭になってしまうほどの力を持っているかもしれない。
 もっともこの魔神の笑顔は決して恐ろしいものではない。見上げるようながっちりとした体や炎の翼こそ目立つが、それ以外はごく普通の体育会系の学生かなにかのようである。申し訳なさそうに翼をとじてファイルを拾う姿を見ればますます魔神ではなく学生という気がしてくる。いや、実際この魔神はコージと同じバビロン大学の学生なのである。

「あらまあ、派手にやったわね、さすがみぎてくんね」
「ひ、ひでぇ~、せんせまで。ここの通路狭すぎるぜ。」

 物音を耳にしてひょっこり隣の教授室から顔を出した女性…ここの教授であるセルティ先生に魔神は頭を掻いて弁明した。魔神の名は「みぎて」というのである。ずいぶん奇妙な名前だが、これはもちろん本名ではない。本名はフレイムベラリオスというのだが、本人がなぜか「みぎて大魔神『さま』」と自称するのである。おそらく何かいわれがあるのだろうが、コージもセルティ先生も詳しいことは知らない…が、ともかく本人の希望なので、みんなはこの魔神のことを略して「みぎて」と呼んでいるのである。

「みぎて図体でっかいから部屋が狭くなるんだよな」
「ううっ、それ言われると辛ぇぜ、コージ」

 コージの鋭い指摘に魔神はますます困った顔になる。とはいってもコージの指摘は致し方ない。なにせコージとこの魔神は1Kのアパートに同居しているのである。どうしてこの二人が知り合って、同居をはじめることになったのかということについては、もう既に何度も話に出ていることだから今更説明するのも野暮である。とにかく魔神とコージは同盟精霊で、相棒で、同居人で、兄弟みたいな関係なのだった。だからさっきからコージはこの魔神に気楽な物言いで話しているのである。いや、こんなに身近で暮らしていれば、たとえ相手が魔神だとしても親しくなってしまうのは普通かもしれない。

 話は元に戻して、ともかくコージの言うとおり二人の部屋はすこぶる狭い…一人暮らしなら十分な広さのアパートだが、二人となると明らかにどうしようもなく狭いのである。さらにみぎてはご覧の通り勇壮すぎる体格だから大変である。布団を並べて寝るといってもコージの寝るスペースが無いほどである。まあもっともこの点は二人とも慣れっこになっていて、みぎての翼がコージの上に被さろうが、はたまた丸太のような足で蹴っとばされようが気にしてはいないのだが、それとこれとは話が別である。

 セルティ先生はファイルを拾いながら二人のやり取りを聞いてくすくす笑う。エルフ族である彼女はご多分に漏れずかなりの美貌である。美人に笑われるとなっては魔神もかたなしである。

「しかしちょっと部屋を整理したほうがいいかしら。去年よりもなんだか手狭になった気がするわね」
「ええっ?部屋の整理?うーん」
「まためんどくさそう…」

 セルティ先生の一言にみぎてとコージは顔を見合わせて困惑する。これはやぶへびというか、寝た子を起こしたと言うかである。研究室がごみごみして狭くなっているのは事実だが、掃除をするのは二人ともあまり好きではない…というより嫌いである。ましてや研究室を整理するとなると、単なる掃除どころの騒ぎで済みそうではない。そんな二人の様子を見て、セルティ先生はまた笑う。

「だって仕方ないじゃないの。こんなに物が転がっていたらみぎてくんがいくら痩せたって同じことだわ。使わない器具とか、倉庫にしまっちゃいましょうよ」
「えーっ、それもしかして俺さまが太ってるて意味かよ!」
「みぎて、自覚してるなら食う量減らせって…」

 ちょっと話は派生しているが、要するに掃除とダイエット(?)が必要であるというセルティ先生のお言葉なのである。これはもう仕方が無い。美人のお言葉(ちょっと違うかもしれないが)なのだから絶対である。
 あまりのやぶへびに困り果てた(別に困る話ではないのだが、とにかく二人ともちょっと掃除がいやなのである)二人だったが…そんなとき突然タイミング悪く妙な音が聞こえてきた。掃除器の音である。どうやら隣の研究室が掃除をしているらしい。文字通り最悪のタイミングである。

「あら、シュリくんのところも掃除しているんじゃないの?あきらめてうちもやりましょうね」
「ううっ、あの変態が…」
「タイミング悪すぎ…」
「ぶつくさ言わないではじめましょ。他のみんなにも声かけてね」

 もはやこうなってしまうとやるしかない。二人はファイルを片付けると、講座の全員にセルティ先生の「掃除司令」を伝えるべく部屋をとぼとぼ出ていったのである。

*       *       *

 廊下に出た二人は、さっきからがたがたと物音をたてているお隣の研究室をのぞいてみた。シュリ・ヤーセン助手の部屋である。魔法工学部でも飛びぬけて変わり者として知られるこの色白の学者の部屋は、いつもならばコージ達の研究室をはるかに上回る壮絶な混乱状態のはずである。さまざまな工具や分析機器や雑誌や書類が雑然と積みあがって通行するのが一苦労、奥の机までは大柄のみぎてはもちろんのこと、コージすらたどり着いたことが無いほどである(シュリが痩せているのはこの部屋に対応してのことかもしれない)。
 ところが…

 彼らが見たものは一気に物が無くなって見違えるようになった研究室の姿だった。雑誌や本もことごとくきちんと整理され、放置された工具やなにやらはすっかり姿を消している。中では学生たちがまだ残っているゴミやらなにやらを片付けたり、小型の分析装置を移動させたりしているところである。いずれにせよもう間もなくきちんと整理整頓されたすばらしい研究室の完成は間違い無い。
 部屋の真中の机ではシュリが積み上げられた雑誌をきちんと順番に束ねながら、不要なものをどんどんゴミ袋に捨てているところである。マッドサイエンティストそのもののシュリが大掃除というのはすばらしく似合わない光景である。
 二人が入ってきたのを見て、シュリはにこにこ笑って彼らのほうを見た。なんだか妙に機嫌が良いように見える。

「おやおや~みぎてくん、コージくん、良いところへ」

 こちらを見たシュリの姿を見てまたまたコージはびっくりした。あまりにもいつもと違うのである。まず第一髪の毛がぼさぼさではない。きちんとセットされ、どうやら整髪料までつかっているようだった。さらに今日は白衣まで真っ白、清潔そのものという感じである。中にはこれまた今までのシュリから考えれば信じられないことだが、真っ白なワイシャツと素敵な色のネクタイまで締めている。
 あまりの変貌振りに二人はしばしあいた口がふさがらなかった。いや、きちんと身づくろいすることは悪いことではないのだが、それにしても今までのシュリとはあまりに違う…
 みぎてとコージは顔を見合わせつつ言った。

「すっげー大掃除だな~、俺さまびっくりしたぜ!」
「ほんとだ、部屋中全部捨てちゃったみたいじゃん…」
「そんなことありませんって。まあ天才であるこの私ですから、本気を出せば掃除くらいは…」
「さてはやっとまともに使える掃除マシン発明したんだろ?」

 みぎてとコージの矢継ぎ早な質問攻撃に、シュリは笑う。ちょっと冷静に見れば二人の口調はいささか失礼である。相手は助手とはいえ大学教員だし、こっちは学生なのだから立場には歴然とした差がある。それにもかかわらずこんな乱暴な物言いが許されるのは、二人とシュリの間にはさほど年齢差があるわけではない上に、なんと言っても結構貸しがあるからなのである。
 シュリはみぎての一言に満足げにうなずいた。

「筋肉ばかりの魔神と思っていましたが、少しは私の偉大さがわかるようですね。まあ今回はたいした機械ではないですが」

 そういうと彼は部屋の隅に置いてある妙な機械を指差す。高さ1mほどの金属の棒にワイヤーブラシが樹木の根っこのように生えている装置である。棒の中間にはどうやらワイヤーブラシを動かす動力源らしい箱があるし、さらにそこから枝分かれして数本のマジックハンドらしいものまでついている。掃除機というよりホールなどの床を磨く機械に似ている。
 学生がその機械を動かすと、ワイヤーブラシはしゅわしゅわと音を立てて回転しながら床を磨き始める。マジックハンドはそこらあたりに落ちているゴミやらなにやらを自動的に拾い集めると、学生の手にしたゴミ袋へと次々入れてゆく。使えるような使えないような掃除機である、が…期待したほど奇抜なものではない。

「片手間にちょっと作ったものです。時間がありませんでしたからこんな程度しか出来ませんでしたが、まあいいでしょう」
「…うーん」

 思わず二人は複雑な表情になる。シュリ・ヤーセンといえばここバビロン大学では一二を争う変人発明家で、いつもとんでもないもの(二百連大型花火内装巨大ロボットとか、射程距離二〇mもある超強力吸い込み掃除機とか)を作ってはコージやみぎてを捕まえて実験台にする。散々ひどい目に遭っている二人だから貸しもたっぷり、自然少々乱暴な言葉遣いでも当然なのである。
 そういういつもの惨劇から考えると、今日の発明品は平凡も平凡、ちょっと外装をきれいにして小型化すればテレビショッピングあたりで売ってそうな、ごく普通の実用品ともいえないことは無い。やっぱりなんだか変…いつものシュリとは全然違うという気がしてならない。
 もっとも発明品を自画自賛するところはいつもと何も変わってはいない。

「さては…このお掃除マシン『菜の花ビューティフル3号』を貸してほしいんでしょう?そりゃこの私にしてはたいしたこと無い作品ですが、凡人にはとても及びもつかないものでしょうから。」
「なんだか高速バスみたいな名前…」
「なぜに『菜の花』?」

 ネーミングセンスについては相変わらずダメダメである。やはりいつもと違うのは服装と掃除だけなのかもしれない(微妙にネーミングセンスもいつもよりラブリーな気もするが…)。いや、考えてみれば普段のシュリが変人なのであるから、これでようやく正常に少し近づいたといったほうがよい…

 とはいいながらもやはりここまで急に変わってしまうと、なんだか気味が悪い。あんまり気味が悪いもので、コージはついつい突っ込みを入れてしまう。

「ちなみにその…今回のこの大掃除、どういう風の吹き回し?昨日までと大違いでびっくりなんだけど」
「あ、そうだ。俺さまもびっくりしたぜ!」

 みぎても大きくうなずいてシュリのほうを見た。ところがシュリは二人の突っ込みに一瞬赤面して口篭もるのである。

「えっと、その…いや」
「???」
「どーしたんだよ?」

 やはりいつものマシンガントークとはどこか違う。普段、自分の発明品ばかり語って陶酔しているシュリの像からは想像がつかない奇妙な光景だった。これは…なにか怪しい。
 その瞬間コージはピンときた。これは…あれである。

「もしかして…彼女ができたとか?」

 コージの爆弾発言にシュリは一瞬目をむいてすごい表情になった。生っ白いやせた顔が、まるであの名画『叫び』のようにゆがみ、真っ赤になったかと思いや真っ青になる。もともと色が白いのだから色の変化は信号機のごとく鮮やかである。
 数秒の間沈黙が続いた後、突然シュリはコージの肩をつかんでわめきだした。

「な、な、な、なぜっ!何故それを知っているんですか!」
「わはははははっ!なんだ~!どおりでおかしいと思ったぜっ!」
「やっぱり…つーか、誰でもわかるって、それじゃ」

 どうやら相棒の魔神もうすうす感づいていたらしい。この鈍感魔神に気づかれるようでは人類すべてにばれないほうがおかしい。散髪も、真っ白なワイシャツも、そしてこの大掃除もどうやら彼女の影響に違いない。コージはそのままありそうな想像図を述べ立てた。

「相手は3歳くらい年上のあねさん女房系。顔はふっくら。自分は発明はしないけどさまざまな珍発明をするシュリの姿を褒めちぎる。得意なことは料理とか裁縫とかお茶とかお花とか…」
「あ、ありそうありそう!なんだか想像つく!」
「…」

 コージが想像図を並べてゆくと、同時にシュリの顔色がどんどんピンクから赤、そして黒にまで変わってゆく。これはひょっとしなくてもかなり図星なのである。だいたいシュリのような自己中心的でおくてな性格には、世話好きのあねさん女房が向いているというのも予想通りだし、やせこけた顔から想像するとふっくら系が好きだろうというのも判る…

 ついにシュリは開き直ってコージの連続攻撃を手で制した。とはいっても顔は巨大な唐辛子のような状態のままである。

「…そこまでばれているなら仕方がありません。その…近々わたくし、結婚することになりましてね」
「えっ!そこまで話進んでるのかよ!」
「やっぱりね~」

 その辺の展開はコージの予想通りである。もともとこういうことに抵抗力がない(と思われる)シュリのことだから、あねさん女房につかまってしまえば結婚までは一直線疑い無しである。しかしまあこの白面の妙な青年シュリがどんな顔をしてプロポーズしたのかとおもうと、コージでなくても笑いがこみ上げてくる。

 そんなコージの想像がさすがに判ったのだろう。シュリは頭をかきながら恥ずかしそうに…ちょっと厄介なことを言ったのである。

「で、実は二人には披露宴に来てもらう予定なのです。」
「えっ?」
「あ、別にお祝いとかはいいです。貧乏なお二人からそんなものを巻き上げようという気はさらさらありませんから。あとポリーニとディレル君にも来てもらわなければなりませんね。…ふっふっふ」
「な、なんだよその笑いは…」

絵 武器鍛冶帽子

 突然の申し出にコージとみぎては一瞬困惑した。実際のところシュリとは講座も違うし同じ学生どうしというわけでもない。二次会ならともかく披露宴となると招待されるような間柄でもないような気がする。それにこの無気味な笑い…なんだか不吉な予感がする。
 しかしシュリはニコニコ笑いながら引出しから上質の大礼紙で出来ている純白の封筒を取り出して二人に押し付けた。本気も本気、これは明らかに招待状である。
 二人は分厚い封筒を手にしたまま、不安そうに顔を見合わせるしかなかったのはいうまでもなかった。

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