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炎の魔神みぎてくん ポリーニの発明天国③

3.「上をご覧ください!」

 さて、月日はまたたく間に過ぎ去り…というほど大げさなものではないが、ばたばたしているうちに結婚式の日は目前に迫ってきた。大体結婚式の招待状と言うものは、せめて三ヶ月前には配られるものである。ということは十分余裕はあったはずなのに…気が付けば目前になっている。もちろん主役の新郎新婦は目の回らんばかりの忙しさだとは思うのだが(当然ご両親などの親族もだろうが)、実はコージ達もいろいろ面倒なことになっていた。

 ディレルの予言(というほど大げさなものではないが)を聞きつけたポリーニが、これまた予定通り(?)対抗意識を剥き出しにして、シュリ夫妻の挙式を祝う出し物をしようと言いだしたからである。これは想像するだにヤばい話である。さっきも述べたようにポリーニとシュリはこの大学の「珍発明家」双璧である。この二人が対抗意識剥き出しにして出し物をすれば、披露宴は珍発明の決戦場になるのは日を見るより明らかである。二人の門出を祝うどころかニューバビロニアホテルオープン以来最悪のパーティーになってしまうかもしれない。

 計画を聞かされたディレルは、こいつはもともと苦労性なので今回ばかりは猛烈に反対した。

「ポリーニぃ、だから別に対抗しなくてもいいじゃないですか。新郎新婦より目立ってどうするんですか?」
「何言ってるのよディレル。あたしとシュリは発明家どうしよ?出し物頼まれたらあっと言わせないと失礼にあたるわ!」
「え~っ?出し物頼まれたんじゃないでしょ?スピーチじゃないんですか?」
「発明家は百の言葉より発明品一つに決まってるわよ!」

 いつももそうなのだが、今回はさらに彼女はエキサイトしている。理由はコージたちの見たて通りである。よほどシュリが結婚するということがショックなのだ。式の日が近づいてくるごとに彼女の興奮の度合いも高まってくるような気がする。

 みぎてはといえば、こんな興奮した状態のポリーニに接触すると確実に珍発明品の実験台にされるのが判りきっているので、極力顔をあわせないようにおとなしくしている。いや、みぎてだけでなくコージもその点はいっしょである。二人そろってロスマルク先生(ご存知の通りコージたちの研究室の准教授の先生で腰痛持ちである)と密やかにお茶を飲んだり、こそこそと教授室に隠れてセルティ先生の論文の図面描きを手伝ったりしているしかない。こういうところは最近この魔神も世慣れてきて、多少の回避策を覚えたようである。が…それがますますポリーニのフラストレーションをためることになる。
 ついにポリーニは強行手段に出た。

「みぎてく~ん、ちょっと~」

 彼女は教授室に隠れているみぎてとコージを直接指名で探し始めたのである。名前を呼ばれてはしらんぷりもできない。なにせ教授室にはセルティ先生もいるのである。

「あら、みぎてくんついにご指名よ。また実験じゃないの?」
「シーッ!せんせっ、だから俺さま隠れてるんだって」

 事情を知っているにもかかわらずセルティ先生はおもしろ半分にみぎてをいぶりだしはじめる。この女教授はある意味こういう騒ぎは大好きなのである。少々の実験失敗なら怪我なんてしないだろうし、それにポリーニの発明品は失敗はあっても危険なことはまず無い。そういう点ではシュリの危ない発明品と違って心配はいらないわけである。

「あら、何言ってるのよ大魔神が。レディーのお呼びじゃないの」
「レディーって…」

 「大魔神がびびってる」と言われてしまうとこの炎の魔神も引っ込みがつかなくなる。一応本物の大魔神なだけに弱いわけである。さらに彼女が一般的なイメージの「淑女」かどうかはちょっと首をかしげるところはあるが、とりあえず慣例によればレディーなのである。
 コージと顔を見合わせつつため息を付いたみぎてだったが、しぶしぶ教授室から顔を出して彼女の呼びだしに答えた。

「何だよポリーニ。また実験か?」
「もちのろんよ!結婚式にふさわしいアトラクションよ!ついに出来たわっ!」
「アトラクションかい…」

 もはや彼女の出し物は単なるお祝いの域をはるかに飛び越えて、「アトラクション」の世界へと突入していたのである。つまりアミューズメントパークのあれである。事実彼女の横の実験台には二m以上ある金属のゲートに何本ものアームが生えたような大きな装置が組みあがっている。驚いたことにゲートの厚みは三十センチ近くもある。ちょうど空港にある金属探知機みたいな感じである。装置の横にはどうしたことかポールハンガーが置かれており、ひらひらの付いたドレスや背広、さらにはカラフルな民族服やら和服までつりさげられている。コージはうめくように彼女に聞いた。

「…これひょっとして『お色直しマシン』?」
「判る?コージもたまにはやるじゃん」
「…」

 思わずコージは頭を抱えた。要するにこの変てこな機械は新郎新婦の「お色直し」を行う装置なのである。アームが動いて服を自動的に着せると言うものに違いない。結婚式らしい発想といえば発想なのだが、実際ちゃんと稼動するのかどうか…かなりの疑問である。工場のラインのロボットとはわけがちがう。
 しかしポリーニは自信たっぷりにみぎてを手招く。つまり彼で実験しようと言うのである。不吉な予感がしたみぎては思わず後ずさるが、彼女が実験台を逃がすわけは無い。

「とりあえずみぎてくん。このゲートくぐってみて」
「俺さまが?っていうかすっげー不安なんだけど…」
「大丈夫よ、別に感電したりしないわよ。ふっふっふ」
「『ふっふっふ』じゃねぇ~」

 魔神は非常に不安げな表情で、しかししぶしぶゲートの前に立つ。今日のみぎての服装はカラフルなでかいカニの絵が描いてある黄色のTシャツ一枚とすねまでしかないカーゴパンツである。恐る恐る彼はゲートに頭を突っ込んだ。と…

 ゲートをくぐったみぎての姿を見てコージは目を丸くした。なんと魔神の姿はみごとに紋付袴の和風スタイルに変身していたのである。

「わっ!」
「これすげっ!おもしれぇやっ!」

 見事な変身ぶりにコージもみぎても目を丸くして驚く。さっきまでみぎてが着ていたTシャツとカーゴパンツはきちんと折りたたまれてハンガーにつるされている。どう言うメカニズムか判らないが、ハンガーにつるされた和服と入れ替わったのだろう。
 驚く二人にポリーニはもう得意満々である。

「ね、ね、すごいでしょ?これ苦労したのよ」
「おどろいた。ここまで気合いれるなんて…」

 壮大な技術力の無駄使いという説もあるのだが、しかし見事は見事である。みぎては面白がってもう一度ゲートをくぐる…と、今度は薄いピンクのひらひら付きドレス姿である。むきむきの筋肉魔神がドレス姿であるから笑えると言うか気持ち悪いと言うか、どうしようもない格好である。

「ぎゃははははっ!意外と似合うわよっ!」
「えーーーっ、とんでもねぇっ!」
「胸板のところ太ってるから、ほんとに胸あるみたいで謎過ぎる」

 たしかにコージの言う通り、胸板の筋肉がみごとに盛りあがっているみぎての場合、ある意味グラマーである。が、ふとももや腕が太すぎてやっぱりとんでもない姿というほうが正常な感想だろう。というよりどうしてこんなサイズのドレスがこの世に存在するのかという問題のほうが不思議である。
 するとポリーニはさも当然と言うようにいう。

「もちろんあたしが作ったのよ!みぎてくんのサイズはとっくの昔に測定済みじゃない!」
「…ってまあ確かにそうだ…そういうことね」

 たしかに言われてみればポリーニの実験(どうも被服系発明が多い)に付きあわされ、みぎては何度かサイズ測定をしている。わざわざ服をほとんど脱がさなくてもいいと思うのだが、そこは彼女の趣味…いや「立体裁断」のためということで、毎回ほとんど半裸に剥かれるのである(だからみぎてはポリーニの実験が怖いわけである)。まあそういうことで今回これだけの服を取り揃えることができたというわけだった。彼女がしつこくみぎてを指名したのも無理は無い。

「あらみぎてくん、似合うじゃない」
「うわっ、恐怖の世界になってますね…」
「ディレル~、せんせまで~」

 騒ぎを聞きつけてディレルやセルティ先生まで見物に現れた。彼らは当然みぎての最悪最低のドレス姿を見てげらげら笑い転げる。わざわざこのサイズのドレスを作ったという時点で、ポリーニは明らかにこの光景を狙っていたのだろう。このままシュリの結婚式に出ろと言い出しかねない爆笑状態である。
 これ以上騒ぎが広がるのを恐れて、みぎては慌てて再びゲートをくぐった。と、今度はベリーダンスの踊り子の服に変わる。露出度が多いだけにさっきのピンクのドレスよりももっと気持ち悪い。

「きゃーっ、最悪」
「最悪ってポリーニっ、おまえがこれ縫ったんじゃねぇか」
「ひどいカッコウねぇ」

 見ている側は爆笑も爆笑、お色直しマシンよりもみぎての最悪コスプレに盛り上がりまくりである。本末転倒なのだがポリーニのねらいどおりかもしれない。すくなくともこれなら披露宴でも大受け間違いなしであろう。
 炎の魔神だけに本当に顔から火が出そうな表情になって、みぎてはもう一度ゲートに突入した。ところが…

 出てきたとたん研究室中に悲鳴とも歓声ともつかない叫び声があがった。なんとみぎてはみごとな…オールヌードで出てきてしまったのである。ハンガーのところでどうやらトラブルがあったらしく、服が機械にからまっている。当然魔神は新しい服を着ることができず、すっぽんぽんのお下品な姿でゲートを飛び出してくる羽目になったのである。

「わーーーっ!」
「きゃーっ!みぎてくんっ!」
「わははははははっ!やると思った!」

 もう部屋は興奮と爆笑の坩堝である。魔神はまるで一生分の恥をまとめてかいたとでもいうような顔になって突然ボッと火を吐くと、そのままにわとり(?)の姿に変身して脱兎のごとく逃げ出したのはいたしかたない。変身術をつかうところまでは魔神らしいが、失敗してニワトリになってしまうところがみぎてなのである。

*       *       *

 さて、悲喜こもごもはあったものの、とりあえずついに結婚式当日がやってきた。もちろんポリーニの発明品の披露の日でもある。結局彼女は貴重なみぎての「赤っ恥」という犠牲を糧に、ディレルの困惑と反対などはまったく無視して発明ショーを決行することにしたのである。

 ポリーニは式場にかけあってこのとんでもないアトラクション(?)『お色直しマシン』の設置に成功した。もちろん式場であらかじめ(これまたみぎてを実験台に)デモをした上での話である。もちろん本番ではこのマシンを使うのはみぎてではなく新婦なので、衣装格納ハンガーにセットするのは打掛やら角隠しやら十二単やら、それから当然のごとく純白のウェディングドレスやら、果てはペルシャ風のヴェールのついた衣装やチャイナドレスまで、女性なら一度は着てみたいと思う衣装の数々である。もちろんこれは全部レンタルなのでポリーニが作ったわけではない。(それを考えるとますます「なぜみぎてサイズの衣装を作って実験したのか」という疑問が出てくるが、これはもう彼女の趣味としか言いようがない。)これだけの衣装を三時間の披露宴で全部着ようとすると、それだけでなんだかどこかの歌手のショーや歌舞伎によくある「早変わり七変化」の世界だという気もする。
 しかしとにかく彼女は前日のうち式場にこの「お色直しマシン」を設置し、準備を万端に整えたのである。

 当日の朝は前日までの曇天がうそのように、よく晴れたすがすがしい陽気だった。そろそろ初夏なので日中はかなり暑くなるかもしれないが、空気が乾いているもので日陰に行けば涼しい。礼服という暑苦しいものを着なければならない結婚式には最適の陽気である。
 コージとみぎては昨日借りたレンタル略礼服を着て下宿を出た。二人ともこういう服は生まれてはじめてである。コージは結婚式に出るのは初めてではないが、前に出たときは高校生だったもので、ブレザーでも別段問題はなかったのである。ましてやみぎてはといえば、人間界の結婚式など出たことがあるわけはない。魔界の礼服はこんな背広ではなく、むしろ派手なよろいやひらひらのついた服が普通らしい。世にいう「魔界のファッション」というやつである。それはそれでエキゾチックで面白いし、みぎてもコージも親族ではないのだから構わないのだろうが、結局わざわざ魔界まで礼服をとりに戻るというのが大変だったのである。
 それにしてもこの魔神が略礼服を着こむと、それはそれで意外とよく似合う。もともと背広のたぐいは体の大きな筋肉質の人のほうが似合うものなのである。こいつの場合はもともと筋肉がちがち・レスラー体型だし背丈もある。似合わないはずがない。が、ちょっと似合いすぎてやくざみたいに見えないこともない。
 とはいえ普段こんな重装備になったことのないみぎてにとっては、略礼服が苦しくて仕方がないようだった。サイズはちゃんと合わせたはずなのだが、それでも窮屈そうである。

「こ、コージ。やっぱ首んとこがちょっと苦しいんだけど…試着のときこんなにきつくなかったんだけどなぁ」
「我慢するの。礼服なんてそんなもの」
「マジかよ?これじゃせっかくの飯あんまり食えないじゃねぇか」
「だからかえって都合いいじゃん。高級ホテルでがさつなことしなくて済む」

 どうやらみぎては首があんまり太いもので、ネクタイ(これも結婚式用の純白である)がなんだか短く見える。いや、このネクタイの締め方はひょっとすると間違っているかもしれない。実はコージもネクタイなどほとんど締めたことがないので、他人に教えるほど締め方を知っているとはいえないのである。

 なんだか釈然としない魔神を引き連れて、コージは式場である「ニューバビロニアホテル」へ急いだ。ホテルのロビーでディレルやポリーニ、セルティ先生らと待ち合わせをしているのである。
 ホテルの近くの道で二人はディレルに出くわした。ディレルの服も当然略礼服だが、どうやらレンタルではなくちゃんと買ったものらしい。サイズがぴったりである。

「おはよっ。二人とも…あれっ?」
「よぉっ、ディレル。…?なんか変か?」

 ディレルは二人に会うなり、しげしげとみぎての背広姿を見た。目にはわずかに笑いのようなものが浮かんでいる。

「みぎてくん…ネクタイの結び方変だよ。それじゃ苦しくない?」
「えっ?やっぱり変なのかディレル…」
「コージもちゃんとみぎてくんに教えてあげないと…と思ったけどコージも変だね。それ」
「うっ」

 みぎてよりもこれはコージの恥である。本当にホテルにつく前にディレルと合流できて幸いであったというしかない。このままホテルに突入していれば、ポリーニやセルティ先生に笑われるのは確実だったからである。
 というわけで道端で二人はディレルにネクタイの結び方の講習を受け、無事にホテルへと到着したのである。

*       *       *

 ホテルについて、受付を済ませて一同は披露宴会場へと入った。当然こういうパーティーであるから全席指定である。一般的に披露宴は新郎新婦の近くに仕事の上司とか友人とかがすわり、親族は一番離れた席である。コージ達も例にもれず前から二番目のなかなかいい席だった。一番近くの席は来賓で一番えらいバビロン大学の学長ランドカイザー先生や魔法工学部長のイリスコール先生である。コージやみぎてはほとんどこれらの偉い先生方は見たことがない。セルティ先生も教授なのでそっち側の席である。
 コージ、みぎて、ディレル、ポリーニの四人は並んで丸いテーブルに着席した。どうやらお皿の配置を見るとフレンチスタイルのようである。ある意味がさつなみぎてには不向きな料理だろう。いや、本当のことをいうとコージだってこんなお上品できちんとしたコース料理を食べたことなど無いのである。一応ナイフやフォークは使えるのだが、ほかの作法についてはかなりどきどきである。

「みぎて、言っとくけどフィンガーボウルは飲むなよ」
「フィンガーボウルってなんだよ?俺さまこんなの食ったことねぇや」

 指を洗うフィンガーボウルをスープか何かと間違えたら大恥である。案の定みぎては全然そんなものは知らないようだった。

「コージ、これはちょっとやばいかも…たまには高級料理とかもみぎてくんに食べさせておくんでしたね」
「無理だって。こいつにコース料理食わせたら大変な値段になるって」
「魔神サイズで食べさせる必要無いじゃないですか。足りない分あとから牛丼でも食べさせれば済むんじゃ…」
「ううっ、いまさら遅いのです…」

 さすがのコージも後悔しきりである。せめて前の週あたりに予習のひとつもさせておくんだったと思うのだがもう遅い。こうなってしまうとこの魔神の勇壮な食べっぷりが度を越さないように祈りつつ、コージとディレルで食べ方を逐次説明してゆくしかない。そういう意味では、みぎてをはさんでコージとディレルが配置されているというのは(おそらく偶然だろうが)ありがたい話である。

 さて客もだんだん集まってきて、いよいよ披露宴の開始となった。会場の入り口が閉ざされ、厳かな音楽が流れ始める。そして袖のほうから一人のタキシードを着た男性が姿をあらわす。司会者である。

「私、本日の司会を承ります、ラジオバビロンのDJ、カール・マイヤーでございます」

 どうやら司会は素人ではなく、ホテルが頼んだプロのアナウンサーらしい。こういうところも高級ホテルならではなのである。さすがにプロだけのことはあり、流れるような司会ぶりである。こっそりみぎてがささやく。

「あ、あれってサッカーの中継やってる人だろ?あとでサインもらおうぜ!」
「えっ?こんなときにもらえるんかいな…うーん」
「っていうか、本物の魔神のみぎてくんのほうが、アナウンサーよりもずっと希少価値は高いような気もするんですけどね…」

 アナウンサーならバビロン市内の放送局だけでも相当の人数はいるはずである。それにくらべて本物の炎の魔神は人間界に何人いるかと考えると、明らかに希少価値はみぎてのほうが高い。が、サインの価値というものは知名度で決まるのであるから、みぎてがサインをほしがるのも筋はとおっているわけである。

 こんな馬鹿な話をしている間に式次第は進み、いよいよ新郎新婦の登場である。音楽のほうもだんだん盛り上がってくる。

「それではお待たせいたしました!いよいよ新郎新婦の入場でございます!皆様、盛大な拍手でお迎えくださいまし!」

 高らかに司会が宣言する。と、同時に音楽はお約束もお約束、結婚行進曲に変わった。コージは式場のどのドアからシュリ夫妻が入場してくるのかと周囲を見回す。ところが…

 奇妙なことに会場のドアはどこもまったく開いた様子は無かった。これにはコージだけでなく、お客は全員動揺する。何かトラブルでもあったのかと心配になったのである。しかし音楽のほうはまるで何事も無いかのように流れつづけているのである。
 と、司会者は天井のほうを指差した。同時にスポットライトが空中を照らす。

「上をご覧ください!『二人の熱い愛の力』で動くゴンドラに乗って、お二人が降りてまいります!」
「あ…」
「…『ゴンドラ』結婚式かい…」

 コージ達が天井を見上げると、そこには照明を浴びて銀色に輝く二人のりの小さなゴンドラが、ふわふわとあたかも漂うようにゆっくりと会場へと降りてくるところだったのである。そして中から純白のタキシードに身を包んだシュリと、そして男のシュリよりもなぜか大柄な新婦が、にこやかに彼らのほうへと手を振っていたのである。

絵 武器鍛冶帽子


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