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炎の魔神みぎてくん グルメチャンネル ⑥「そんなにびびることないわよ」

6.「そんなにびびることないわよ」

 ポリーニの持ってきたジャケットというのは、ベージュの少し分厚いカジュアルなものだった。まあベージュという色はもともとフォーマルな色ではないので、コージのような学生でも使いやすくて悪い色ではない。実際カジュアルジャケットの好きなディレルは、ちょくちょくこんな色の服を着てくる。しかしカジュアルであってもジャケットはジャケットであるから、ネクタイさえ(これもカジュアル風の柄で)つけてしまえば、一応こういうお店でもOKということになる。
 しかしそんなことよりも最大の問題はやはり「これが発明品である」ということだろう。「人工鬼火」でもわかるように、彼女の発明は「着想は悪くはないが、どこかはた迷惑」という確率が80%である。毎回ひどい目にあっているコージたちだから肌身にしみてわかっている。よりによってこんなテレビロケのときに実験台にされるとなれば、もう危険確率は160%までアップする。
 が…ジャケットがないとロケができないというのも事実である。

「あ、それ結構おしゃれだね。コージ君似合うんじゃないかな」

 シンはそういうと、ポリーニの手からジャケットを受け取り、ためしにと羽織ってみる。背が高くてスリムな水球選手が着ると、これはもうため息が出るほど格好いい。同じ男として腹が立ってしまうほどである。気のせいかもしれないがふわりと風が吹いてくるような感じまでするのだから、やはり「かっこいい」ということは偉大なのである。シンは取り出した細い(ちょっと未来風デザインの)サングラスをかけてポーズをとってみる。と、もはやこれは男性向けファッション雑誌がその場にやってきたような世界になる。

「これいけるよ。デザインもいいし、つくりもしっかりしているから。僕にはちょっと小さいけど、コージ君ならちょうどだね」

 シンはニコニコ笑って今度はコージにジャケットを手渡す。事情を何にも知らないのだから当然だが、彼はこのジャケットが「単なるポリーニのプレゼント」程度にしか思っていないようである。もちろん「コージ君ならちょうど」なのはポリーニがちゃんとサイズを測って作っているのだから当たり前である。
 しかしこんなさわやかな笑顔で推薦されてしまうと、もはやこの「地獄のプレゼント」を回避することができなくなってしまうのは自明だった。なにか文句を言おうものなら「せっかくの女性のプレゼントに文句をつけるなんて」という目で見られてしまうのは間違いない。今までの恐怖を何も知らないのだから確実である。
 コージとみぎては顔を見合わせてため息をついた。今日だけは二人とも彼女の発明品が、「大・大・大成功」するか…さもなくばまったく機能が働かない(機能停止なら実害がない)ことを、本気で祈りたい気分になったのであるが…

 ということで、しぶしぶながらコージとみぎてはそれぞれジャケットを受け取って、袖を通してみる。分厚い生地だし、さらに結構重い。まあロケの間だけ着ると割り切ればまだ我慢できるが、こんなものを一日中着なければならないならば、絶対肩が凝ってしまうような気がする。それにもう初夏なので、こんな生地では暑くて仕方がないような気もする。
 コージのベージュ色のジャケットと形はそっくりだが、みぎてのジャケットは濃紺である。こっちのほうがフォーマルという感じもするので、こういうお店にはいいかもしれない。しかしこの魔神がこういう服を着ると、いつ見てもプロレスラーの記者会見かやくざの出所祝いのように見えてくるのが笑えてしまう。

「コージ、背広ってこんなに重たいんだっけ?」
「…うーん、生地が分厚いのはあるけど…不吉」
「やっぱり?」

 不思議そうに首をかしげるみぎてに、コージも自信なさげに答える。この魔神だっていくら人間界生まれではないといっても、背広くらいは着たことがあるのである。(よくある話だが結婚式の披露宴に呼ばれたときの話である。)そのときの記憶から言っても、たしかにこのジャケットは重いという気がする。が、気のせいだといわれてしまえば強く否定できるほどの自信はない。それにどっちにせよ「ポリーニの発明品」なのだから、無事に済むとははじめから思っていない。
 しかしもはやここでごちゃごちゃもめていてもどうにもならない。なにせロケが待っているのである。

「さあさあ、店に入りましょう。貧乏魔神くん、恥をさらさないように」
「うぐぐっ…」

 シュリの一言に反論もできず、みぎてはこぶしを握り締めてわなわな震えるしかない。かくして一同は目くるめく赤っ恥の予感を胸に、高級欧風レストラン「ミラージュ・ド・バビロン」へと突入したのである。

*       *       *

 室内に入ったコージたちは、内装の高級さに目を見張った。当然のことながらコージやみぎてはこういう高級なレストランなど来た事がない。せいぜいリゾートホテルのレストラン程度が上限である。二人ほど「ド貧乏」というわけではなさそうなディレルでも、こういう最高級レストラン五つ星クラスとなると縁がないのは同じである。

「シンさんはこんなところ来たことあるんですか?」
「ロケのときか、事務所のおごりじゃないと来ないよ。あとは現役時代に世界大会の壮行会がこんな店だったかなぁ…」

 一応グルメ経験豊富(そういう番組の司会者なのだから当たり前である)なシンですら、なかなか来れるものではないらしい。となるとこんなすごい店を知っているシュリ夫妻は、思っていた以上に「セレブ」だということになる。

「ほほほ、実はあたくしたちもランチよ。ランチならちょっと贅沢って程度で食べれるのよ」

 くすくす笑いながら夫人は答える。たしかにこういう高級レストランでもお昼のランチは意外と格安で食べられることが多い。お金持ちのOLとか有閑マダムだとかのお昼の憩いの場所となっているのである。まあもちろんそれでもコージたちにとっては贅沢であることは代わりがないが、大気圏を飛び越えて月までゆくレベルか、それともその辺の山登り程度のレベルかというくらいのセレブ度の差はあるだろう。
 ちなみにもちろん今日のロケは「ランチメニュー」である。この番組は「下町グルメ」がテーマなので、超高級料理は範囲外になるのである。

「さあ、早速やります。ちょっと時間が押してきましたし」
「あ、OKです」

 プロデューサーは全員が席に着くと同時に、いささかあわただしくロケの開始を宣言した。この店の紹介者はシュリなので、当然シンのインタビューもシュリからスタートである。

「こちらがシュリ博士です。バビロンフェスティバルでの巨大花火をはじめとして、さまざまな興味深い発明で有名な…」
「こんにちは。シュリ・ヤーセンです」

 シュリ「博士」という肩書きを聞くと、みぎてもコージも思わず笑い出したくなってしまう。が、さすがにロケ中にそんなことをするわけにもいかないので、すこし顔を下に向けて必死に笑いをかみ殺す。日ごろ「変態発明家」とかなんとかぼろくそに言っている相手だが、よくよく考えると一応「博士」なのである。それならそれでもう少し「博士」らしいまともな発明をしてほしいものである。
 さて、シュリの紹介を手短に(かなり強引に)切り上げたシンは、早速メインの料理紹介に話を切り替える。それも話を夫人のほうに話を振るところが巧みである。

「さて、今日はランチの料理を中心に紹介していただけるということで。奥様からご紹介いただきましょう」
「え、ああ…」
「ほっほっほ、そうですわね。ここのランチは手ごろなお値段で本格欧風料理が食べれるというのが魅力なんですのよ」

 シュリ夫人のほうも心得たもので(旦那の欠点はさすがに理解しているのである)すばやく話を奪って店の紹介をはじめる。こうなると旦那は黙るしかないところは悲しいところである。まあこのままシュリにしゃべらせると、絶対ポリーニ以上にはた迷惑な発明品が登場するのは確実なので、ほっと一安心である。
 さて、プロデューサーの合図とともに、控えからソムリエが颯爽と登場する。ばっちりと決めた服装や髪型があからさまに高級レストランである。

「ようこそ、『ミラージュ・ド・バビロン』にお越しくださいました。ソムリエを務めるミヤケでございます」
「ソムリエってお菓子の名前じゃなかったんだ。俺さま勘違いしてた」
「ここで食べ物ボケを出さない」

 たしかにソムリエはお菓子の名前に聞こえないこともないのはわかるのだが、こういう店でボケを出すのはさすがに恥ずかしい。コージはみぎての足をこっそり踏んづけてイエローカードを出すが…手遅れである。ばっちりとカメラに収録されてしまったようである。こういう笑えるシーンは絶対に見逃してはもらえないものなのである。
 さて、ソムリエのミヤケ氏は(そんな馬鹿は気にもしないで)、本日のメニューの説明をはじめる。もちろんランチなので完全なコースではないのだが、それでもオードブルと、スープと、メインディッシュと、デザートというそれっぽい献立である。もっともこういう店であるから普段ならばコージでも量が足りないという予感はあるのだが(客層がOLや有閑マダムなのだから)、さっきあれだけ「地獄のパフェ」を食べたばかりでは、さすがにこれでも食べきれるか自信はない。

「さて、何かワインで特にリクエストはございますか?なければこちらで今一番お勧めできるものをご紹介いたします」
「…どうする?」
「任せたらいいんだよ。一番お勧めを選んでくれるから」

 シンが笑ってこっそり助言してくれる。こういう店はさすがに芸能人の彼が一番慣れている。それにたしかにとてもじゃないがコージたちにワインの知識があるわけはない。白ワインと赤ワインがどっちが肉料理でどっちが魚料理なのかすら(たしか白ワインが魚だったような気がするが)自信がないのだから、変に格好をつけても余計恥をかくことになる。

「アルセラ2002、フルーティーでさわやかな香りが特徴的な、ボルティセラ地方の若いワインでございます。」

 食前酒ということで、まずはきれいな薄紅色のワインが登場である。「アルセラ」というのはブランド名らしい。早速コージはグラスを手にとって香りをかいでみる…が、違いがわかるとはとてもいえない。さっきみぎてが「違いのわからない貧乏魔神」と言われていたが、残念ながらコージも同じようなものらしい。
 シュリは満足したような笑みを浮かべると、コージたちを見回して言う。

「どうですかぁ?みなさん。たまにはこういうワインもいいものでしょう。安物のペット瓶入り焼酎ばかり飲んでいては、違いがわからなくなってしまいますよ」
「ぎくり」
「だから反応するからばれるんだって」

 実はみぎてとコージの晩酌酒は、この世で最も安い(としか思えない)二リットルペット瓶入りの焼酎「みなごろし」である。とにかくこの魔神は強い酒が好きだし(炎の魔界のお酒はだいたいきつい)、それ以上に経済的である。が、そればっかりというのは(ばれてしまうと)ちょっと恥ずかしい。もちろん黙っていればそんなことはばれないのだが、残念なことにみぎては隠し事がぜんぜんだめである。
 ところが、シュリのおしゃべりはそこで終わりではなかった。というよりもここからが本番だったのである。突然どこからか高らかにファンファーレがなり響き、同時にシュリの表情が恍惚感に満たされる。

「そういう方のために、わたくし今回、新しく『違いがわかる!ソムリエくんロボSR-04』を開発いたしました!ここで特別に発表しましょう!」
「えっ?!」
「出た…出ると思った」
「出ちゃいましたねぇ…」

 コージやディレル、そしてシンすら突然のことに凍りついた。ポリーニの発明品(どういう機能なのかは現時点ではまったくわからないのだが)だけで頭が痛いのに、ここでシュリの発明品まで登場してはもはや収拾がつかない気がする。というよりも、放っておけばロケそのものがぶち壊しになる危険すらある。あわててコージはプロデューサーのほうを見た…当然ながらプロデューサー氏も完全に時間が止まっている。が、カメラのほうは止まっていないのは当然である。
 まあ考えてみればシュリが単に好意で彼らにお店を紹介して、はいそれだけということなどありえない。ディレルすら実家の銭湯を収録させようとしたほどなのである。シュリにそんな善意一〇〇%を期待するのが根本的な誤りだったのは当たり前である。
 それになにより番組にしてみれば、とにかくネタになれば何でもOKというのは間違いない。生放送ではないこの番組だから、あんまりとんでもないものが出てきたら、カットしてしまえば済む。
 コージはそっとシンのわき腹をつついて、「さっさと話を進めちゃうように」合図を出した。こういう時は礼儀正しく「ソムリエロボ」とやらを拝見して、社交的に褒め称えるのが大人の対応なのである。
 そういうわけで、小型の台車に乗せられて現れた円柱状の変な機械を見ても、そしてその変なロボットがワインをまるまる一本飲み干して(当然コージたちの分がなくなる)、無意味に詳細な分析結果(成分分析とか、ワインの銘柄とかの判定結果)を口からプリントアウトしても、もはやあきらめたごとく無感動に拍手をすることにしたのは言うまでもない。

*       *       *

 「違いがわかる!ソムリエくんロボSR-04」による「ワイン判別実験」を面白おかしく拝見した一同は、いよいよメインのお食事へと突入する。オードブルはスズキのムニエルとちょっとしたサラダ、スープはフォアグラ入りの冷たいコンソメスープという、女性がよろこびそうな上品なものである。器も純白の薄い陶磁器で、なんだか乱暴に扱うと割ってしまいそうなほど美しい。

「みぎて、食べれる?」
「うーん、まだパフェがかなり残ってる感じ。コージは?」
「…意外とましだけどさ。でもほかのみんなはもっとしんどそうだな」

 コージはもぐもぐと寡黙にムニエルを食べるみぎての調子を確認した。いつもすごいペースでなんでも食べてしまうこの魔神にしては、今日の食べ方はとてもおとなしいからである。まあさっきあれだけパフェを食ったのだから、これで食欲満点だったら不気味という気もするが、日ごろの健啖ぶりから考えると、なんだか体調が悪いようにも見える。
 が、みぎてはちょっとフォークを休めると、首をかしげて言った。

「コージ、ところでちょっと気になるんだけどさ…」
「?」
「この店、ちょっと寒くねえか?」
「え?…」

 コージは魔神の意外な反応にちょっと驚いた。季節はまだ春の終わりごろなので、天気によっては薄寒いこともある…が、今日は天気も悪くなく、暖かな陽気といったほうがいい。もちろんこの魔神は炎の魔神なので、暑い暑い真夏が大好きということはあるのだが…かといってこの時点で「寒い」と言い出す理由にはならない。そもそも今日のロケ開始時点では上半身裸の魔界ファッションだったのである。それが今度はこんな分厚いジャケットを羽織って、それで寒いというのは何か変である。

「みぎて、体調悪いのか?」
「んなことねぇとおもうけどさ。なんだかひんやりとするんだよな」

 みぎては首を何度もかしげながら魚をむしゃむしゃ食べる。ところがみぎてのそんな言葉を聴いて、隣のディレルは変な顔をする。

「ええっ?僕はなんだかすごく暑いんですよ。冷房お願いしようかと思ったくらいです」
「冷房?!」

絵 武器鍛冶帽子

 さしものコージもびっくりである。みぎての「寒い」というのも気になるが、ディレルの「冷房」発言はあまりに不思議である。どう考えてもそこまでの暑さではない。コージは思わず全員の表情を見回してみる。ディレルとシュリがちょっと暑そうで、向かい側のシンやポリーニはそうでもない。コージ自身を除いて考えれば原因はなんとなくわかる。

「みぎての熱だな」
「俺さま?うーん」
「みぎてくんの熱気が室温あげてるんですね。それならわからないこともないけれど…珍しいですよねそんなこと」
「どうやらみぎてくんは、温暖化の重要な原因になっていることに自覚が必要ですね」
「…そ、そういうレベルの話なのか?」

 思わず環境団体が抗議にやってきそうな意見を聞いて、さすがにみぎてもぎょっとする。いや、まさかこの魔神一人で世界の平均気温が〇.一度上昇するとかそういうことは無いだろうが、少なくともこの部屋の平均気温は一度以上上昇しているようである。
 しかしコージはどうも釈然としていない。ディレルやシュリが暑いのがみぎての輻射熱によるものだとしても、今まで研究室や自宅でそこまで実際に気温が上がったことが無いからである。もちろん真夏の下宿ではこいつがいるだけで、気分的には一度どころか五度くらいはアップしているようにも感じるのだが、実際は単にこいつが「筋肉過ぎて暑苦しい」だけの話である。それになにより…みぎての隣に座っているコージ自身がそう感じていない。むしろ涼しいくらいなのである。ということは…

「…ポリーニ。もしかして…」

 さっきから料理に専念しているポリーニを、コージはじろりとにらみつけた。実は気がついていたのだが、彼女は料理を食べながらも、何度もこっそりこちらのほうを盗み見ているのである。これは間違いなく…発明品の動作を確認している目線である。つまりコージたちが着ている発明品ジャケットは、スイッチを入れるタイプではなく、既になんらかの動作をしているに違いない。
 「感づかれた」と気がついたポリーニは、不気味すぎる笑みを浮かべる。

「う・ふ・ふ…」
「ポリーニ!なんかやったな!」
「まさか発明品が原因なんですか?」

 突然のことにびっくり仰天して、全員の視線は彼女のほうをいっせいに向けられる。いつもなら大げさすぎる紹介で発明品を紹介する彼女だから、まさかこんな登場のさせ方をするとは誰も思っていなかったというわけだった。

「で、いったい何を仕込んだんだよ、このジャケット」

 コージは困った顔をして彼女に言う。室温が三℃も上昇するような妙な機能であるから、けっこう出力が高いものに違いない。さらに困ったことには、真相がわかったからといって二人がジャケットを脱ぐわけにはいかないことである。少なくともロケの間だけは我慢しなければならない。まあいずれにせよ、このジャケットの正体をきちんと把握する必要はある。
 すると彼女はあっけらかんと言う。

「そんなにびびることないわよ。単なる冷房よ」
「冷房?冷房ってエアコンの冷房?」
「そうよ。ジャケットって暑いじゃないの。会社員のオヤジなんかが汗だくで歩いてるの見たらいやになっちゃうわ。だから超小型の冷房があれば素敵じゃない。どう?効果ある?」

 ニコニコ笑って豪語するポリーニに、コージもみぎてもぐうの音も出ない。パーソナル冷房内蔵の背広というのは、もしあればたしかにすごくありがたいというのは事実だからである。特に堅い商売の銀行員とか営業の人は、たとえ地獄のような暑さでも、背広姿でいなければならないという伝統的ルールがある。それを一気に解決する大発明なのである。
 それに実際コージのほうは、隣のみぎてがいくら発熱していても今の今まで快適に過ごしていたのである。この時点で既にかなり成功しているといわざるを得ない。少なくともさっきのシュリの「ソムリエくん」よりははるかにまともだということは、さしものコージも認めざるを得なかった。ただしそれは着ている人物が人間である場合の話である。

「ポリーニ、もしかして背広の外側が室外機なんですよね」
「もちろんよ。内部の熱を外部に排出して冷房するのよ。一回の魔力充填で八時間は持つはずだわ。排熱量は一分間で…」
「…どおりでみぎての周りが暑いわけだ」

 服の内側にある体の熱を、外に向かって強制排出しているのである。コージのような普通の人間ならばたいした問題ではないかもしれないが、炎の魔神となると話が違う。これでは室温がどんどん上昇するのも当たり前である。しかし…

「それはすばらしい!さすがは我がライバル、ポリーニくんですね。同じ発明家として、その着想のすばらしさがよくわかりますよ!」

 止めを刺すようにシュリ「博士」が絶賛を始めたのだから、もはや最悪だった。日ごろの悪行(というか珍発明)を知らないプロデューサーが、一気にこの発明品を高く評価するようになってしまったからである。これではたとえ不具合があっても、もはやロケ終了まで脱ぐことなどできそうになくなってしまった。もっともここ「ミラージュ・ド・バビロン」ではどっちにせよジャケット無しというわけにはいかないので、同じことなのだが…
 あきらめたように首を振るコージに、小声で隣の魔神は言った。

「人間族って、ほんっとに冷房好きだよな…」

(⑦へつづく)

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