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映画の館

こっそり上映チャイムを録音してある。

あけまして、ありがとうございました。

 僕の街に唯一ある映画館は、正月のお祝いムードと仕事始めの憂鬱な雰囲気が交じり合う1/5に閉店した。僕は最後の日に行かなかった。なんかその場に居たくなかった。

 閉店のニュースは新聞で知ったと思う。確かにショックだったけど、「入居ビル(チーノ)の老朽化」という閉店理由の1つに「まぁそうだよな」と納得できた。あのビルは僕が生まれるずっと前に建った物だし、客としても、5階の映画館スタッフのバイトとしても、床や壁、エレベーター等から長い年月を容易に感じ取れた。そう、僕、映画館の映写スタッフだったんですよ。大学生の4年間。

 なので他の人よりかは多少思い出が豊富かと思うので、再出店or何かしらのアクションを願い、僕の映画館の思い出を色々書こうかと思います。そうすればやっと心の整理が付けられるというか、現実を受け止められるというか。「無いんだな~」とため息交じりに言える感じがします。

 あと再出店、マジでお願いします。

いまだに観てない

 そこにはもともと客として通っていた。家から徒歩10分ほどで行けたし、チーノが建つ中心街は小中学校の学区内だ。友達と遊ぶとなると公園に向かうか、チーノ6階のゲーセンに向かうかというような具合だった。それにウチは父親・兄貴・僕と、男共はみんな映画好きの家庭で、そのうえ学校の長期休み前には映画館から小さなクーポン付きのチラシがクラスに配布されていたので、そりゃあ行かない訳がなかった。むしろ行く理由しかない。家族とも行ったし、友達とも行った。友達との方が多かった気がする。アニメ映画とかをよく観ていた。『ヱヴァンゲリヲンQ』を観て、あまりの展開に外に出るまで無言だったのを思い出す。

 初めて行ったのは『マスク2』を観るためだった。小学生の頃。友達の何人かで観に行くから来ないか、と誘われたのがきっかけ。前作は兄貴が観ているのを後ろでチラッと観ただけだし、正直あまり面白そうではなかったけど、初めての「子供だけで映画を観る」というなんだかアウトローな匂いがするイベントへの好奇心が勝った。道中、前作のあらすじを友達から聞きながら映画館へ。チケットカウンターの前で料金を確認した。びっくり。手持ちの金が全然足りない。事前に友達から大体の金額を聞いていたけど、全然足りなかった。「友達と映画館に行ったけどお金が無くて帰った」というしなくていい貴重な体験をした僕は、入場ゲートをくぐる友達たちを見送って1人で帰った。ちょっと泣きながら帰った。

集めてた半券は財布ごとスられた

 中学に上がってからは1人で観に行くようになった。確か最初に1人で観たのは『不死鳥の騎士団』だったはず。1人で観る緊張感はあまり無くて、「左右の席に誰もおらずスクリーンに没頭できる」という世界が新鮮で興奮した。原作を読み込んでいても、シリウス・ブラックが呪文を受けて絶命するシーンは嗚咽を漏らさないよう苦労した。その後のダンブルドアとヴォルデモートの対決。ダンブルドアの呪文を受け止め、くるりと炎の蛇に変えるヴォルデモートが好きだった。面白すぎてもう一回観た。初めて1人で観た映画だし、初めて2回観に行った映画でもある。

 学生時代はあの映画館と共にあったと断言できる。中学校からの帰り道、思い立ってそのまま『デスレース』を観たし、友達が「一番前で観よう」と誘ってきた『スパイダーマン3』は、首も疲れたしスクリーンが近すぎて全体を観れず、あまり楽しめなかった。『レッドクリフ』で風を吹かせた金城武とトニー・レオンの格好良さに痺れた。金城武の格好良さに惹かれて観た『K-20』はあんまり面白くなかった。邦画のCG独特のあの感じが苦手。『L change the world』を観に行った友達とずーっと鶴見辰吾のものまねをした。予告編で知った『AVP2』、「エイリアンとプレデターのハーフなら名前は”プレデリアン”になるな!」なんて言っていたら本当にプレデリアンだった。エスカレーターでゲーセンに向かう途中、5階を抜ける時に感じるポップコーンの匂いが好きだった。

 高校のクラスメイトのデートに鉢合わせしながら『サマーウォーズ』を観た。まさかの隣の席で気まずかった。レイトショーで『劇場版マクロスF』を観た後、寒空の中震えながら友達と感想を言い合った。ミシェル生存ルート、最高。「どうせ上映しないだろうな」と思っていた『東のエデン』が上映されると知った時は小躍りした。初めての3D鑑賞は『キャプテンアメリカ』で、ゴーグル型の重たい3D眼鏡を眼鏡の上から無理やり掛けて、鼻と耳の痛みに耐えながら観た。『マイティ・ソー』を観た時、前の席のおじさんが立てる物音がガサガサうるさかったので初めて文句を言った。彼女と『リアルスティール』を観たあと友達から誘われて、既に鑑賞済みだと言い出せずもう一度観るハメになった。でも2回目も面白かった。『ミッシングID』、『エクスペンダブルズ』、『シャーロックホームズ』、『イングロリアス・バスターズ』、『ものすごくうるさくて〜』、どれも面白かった。『ソルト』と『タイム』は微妙。高校の系列の大学がロケ地だったから『ルパンの奇巌城』の試写に招待されたけど、ただ山寺宏一が良かっただけのクソ映画だった。

 ホントはもっと観た映画を語りたいけど、思い出すのに必要な映画の半券コレクションは2011年8月2日に中心街でスられました。なのでそれ以前の鑑賞記憶があやふやです。返してくれ、僕の半券。

 大学に上がり車を手に入れて、たまに隣町のデカいTOHOシネマズに浮気しながらも、その映画館に行かなくなることは無かった。『タイタンの逆襲』、『ネイビーシールズ』、洋画を好んで観るようになった。確かその頃だった。知人に誘われて『アメイジングスパイダーマン』を観に行った日。あの映画を観たから、珍しくドリンクを飲みながら観たから、僕はそこでアルバイトを始めた。

 エンドクレジットまで堪えた尿意に急かされながら駆け込んだトイレで、ふと目をやった先にあった張り紙。エアータオルに手をかざしながらボケっと眺めると、それはスタッフ募集の張り紙だった。

sichi will return

 ここまでつらつら思い出を羅列したけど、この後にバイト時代の思い出も書くとなると流石に長過ぎるので次に書きます。色々あるんですよ、思い出。6番館の横にあるお宝だらけの倉庫とか、2番・4番映写室だけ変な現象が起きるとか、腕を傷だらけにして作ったデカいミニオンの顔とか。

 1ヶ月後くらいまでには書きます。たぶん。たまにある前後編の映画的な。『ソロモンの偽証』的な感じで。『ライラの冒険』みたいに続編を匂わせたまま次が永遠に来ない的な感じにはしないつもりです。いつかは書きます。いつかは。というかライラの続編ホントに無くなったんですか。なんでじゃ。

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