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vsベガルタ仙台

【試合前雑感〜沼に足を突っ込んでる仙台と突っ込みかけているセレッソ】

誤審もありつつ強敵相手に2連敗を喫したセレッソが中3日で戦うのはベガルタ仙台。ベガルタは今季はホームで勝ちがなく、連敗街道まっしぐらという状況。しかし前々節の3バック採用からは反転の兆しを見せており、この一戦は両チームにとって今後を占う大事な一戦と言える。そんなセレッソは丸橋→片山、藤田→木本、清武→柿谷と連戦を考慮してメンバーを変更。対するベガルタは前節から柳、平岡、パラ、西村、A・ゲデスの4名を除いて変更し、前節良かった3バックではなく4バックで臨んできた。

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これまでの仙台は前へ強くて出て行き、高い位置で引っ掛けてショートカウンターを狙っていたが、出て行く選手とついて行くべき選手がうまく連動せず、スペースを空けてしまう傾向にあった。なので今節でもセレッソは出てくる相手を躱して難なくボールを握れるはず。つまりしっかりと仕留めなければいけないシーンを決め切れるかどうかが試されている大事な試合だと見ていた。
尚、この試合のプレビューをヴェルディ時代のロティーナの教え子田村直也さんがYouTube「ベガラボ#7」(以下リンクご参照)で話しており、聞き手の金澤アナがDAZNの実況を担当している。なので金澤さんは仙台担当ながらかなりセレッソのサッカーに詳しかった。

https://www.youtube.com/watch?v=5ESSohLouVI

【前半のベガルタ〜前に出ずに引っ掛ける/最低限CKは取るぜ】

ベガルタが前に出て来てくればスペースが生まれる。なのでどんどん出てきた背後をセレッソが突くことを想像していたが、仙台は対セレッソで形を変えてA・ゲデスと関口がボランチを消してCBにアプローチするよう整理してきた。また、仮にセレッソのボランチが最終ラインに落ちても元々の形は3トップ(1トップ2WG)なので3枚でアプローチしても関口が中盤に残ったボランチを見るので数的不利にはならなずに大外へ誘導することができる。そのような仕組みを使ったことで無闇なアプローチを見せて背後を取られることはほとんどなく、網を張ってしっかりと引っ掛け、狙い通りのショートカウンターができていた。

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その仕組みでボールを奪うと、右サイドは柳が高い位置を取って積極的に仕掛けてセンタリングを狙い、最低限CKは獲得する。CKは前回対戦でセレッソが失点した形でもあり、セレッソの強固な守備ブロックであっても足が止まった状態から始まる点で位置的優位や数的優位はなく、質的優位の差になるので、五分五分の戦いに持ち込める。なので幅を取って押し込み、ダメでもCKでA・ゲデス、柳、平岡、マテの高さでチャンスを作れるという算段だったのだろう。実際に柳は何度もCKを取っていたし、アディショナルタイムには片山を振り切ってビッグチャンスも作り出していた。

一方の左サイドはパラをオーバーラップで使う形と西村のカットインの2パターンを持っている。特に西村はワイドで幅を取ることもあれば、内側から外に逃げてヨニッチを引っ張り出す動きもしており、失点こそしなかったものの怖さは見せていた。

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【前半のセレッソ〜勝つためには両SBを高く置くべし】

優勝戦線からこれ以上遅れを取らないためにも今節は必ず勝たなければいけないセレッソ。しかも前にガンガン出て来ずにセットした守備網を敷くベガルタに対してはしっかりとボールを保持できる。なので相手を押し込むためにも両SBは比較的高い位置を取ることで、攻撃の姿勢をいつも以上に明確に出してきた。今までのセレッソであれば前半から両SBを同時に上げることはリスクが大きいのであまり見られなかったが、CBもできるボランチ木本を最終ラインに落とす形であればボールを奪われても最終ラインに3枚残っているし、ベガルタが1トップだけを残すのであればCB2枚がいれば大丈夫という判断だったのだろう。

その中で左サイドは柿谷や2トップがSBを引き出した背後のハーフスペースを狙い、右は坂元と松田が大外(仕掛けとセンタリング)と内側(シュートやラストパス)で立ち位置と役割を変えながらアタッキングゾーンを攻略しようとしていた。

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松田は深さを取ったクロス、早い段階でDFラインとボランチの間に入れるという2つのクロスパターンを高低使い分けられるし、坂元には伝家の宝刀の切り返しと左足でのセンタリング/カットインシュートの手札がある。

両サイドからの攻撃でシュートまで持っていけるものの枠内にすらシュートが飛ばない展開が続いていたが、前半終了間際に柿谷のクロスにメンデスが合わして先制に成功。シュートチャンスの多さを見れば1点に留まったことに物足りなさもあるが、セレッソとしては理想の形で前半を折り返すことができた。

【後半のベガルタ〜これぞ西村】

後半に入っても前半の流れをそのまま汲んで試合が進み、一進一退の攻防が続いていた。そんな中で得点を決めたのは何としてもホームで勝利をもぎ取りたいベガルタ。今までは大外で攻撃参加してきていたパラがこの時は関口と入れ替わってハーフスペースに立つ。この現象は90分を通して1回しか起こらなかったので、関口とパラの即興アイディアだと思うが、この時のパラのポジションは坂元とデサバトの中間に位置しており、一瞬どちらがアプローチするのか不明な状況ができた。そこで寄せが遅れてしまったのが失点の要因の1つ。とは言えそこからパスを出されてもヨニッチ、松田、瀬古のラインはキレイに横並びになっていた。しかしヨニッチが対処すべき空間を通ったボールは本来のヨニッチであればクリアできそうなもの。しかし連戦の疲れからなのかステップを踏んで横に動けずに足を伸ばすだけの対応になってしまい、結果的に西村にゴールを決められてしまった。ここで「ヨニッチが西村のマークを外したから失点した」という意見もあったが、ロティーナのゾーンディフェンスでは①ボールの位置⇒②味方の位置⇒③敵の位置という順番に立つべき場所を決める。なので、ここはロティーナの細かいルールを聞いてみないと本当に判断ミスでマークを外していたのかどうかわからない。しかもパラが蹴る前にヨニッチは離れていく西村を目で確認しながら、それでも西村の方に寄らずに立ち位置を守ったので、このシーンではヨニッチは守るべき立ち位置をしっかり取りながら、それでもなおクリアできなかったのではないだろうか。

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その後はセレッソの攻撃を凌ぎつつ、再び一進一退の攻防が続いていたが、ゲームが動いたのは64分。ボランチからのスルーパスに外側から内側にダイアゴナルランを繰り出した西村が抜け出し、松田に倒されてPKを獲得。3トップが4枚のDFの間を取り、配置でマークを撹乱させていた形が実ったPK獲得の瞬間だった。西村は自分で獲得したPKをきっちりと真ん中に蹴り込み、ホームで初勝利を目指すベガルタが逆転に成功した。

【後半のセレッソ〜逆転されるも最後は力で捩じ伏せる】

1失点目は上述の通りなので割愛するが、2失点目はPKよりも前のプレーでチームとしての綻びが生じていた。まず柿谷がSBにアプローチをかけた時、仙台のボランチを消すのがセレッソの1st守備陣(主に奥埜やボランチ)の仕事。しかし柿谷が寄せた時には木本が道渕に釣られてサイドへ動いており、デサバトは直前のプレーで右サイドへ釣り出されていたので中央への戻りが遅れていた。さらにFWも前に行きすぎ、DFラインは押し上げが足りなかったことでFWとMFの間の広大なスペースで浜崎がフリーで受ける状況を作ってしまっていた。そのため浜崎にボールが出た後、奥埜が遅れてアプローチしたが、プロサッカー選手にこれだけの時間と空間を与えてしまえばナイスパスは出せてしまう。そのボールはヨニッチの予想の逆を突いたことでまたもや足先でしか触れず、松田は中間ポジションを取っていた西村の抜け出しに遅れを取ってしまった。なのでPKを与えたプレー云々よりも、その直前で1stDFからチームとして守るべきタスクを守りきれていなかったことが失点の主要因だったと見ている。

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この失点直後、奥埜→豊川、柿谷→清武と交代するセレッソ。清武は柿谷と違いスピードに乗ったドリブルはあまり得意ではないが、素晴らしいパスで局面を変えられる。ベガルタは非保持で4-4-2を構えるので、清武は相手のボランチとSHの間をウロウロして、片山が1人で大外で起点になるタスクを担うようになる。さらに松田→小池(片山が右SBへ)、木本→藤田と停滞気味のメンバーをフレッシュにし、逆転を狙いに行くセレッソ。そんな中、80分に転機が訪れた。(ヨニッチだけのせいではないが)2失点に絡んでしまっていたヨニッチが清武のピンポイントのCKに有無を言わさない高さで合わせて同点に追いつく。試合前の木山監督がコメントしていた仙台の狙うべき形であるCKでやり返した見事なシュートだった。(この後からヨニッチが空中戦で無類の力を発揮するから、やっぱり得点は選手のメンタルに馬力を与えてくれるんだなぁと感じた…笑)その後も片山や坂元を中心に右サイドが活性化し、CKを連取したり、清武のシュートに繋がるが最後のところが決まらない。引き分けで今節も川崎と勝点差を引き離されるのかと嫌なムードになりかけたアディショナルタイム、清武がスーパーゴールを決めて試合をひっくり返した。

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3点目はセレッソがチームとして狙うべき場所へ意図を持って侵入できており、これは前半から再三再四、片山&柿谷で狙っていた形。今回は小池が柳を引っ張り出して生んだスペースをボランチの陰から清武が取り、中央でFWが待つことでCBがカバーに出られないようにしていた。そして最後は清武の技術力で相手を屈服させたワンダフルゴールだった。

【試合後の感想〜人間は感情で動く(=必ずしもロジカルではない)生き物。ジャッジとM&Aは似ている】

久しぶりに個人の力で相手を捩じ伏せた試合だった。こんな展開はタイトルを獲った2017年によく見た(天皇杯の準決勝、決勝とかソウザの暴力ミドルとか、健勇の覚醒とか)が、それ以降はなかなか力で捻じ伏せられていなかった。しかし今節は個人の質の高さをしっかりと発揮し、悪い流れを断ち切れたと言えるだろう。
さて今節のPKを「明らかなファール」と言っていた人をSNS上で見かけた。だが僕はこれを明らかなファールだとは思わない。明らかなファールとは100人みんながファールと判定するもので、コンタクトプレーではなかなかそんな事象は起こらない。今節でも後ろからのタックルがノーファールだったシーンもあったし、これまでにセレッソがペナルティエリアで受けてきた数々の際どい"ノーファール"の数々と比べれば、"明らかな"ファールではないだろう。ただ僕はこのシーンでファールを取られても仕方ないと思っており、完全にノーファールだとは思っていない。ここで言いたいことは西村主審の判定への不満ではない。観客の大半は試合を観る時、ファールが正しいかどうかではなく応援するチームが勝つことを祈っている。なので自チームに不利であれば怒るし、得すればラッキーと思う人が多いだろう。そしてファールはオフサイドや明白なハンド、暴力、暴言を除いてほとんどの場合において判定に幅があり、FIFAはなるべくブレが起きないようにハンドの基準を明確化しようとルール改定をしているのである。

余談:ここからM&Aと絡めて書くので、半沢直樹で金融にちょっとでも興味を持った人は(気が向いたら)読んでください。
M&Aでは会社の株を買う。じゃあその株の値段はいくらになるのだろうか?M&Aもスーパーでの買い物と同じで、買手(例:電脳)は安くで買いたいし、売手(例:瀬名社長)は高くで売りたい(=安くで買われたくない)のである。そこで両社から依頼を受けたアドバイザー(例:東京セントラル証券・東京中央銀行)が株の値段を様々な方法で算出して、いくらで売買するか交渉して決める。(半沢直樹は顔芸ドラマなので実務に沿ったことはしていない)

ちなみに先日、上場企業のファミリーマートが総合商社の伊藤忠商事に買収された。この時の両社が決めた価格は2,300円/株であったが、両社のアドバイザーが算出した価格は以下の通りである。

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この公開買付届出書を見てわかる通り、買手側の伊藤忠商事側に立った野村證券が算出した類似会社比較分析やDCF分析の値段は低く(946円~1,951円 / 1,701円~2,749円)、売手側のファミリーマート側に立ったメリルリンチは値段が高く(1,824円~2,922円 / 2,054円~3,432円)算出されている。この中で両社が様々な駆け引きをして、落としどころが2,300円/株に決まるのだが、伊藤忠商事としては「2,300円は価格幅の上の方だからかなり高い」と感じているだろうし、ファミリーマートとしては「2,300円は価格幅の下の方だからかなり安い」とそれぞれ真逆に感じているだろう。

さて個人的にはM&Aの価格決定と審判のジャッジは似ているなぁ、と思っている。ファールの可能性がある事象が起きた時、観ている人や選手の尺度はそれぞれ違う。ファールを受けた側は「ファールだ!」と言い、笛を吹かれたチームは抗議やブーイングをする。これがファールの際に生まれる”判定の幅”(≒M&Aの価格の幅)である。なのでこの「ファールorファールじゃない論争」はサッカーという敵味方(≒買手と売手)があって利益が相反する以上、一生無くならない感情が混ざった有意義で不毛な議論なのである。その中で審判(≒アドバイザー)は毎試合10キロ近く走りながら瞬時に判断を下すので、相当な負荷がある尊敬すべき仕事であることは言うまでもない。付言するならジャッジリプレイは審判を吊るし上げる番組ではなく、我々観客側のルールに対する理解不足を解消する番組なのである。

とは言え僕は聖人君子でもないので、誰しもが判定を黙って受け入れなければならない、と言うつもりも毛頭ない。スポーツ観戦なんて所詮ただの趣味でしかないんだし、感情を表に曝け出して良い。(自分にも言い聞かせる意味もこめて)要は節度を持った感情の出し方にしようね、というレベルの話である。そしてジャッジに幅がある以上、”明らかなファール”という言葉は"明らかに"間違った意見である。

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