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vs川崎フロンターレ

【試合前の感想〜勝利以外はいらないぜ!】

心理的に受け入れ難いFC東京戦、鹿島戦の黒星が尾を引き、首位を独走する川崎フロンターレとの勝点差は11に開いた。加えて得失点差で圧倒的な差がある以上、実質的には12差(つまり最速でセレッソ4連勝&フロンターレ4連敗で逆転)である。今日勝てばその差が8に縮まり、逆転優勝の可能性もまだまだあるだろう。逆にセレッソが負ければ、残り13試合でフロンターレが少なくとも5敗しなければ順位をひっくり返せない。
さて前節から1週間空き、お互いにベストメンバーで向き合った一戦。セレッソはLSBの定位置争いを片山が勝ち取り、ベンチには若獅子藤尾や日本の秘宝西川潤や桜の8番を受け継いだ柿谷などが入る。対する川崎はエース小林、シーズン序盤はスタメンを落ちていた齋藤、守田や生え抜きの若手が揃う。加えて今季Jリーグに恐怖をもたらしているアタッカー陣がベンチに控えている。

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先手必勝、ともかく必勝の試合の火蓋が切って落とされた。

【フロンターレ〜ハイプレス&ショートカウンター/狭くされたスペースも高い技術の前では狭くない】

昨季の川崎はルヴァン杯を獲ったものの、リーグ3連覇だけでなくACLまで逃してしまい、今季は改革を求められていた。(今のJ1でこんなことを堂々と言えるのは川崎と鹿島くらいだろう)そこで採用した施策は新監督の招聘でもなければ、ベテランのクビ切り&若手の採用でもなく、風間時代のトメルケールへの回帰と鬼木体制の上積みだった。
そんなフロンターレの圧倒的な攻撃力の秘密は4-3-3(可変で4-4-2)の緻密なハイプレスと奪ってからのショートカウンター。そして圧倒的な個人の技術。そのコンセプト(筆者推測)は「敵陣でサッカーをやる」、「ボールを奪ってすぐにフィニッシュ」、「とにかく取る」、「取って取って取りまくる」である。その差し込む陣形の基本形が以下の図。

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主に家長や脇坂が前に出て疑似4-4-2を作りながら、小林はGKまでプレスに行って片方のCBに制限をかける。さらにボールを誘導される側のウイングは大外への逃げ道(SBやSH)を封じてセレッソのボランチへのパスコースを誘導路にする。そこでボールが入れば守田や田中のボランチが後ろから、前へプレスに出たFWが前から挟み込んで刈り取る。

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このパスを受けた選手は基本的に後ろ向きなので下げるしかないし、仮にファールしてもセレッソ陣地なので痛くも痒くもない。そして中央で奪えればゴールはすぐそこにある。細かいところは選手の特徴が違うが、大まかな形はここ数年プレミアリーグで暴虐の限りを尽くしているリヴァプールのようである。
とは言え自分たちがボールを握って後ろから前進することもあるので、必ずしもハイプレス&ショートカウンターができるわけではない。その時は大外の突破力とSBの押し上げで打破する。この時にキーマンとなるのがウイングにいかにボールを入れて仕掛けさせるか。もちろんパサーの技術も一級品なのは言うまでもないが、鍵は山根や登里の立ち位置にある。浮き球を除いてどんなパスも選手間を通る。ならばセレッソが閉じてくる選手間を開かなければならないのだが、その時にボールが出る出ないはともかく様々な形で水面下で仕掛けていた。

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セレッソの圧縮守備を組織で打破するなら、開幕戦の大分(大外のアイソレーションでセレッソ守備陣にスライドを強いる)が模範例と言えるだろう。だが川崎は11人の仕組みではなく1人1人の個の能力×11人でセレッソの守備網を破壊しに来た。チームとしての戦術もさることながら、まるで「セレッソの中央圧縮は俺たちにとって圧縮ではないぜ」と言いたいようだった。

【セレッソの攻撃(前半)〜CBを誘い出すべし】

セレッソは前回対戦で大敗したものの、構築された仕組みで川崎に迫っていた。それは高い守備陣形で前からはめる形を取る川崎の強みの裏返しでもある、SBの背後を取ること。ここにパスが出れば強さと速さを兼ね備えたCBを中央から引き出せる。

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実際にジェジエウは前半早々に奥埜にひっくり返されて堪らずイエローカードを受けていたし、その形で何度か川崎の守備の背後を付けていた。また前を向けずに相手を背負っても、4枚のMF+両SBがFWの後ろで受ける仕組みを作るように徹底されている。そのためセレッソはロングボール⇒トスを続けることで、川崎のDFラインの数メートル前でゴールを向いてプレーするよう徹底していた。

またキーマンになるのは丸橋から定位置を奪い、躍進を続けるLSB片山。片山は常に山根と家長の間に立ち、清武が山根を誘惑する立ち位置を取ることで国内トップクラスの攻撃プレーヤー家長は片山のマークに寄らざるを得ない。そして片山はロングキックのターゲットになるのだが、家長が戻り遅れたらしっかりと足元に止められるし、戻ってきても空中戦では負けない。(家長が戻ってきたらそのスペースは清武や藤田が使うので、あまり競るシーンはなかったが…)そして坂元や清武と同じく逆足でボールを持つので、相手にボールを晒さすことなく保持できる。

【セレッソの守備(前半)~これ以上の機能を求めろと?】

前から仕掛ける川崎に対してセレッソの守備は自陣でスペースを埋める。川崎の前線はGKまでアタックするが、セレッソのFWがチェックするのは攻撃へ転じるスイッチを入れるボランチ。

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そして全体的に撤退することで自陣後方のスペースを消し、中への侵入者を追い返す。外へ逃れて中を空けようとしても、どうせボールはゴールを目指して中へ戻って来るので中央に構えて跳ね返す。

守るべき約束事は多いだろうが、それを実行すれば足が止まった状態のセットプレーを除いて失点するリスクは極めて限定的である。そうして真綿で首を締めるような守備を行うことで、相手は苦し紛れにシュートを打ってくる。でもそれが失点に繋がるリスクはこれまた極めて低いのでそれも許している。相手の攻撃を全部防ぐことはできないが、取捨選択をすることでやるべきことやらなくてよいことが明らかになり、結果的にセレッソの失点はここ2年ダントツで少なくなっていると言えるだろう。
そして今節もほとんどの時間でセレッソの守備は機能していた。川崎も思ったほど前で引っ掛けられなかったし、ウイングが仕掛けてもほとんど片山や松田はこじ開けられなかった。そして苦し紛れのシュートはどれもジンヒョンの手の中に収まった。
試合が動き始めたのは35分。痺れを切らしたのかどうかは定かではないが、右ウイングの家長が中央や左サイドへ流れ始める。このポジション変化を見て田中が山根の位置に降り、山根が前へ出ただけなので形は別に大きく変わらない。変わらないが中央でのリズムに変化が生じた…ように見えた。

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家長が左サイドから再び右サイドへ流れてきて片山とバトルして得たCK、一度は瀬古が大きくクリアしたのだが、拾った登里が前線へふわりと蹴る。そのボールを受けた脇坂の素早い弾道が瀬古の足に当たってゴールネットを揺らした。この時、川崎の最前線に小林しかいなかった一方、セレッソは3枚揃っていたし、脇坂のボールはおそらく小林の後ろを通り抜けていただろう。だが、あのシーンで後ろ向きにさせられると守備陣としては厳しい。登里はあそこまでふわりとした浮き球を狙っていなかったと思うし、脇坂の小林へのパスもややズレてたように思えるが、サッカーはゴールが決まれば良いのである。
川崎としては試合を通して狙っていたような形ではなかったが理想の展開となり、セレッソとしては守備が機能してい分、とても重たい先制点を献上することになってしまった。

【セレッソ(後半)~翔んだ奥埜と散った桜】

逆転優勝を自ら手繰り寄せるためには攻めなければいけなかった。そして攻めていた。前半はFKでメンデスのシュートシーンを作り出したシーン以外、攻撃であまり目立つシーンは多くなかった坂元だが、後半は何度か登里の背後を取って苦しめて交代に追いやった。片山はしんどい時間帯でも家長や山根を振り切って前線まで上がってシュートシーンを作り、ロングボールではサイドでターゲットマンの役割をこなし、セットプレーでは中で合わせ続けた。そして松田は何度も正確なクロスを上げていた。

それが奏功し、松田のアーリークロスから2CBの中間を取った奥埜がピンポイントで合わせてセレッソに待望の同点ゴールが生まれる。この流れなら逆転できるのでは?優れた脚本家がドラマを書けばセレッソに逆転させるだろう。私は無神論者にも関わらず、この日ばかりは手を合わせて神に祈り続けた。川崎の必勝ムードから一転、非常に拮抗した展開になった。息もさせないような展開だった。82分までは。

82分、川崎のサイド攻撃をヨニッチがすんでの所でクリアしてCKを与える。最初は跳ね返すのだが、そのクリアを拾った旗手がこれまた低弾道で見事なロングシュートを打ち、ジンヒョンがなんとか弾くもこれが交代直後のL・ダミアンの目の前に転がり失点してしまう。

それでもあと1点なら追い付けなくはない。まだ行ける。そう思って観ていたが、個人的に試合の決定打は2失点目の後のキックオフだろう。失点後に藤尾のキックオフで試合が再開するのだが、藤尾にはキックオフの進め方が浸透していなかったのだろうか?それとも焦ったのだろうか?もしくは下げ過ぎずに再開しようとしたのだろうか?その辺りはセレッソの選手にしかわからない…
従来のセレッソはキックオフでCBまで下げ、サイドに流れたターゲットに瀬古が蹴り込む形が一般的。しかしこの時は短い距離にいたデサバトへ下げた。その1テンポがここまであまり機能していなかった川崎のハイプレス⇒ショートカウンターを誘発してしまった。そこからデサバトはボールをCBに下げるのだが、CBはハイプレスを受けたため、大きく前へ蹴ろうとしたボールが川崎の守備網に引っかかる。そして最後は三笘にゴールを許して万事休す。川崎がここに来て狙い通りのハイプレス&ショートカウンターを発動してトドメの一発を決め、セレッソとしては痛すぎる3失点目が生まれてしまった。そこからは前のめりになってややオープンな展開になったり、ボールを回収した川崎がキープに入ってコントロールする。80分近く拮抗した展開にも関わらず、勝たなければいけない試合で1-3と痛すぎる敗戦となってしまった。

【試合後の感想~下の突き上げを突き返せ/陸の涙は川崎を破ってタイトルを獲ってこそ洗い流せる】

川崎の独走に拍車がかかった。セレッソにとってリーグ優勝は赤になりかけの黄信号だろう。
むしろセレッソはここから下の追い上げも見つつ戦わなければいけない。どのチームも天皇杯を狙う上で川崎を無視して、セレッソの席に照準を定めているはず。2試合多いとは言えFC東京は2位に返り咲き、ガンバは2勝すれば21試合終了時点で勝点1差、名古屋は1勝すれば21試合終了時点で勝点3差になる。これ以上勝点は落とせない状況になっているが、これは従来のJ1首位チームが味わうべき境遇だろう。だからこそJ1は毎年のように独走していたチームが最後に逆転優勝を許すスペクタクルなリーグになっている。しかし本来は首位チームが苦しむこの境遇に打ち勝てば、セレッソはさらに強くなるはずだ。
さて、今節の負けは実力差が出た。途中までは息するのも忘れるような展開だった。だが最後に力負けした。攻撃力にはやはり差があったし、その差は「選択肢をどれだけ持っているか」に尽きると思う。ロティーナ/イヴァンはアタッキングサードでの選択肢を3つ提供し、状況に応じて選手が使い分けるようにしている、と聞いたことがある。(個人的な解釈としては攻撃は相手の立ち位置を見て後出しジャンケンできるので、3つに絞って1週間を過ごし、すべての精度を高めてゴールを目指していると考えている)

一方、川崎は持ち得る選択肢がもっと多いように見えた。だからこそ手を変え品を変え、様々な形で攻撃してくる。そしてそのクオリティがどれも突出して高いのである。(フツーはほかのチームみたいにそのクオリティに凸凹があり、しっちゃかめっちゃかな攻撃になってしまうはず。どことは言わないけど。)

さて今節は不思議なことに、川崎に負けた悔しさと同時に清々しい気持ちもあった。歴代の中で最も精錬されたセレッソの選手がやるべきことをやり切って負けたなら仕方ないんだ、と負けたことに納得できた。悔しさや苛立ちを感じる負け試合はこれまで何度でも経験しているが、清々しさも感じる負け試合は後にも先にもこれくらいだろう。(追記:W杯のトーナメントでの惜敗はこれに近い感覚かもしれない)

だが試合後の陸はピッチで動かなくなっていた。思い返せば不動のRSBだった酒本の後釜として2016年にFC東京から移籍してきたが、J2では通用したりしなかったりするヤンチャな若手の1人だった。しかしJ1昇格以降は国内屈指のRSBまでに成長したし、色眼鏡なくとも日本代表に選ばれておかしくないパフォーマンスを続けている。その陸が流した涙はこの決戦の重みを十分に伝えてくれた。
以前、テレビ番組で武田鉄矢が「女から斬られた傷は女じゃないと埋め合わせができない」と言っていた。セレッソは元日に川崎を打ち負かして天皇杯を獲ることで、やっとこの日の悔し涙を埋め合わせることができる。なんとしても2位以上でフィニッシュし、川崎にリベンジしなければならない。そしてその時の勝利の立役者は陸であって欲しい。そんな雰囲気に包まれた試合後の長居スタジアムだった。

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