空と対面したときの怖さについて
草原に仰向けになって空と対面すると、青空を青空足らしめている光によって、あなたの視覚には眩さが与えられるだろう。
眩しさに慣れて、しばらく眺めているうちに微妙な変化が認められて、そこに通常の距離のようなものとは違う隔たりが感じられてくるのだが、それが近いのか遠いのか、空がどのくらい離れているものなのかそれを感じるための取っ掛かりは見当たらない。
さらに時が経つと、それまでは感じられなかったそこはかとない不安や恐怖のようなものが感じられてくるだろう。それは僅かに感じられるようなもので、はじめはその不安感がどこからやって来るのかわからない。
しかし、それが通常は感じることの無い背後の圧力に由来することに気がつく。そして、突如として落下の感覚に襲われるのだ。なぜ空に向かって落下しないのか。これが不安の源だったのである。
この落下の感覚が生ずるのは、全身の背後に感じる圧力、仰向けで背負っている重力のせいだ。通常の姿勢では決して感じることのできないものであり、地面に押さえつけられている力を感じること無しには、空と対面する恐怖を味わうことはできない。
空と対面することは、身体が受ける重力や引力のような力のベクトルと眼差しのベクトルとの関係によって成立する。だから大地に直立して顔だけ天に対面させて空を眺めても、それは対面することではないからちっとも怖くない。
もし地球上が無重力ならば、空と対面することができなくなるし、空はちっとも怖くなくなってしまうどころか、地球と宇宙との区別さえ無くなってしまうかも知れない。つまりは、人間にとっての空というものが無くなってしまうかも知れない。
他者と対面することの恐怖もまた、顔と顔を合わせ、眼と眼を合わせ、対面した瞬間から自分の背後が閉ざされることによるのだ。だから私たちは相手の眼差しの引力に抗い、その瞳孔に落下する恐怖と戦うことを避けるために、目を逸らすことでその引力から逃れようとするのだろう。
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