アイドルを応援することのポトラッチ的側面 | 乃木坂46

ポトラッチ(potlatch)

《元来は消費・贈与の意》北アメリカ太平洋岸のインディアン社会に広くみられる、威信と名誉をかけた贈答慣行。主催者は盛大な宴会を開き、客に蓄積してきた財物を惜しみなくふるまって自らの地位と財力を誇示し、客もその名誉にかけて他の機会にそれ以上のもてなしをする。

デジタル大辞泉 小学館

ポトラッチという言葉を知ったのはついこの間
ドラマを見て知った。

似たことわざをあげるとしたら
"ただより高いものはない"

簡単に言えば、バレンタインでチョコを貰ったらホワイトデーにはよりいいお返しをしなければならないみたいなことだ。


アイドルを応援することが
ポトラッチ的側面を持っていると、ここ最近考えている。


  無意識的にアイドルに対してポトラッチ的な行為をしてしまっていたと思う機会がありその反省の弁を述べたい。
  だから何?って内容だが言語化して整理したい。これから書く事は、ファンもアイドルも気にしてる人なんて誰もいないだろうが、屈折した性格上、気になってしまったので書く。



  自分が応援している乃木坂46にはミーグリというアイドルとオンライン通話ができるサービスがある。時勢に考慮して握手会の代替手段として今は用いられている。

  ミーグリはオンラインで実施できるのでファン側は何処からでも参加できる。自宅でも職場でも屋外からでも周囲に人がいないとか、周囲から声がしないとか一定の条件さえクリアすれば場所を選ばず参加できる。

  通常、多くのファンは静かな自宅から参加することが多く、サービスとしても安定した通信を実現するためにそれを推奨している。ミーグリは個人で権利を購入しているため、譲渡や販売が出来ず、故意でなくても第三者が映り込んだ場合などは利用停止などの措置が取られる可能性がある。なので屋外からのミーグリは不可能ではないがリスクがあるため意図して実施する人は多くない。

 

  ただ、私はミーグリの特性を活かすべく、頻繁に外からミーグリに参加してきた。1日中PC画面に向かって何百人もの人とミーグリをしている推しメンに綺麗な景色を見せれたら喜んでくれるのではと思ったからだ。
  ある時はお台場の海岸から、ある時は六本木ヒルズのスカイデッキから、ある時は紅葉した銀杏並木から、推しメンに綺麗な景色を見せようと試みた。

  外から参加する時は"どこにいるの?"と画面に顔を近づけて興味津々にリアクションをとってくれる。色んな景色を見れてリフレッシュになるし嬉しいと、そう言ってくれる。推しメンが喜んでくれるのならそれ以上に嬉しい事はない。

 

  屋外からのミーグリに味をしめていた私はGWということもあり、先週は東京から観光も兼ね茨城まで足を伸ばして人気の観光地からミーグリをした。推しメンはやはり喜んでくれたし、行ってよかったと思う。

 

  ただ、それと同時に推しメンから申し訳なさそうな恐縮したような空気を感じた。言葉として発されたものではなかったが、気を遣わせてしまっているような感覚に襲われた。



「この人またきたよ笑」
「なんかまたやってるわ笑」

って思ってくれていればよかったのだが、
我が推しは人が良すぎたみたいだ。







ポトラッチ




  通常、自分の資産である時間やお金、モノを自分の手から失うことは"コスト"と呼ばれる。

買い物をする時は出来るだけ安い方がいい
無駄に時間をかけるより効率的に過ごした方がいい
モノを手元から失うことは資産が減る事になる

  当たり前ではあるが、アイドルもビジネスであるからして、ファンはお金を払ってミーグリに参加したり、遠方のライブ会場へ足を運んだりしてコストを払いアイドルを応援している。

  そして、そこに投下したお金や時間などのコストに対する対価として推しメンに会えたり、会話をしたり、グッズを手に入れたりする。経済社会における当然の仕組みとしてアイドルも運営されている。

  私もファンの1人として、推しメンに会うためにミーグリの権利を購入したり、ライブの日に有給を取ったりしてコストを支払い対価を得ている。

 

  ただ、今の私はアイドルを応援すること(≒コストをかけること)が負担ではなく喜びになっている。通常コストは少ない方がいいはずだが、あまりに費用対効果が良いと感じてしまいコストをかける事自体が自身の幸福に繋がってしまっているように錯覚している。

  ミーグリに何万、何十万円かけたとしても、推しに会える事、会話ができる事、推しの時間をたとえ一瞬でも取得できる事は自分にとって何にも代え難いリターンである。むしろ釣り合っていないとさえ感じている。それくらい貴重なモノ(サービス)であるから、極端な話、"タダ"同然に感じている。安い買い物だと。

  だから、自分の支払い能力の範囲内であればいくらでもミーグリに参加しようと思えるわけで、ミーグリに参加する事が推しメンの応援にも繋がって、推しメンも喜んでくれるならこんなにも嬉しい事はない、そう思って参加してきた。



  ただ、参加するかどうかの選択権はファン側にあり、アイドル側にファンの選択権はない。つまり、ミーグリへの参加者は時間とお金をかけて会いにきてくれたファンとして認識される。ましてや、何度も参加したりミーグリのたびに色んな観光地から参加するようなファンに対してはありがとう以上に申し訳なさのような遠慮のような感情を抱いてる可能性もある。
(アイドル側の視点に立って推測する事が如何に傲慢であるかは重々承知の上で、一般論として話を進めたい)


  私は自分の意思で好き好んでミーグリに参加している。そしてミーグリに参加する事自体が喜びであり、推しメンに会えて、会話できるだけでコスト以上のモノを貰っていると感じている。だから、自分からも一つでも多く何かをあげたい。お返しとしてできる範囲で貰ったもの以上のモノを返したい。そう思って推しメンに喜んでもらいたいという一心から屋外ミーグリを敢行してきた。そこに対して今以上の見返りなど全く望んでいないし、むしろ要望を上げてほしいくらいである。


  ただ、アイドル側も私と同様の感情を抱いているかもしれない。ミーグリに参加してくれてるという貰い物に対するお返しをしなければと(仕事とは言え)笑顔で懸命に対応をしてくれている。だからこそ、貰い物が多くなればなるほどそれに対して応えなければならないと、貰い物以上のものを返さないといけないと思わせてしまっているのではないか。

(アイドルも仕事でやってるんだから、わざわざそんなひねくれた考え方するのは気持ち悪いってのも自分でわかってる。それでも推しメンが本気でそう捉える可能性は結構ある。)

  私にポトラッチ的意図が全くなかったもしても、自分の手を一度離れた行為は受け手がポトラッチと認識してしまえば、それはもうポトラッチになってしまう。自分の意思とは関係なしに。


  先週のミーグリはまさにそう感じた。喜んでくれるだろうと思って善意からやったことだったし、推しメンも嬉しいと喜んでくれたのも事実。ただ、配慮が欠けていたとも考えられる。
  私は良かれと思ってやっていたことが、推しメンに気を遣わせたり、恐縮させてしまっていたりする可能性を考慮できていなかった。


  アイドルを応援する事は趣味の一つであるが、コレクターのように対価として物理的なモノを手にする事とは違い、アイドルから元気や活力を貰うという無形サービスという特性もこの問題には大きく関わっている。そして、人間対人間のコミュニケーショサービスでもあるから、お互いの提供物は常に形を変えて受け渡しが行われていることも複雑に思考してしまう要因になっている。
  それを踏まえた上で、アイドルを応援することもビジネスの一環であるからして、適切な対価以上のことを望んでいるかのような態度は慎むべきであり、健全な経済活動ではないと考えている。


独りよがりに行っていた行為は無償の贈答行為として受け取られ、見返りや配慮を要請したものになりかねない。


アイドルを応援することがポトラッチになってはならないと。




向こうはそこまで考えてねーよ、考えすぎだろ
って思いますよね。自分もそう思います。

でも、この問題はアイドルとファンの間ではなく
むしろ友人間や恋人間での方が問題になるように思う。
"私はこんなに尽くしているのになんで返してくれないの?"
といった具合に日常にもよくある話である。

この問題は引き続き考えていきたいし、
否応なしに考えざるを得ない人生を送ることになるだろう。



  色眼鏡だとは認識しつつも、私の推しは人一倍何事にも一生懸命に真っ直ぐ全力で応えようとする。あくまでファンもアイドルも1人の人間であり、会話をすることがミーグリの主たる目的であると忘れてはならなかった。なんとか応えようとする推しメンの言葉を私が受け止めずに一方的で利己的なミーグリになってしまっていた。


推しはそんなこと気にもしてないと思う。
どんなミーグリだったかも覚えてないと思う。

次のミーグリはまた何事もなくやればいいと思う。
推しが楽しいと思える時間を作れればいいんだと思う。



  それでも、今回のミーグリがアイドルを応援するという事に新たな気づきをくれた。自身の応援がポトラッチ的側面を内包していたと気付けた。


   喜びや感謝にとどまらず期待を寄せることが意図せずプレッシャーになることもあるから、ミーグリに限らず、多くを求めるような言動にならないよう配慮したい。"ありがとう"と"どういたしまして"、それで十分。



推しのことを想って応援を続けていきたい。
重すぎる想いはそこそこにして。


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