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農業から学んだこと(その1)・・・「教えることは学ぶこと」

農業高校の教員時代に教えていた生徒が、環境大賞として静岡県知事から表彰された作文です。
「教えることは学ぶこと」、そんなふうに思います。

 

静岡県立小笠高校は総合学科、農業の授業があります

農業から学んだこと(その1)

静岡県立小笠高等学校 3年 中林由佳
 
「よし、それじゃあ、今収穫したトウモロコシを生のまま食べてみよう」、先生の言っているその話の意味が私は最初理解できませんでした。「きっと、だましているんだ」と思いながら、そっとかじった一粒の生のトウモロコシはとても甘くておいしく、私はとても感動してしまいました。

これは「農業科学基礎」という授業で自分が育てたトウモロコシを収穫した時のひとコマです。
私の通っている静岡県立小笠高等学校は総合学科の学校で、自分の興味や関心にあわせて科目を選ぶことができます。調理師希望の私は「食品加工」「食品科学」「食物」といった調理師に関係する科目を選択していますが、食材の勉強として選択した「農業科学基礎」で農業の面白さにひかれ、「草花」や「温室野菜」や「課題研究」といった農業科目も選択しました。「草花」では種から育てた花で花壇を作り、「温室野菜」では地域の特産物である温室メロンを育て、「課題研究」ではミツバチを飼って学校の中にある花からハチミツを取っています。

私は農業の科目を選択して農業っていいなあと痛感しています。
田んぼから吹いてくる風はとてもさわやかだし、稲のさらさらという音はお金には変えることができない幸せな気分にしてくれます。
私たちは自分たちの周りにある自然だと感じている風景が農業のおかげだと感謝すべきだと思います。農業は単に食料を提供するのではなく、私たちが自然だと感じている風や水や土や生き物たちの源です。
農業に、もっともっと尊敬と感謝の気持ちを持つことが必要だと思います。自然の空気は何ものにも変えられないものです。
今農業に興味がない人でも、一度自然に囲まれて心からリラックスできたら変わってくると思います。

畑で野菜を作っていると、畑には野菜以外にいろいろな生き物がいることにびっくりしました。
チョウ、ハチ、トンボ、バッタ、カマキリ、てんとう虫、カエル、クモ、ミミズ、時にはモグラやタヌキやハクビシンに畑を荒らされたり、ハトやヒヨドリに野菜をつつかれたりもしました。
しかし、考えてみると自然とはそういうものです。

私は「エコロジー」という環境に関する授業も選択していますが、その授業で見学に行った丹野池というのは、茶園へ過剰に投与され流れ出した肥料が原因で水が酸性化しており、コバルトブルーに輝く池の水はどこまでも澄んでいてきれいなのですが、魚もいない水草も生えていない、透き通った池の底に枯れた木が横たわっているとっても不気味な池でした。

考えてみると虫がいない野菜はおかしいのです。トウモロコシにはアワノメイガという虫がつきます。私は、虫が付いた野菜なんて食べられないと思っていました。しかし、「虫が付いているのはおいしい証拠なのだ」ということが、トウモロコシを生で食べてみて納得でき、今では野菜に虫が付いていてもあまり気にならなくなりました。消費者はわがままで、「ムシがついた野菜はだめ、でも無農薬や減農薬の野菜を作ってほしい」と思っていますが、それは生産者から言うと無理に近いことです。

野菜の形についても同じことが言えます。人間だって同じ顔、同じ背の高さの人はいません。自分で実際野菜を作ってみることで、野菜にだっていろいろな形やいろいろな大きさがあってもいいと考えることができるようになりました。
キュウリはとってもデリケートで手入れが悪いとすぐ曲がったキュウリができてしまいます。私は曲がったキュウリの値段が安いのは、形が悪いだけでなく、味も悪くおいしくないからだと思っていました。しかし、食べてみたら味は変わりません。逆に、キュウリの株に丸まりながらちょこんとくっついている曲がりキュウリが、とてもかわいらしく愛着がわいたものでした。

大根とニンジンを育てた時にも発見がありました。大根の葉はとてもおいしく、味噌汁や炒めものにしてとてもおいしくいただけるのです。ニンジンの葉は少し苦かったのですが栄養分はとてもありそうでした。現在の日本の農産物の流通では、なぜ大根やニンジンの葉を捨てているのでしょうか。 
       
農産物の流通は生産者と消費者の役割分担がされすぎていると思います。
温室メロンを作ることになったとき、最初はメロンを食べることがとても楽しみでした。しかし、苗から少しずつ大きくなっていくのを見ながら、いろいろな手間をかけているとメロンに対して愛着というか愛情がどんどんわいてきて、実際食べる時になったら、食べてしまうのがもったいなくて、「でも、せっかく大きくなってくれたのだから味わって食べなくちゃ」と思いながら少しずつ少しずつ、いろいろなことを思い出しながら食べました。

生産者は作るだけ、消費者は食べるだけと役割に分かれていますが、生き物を育てて食べさせてもらっているという、一番大切なことが伝わっていないのではないかと思います。
農産物は品種改良が進み苦味や臭みが少ないものに変わってきていますが、それは農産物が消費者に与えられる受身のものであり、それは本来の植物が持っている特性とはかけ離れたものになっています。そこには生命に対する尊厳の念や愛着が欠けていると思います。

他にも、野菜を育ててみると、次から次へと疑問がわいてきます。
例えば野菜を収穫した時に野菜を洗うのはなぜでしょう。大根やニンジンやジャガイモを収穫すると小さな根がたくさんついています。土を洗い流すとこれらの根は全部取れてしまいます。土から取り出された野菜の生命力は思ったほど長くないはずです。洗うことでさらに生命力を短くしておきながら、保存料や防腐剤で長持ちさせているのはとてもおかしなことです


科目「農業科学基礎」の一期生
総合学科は事業選択制、最初は7人の授業でした。


(以下は7月17日の「農業から学んだこと(その2)」に続きます。)


農業から学んだこと(その1) 」
第1版 2024年7月15日発信
 
オーガニック農園 株式会社 しあわせ野菜畑
代表 大角昌巳

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