行政とデザイン / 無謬性 - 失敗できないという原則
この記事の要点
・行政には「無謬性」という失敗できない文化が存在する
・協働や働きかけには驚かせないような文化理解が重要
行政との協働は文化の理解が重要
ここのところ政策系のWebサービスを作っていることもあり、公共セクターでのリサーチ活動が多くなりました。
行政とデザインという本でも行政文化について触れられていますが、私たちがいる民間企業、特にインターネット業界とは文化が異なるため、協働の際はその文化・ナラティブを理解する必要があると考えています。
なぜ、「改革」は進まないのか
先日、リサーチがてら都内の区政報告会にいきました。そこで議員の方への質問する時間があり、こんな質問が出ました。
「XXを改革するのに、○○をまず試しにやってみればいいと思うんだけど、なぜやらないのか?」
○○は質問した方にとっては高確率で正しいことがわかっている、という解決策な一方、思い切った改革案の様子でした。
それに対して質問を受けた議員の方が改革のハードルとして話されていたのが「行政の無謬性」についてでした。
自分にとっても覚えておきたい内容だったのでメモとして残していきます。
行政の無謬性とは何か
無謬性とは「ある政策を成功させる責任をを負った当事者の組織は、その政策が失敗した時のことを考えたり議論してはいけない」という信念です。(「無謬性の原則と全体主義」2018/5/22 日本経済新聞)
例をあげると、
政府は財政再建に責任があるのだから、それが失敗したときに起きる「財政破綻後」を考えてはならない。日本銀行は2%インフレを達成する責任があるのだから、達成できなかった場合の「出口戦略」を考えてはならない。(出典は同記事)
というもので、要するに「失敗が許されない」という文化のことで、政治学者の観点からも以下のような批判が出ている文化です。
「為政者の無謬性を求める人々の欲求が『無謬の為政者』すなわち独裁者をつくり出し、全体主義をもたらした」(『全体主義の起原』ハンナ・アーレント)
民間はPDCA
民間やベンチャー企業だとまずやってみて、失敗したら原因を見つけて、改善して...というPDCAサイクルといわれるものが多いと思います。
それに比べると、無謬性の原則がある行政だと、いくら「正しそう」でもリスクや不確定要素があるものは通りにくい、ようなんです。
文化として、かなり逆なんですね。
こんなことに気をつけるとよさそう
なので、行政との協働や働きかけを行う際はこういう態度が大事そうです。
・ドラスティックな改革案を示す前に、現状の延長線上でできることを探して提案する
・改革案を出す場合は、他の自治体などの事例を出す
・リスクを極限まで考慮した提案をする
・少なくとも改革を改革と見せない提案をする
あるいはこれを突破できるくらいの住民からの強いニーズを示す陳情などを、その政策に共感する政治家に頼んでみる、なども有効かもしれません。
私も最近まで実感できていませんでしたが、政治家の方は行政とのやりとりに関する専門家なんですよね。こうした文化や実際のやりとりを観察していると、「ああ、だから(現状の文化や仕組みだと)政治家の方が必要なんだな」と思いました。
関連書籍
この本でもかなり行政独特の文化について触れられていて勉強になります。
こうした書籍が出ていたり、知り合いでも公共デザインに関心があり実際に専門に学んでいる人も増えているので、公共セクターにおけるデザイナーの協働は、これから日本でも徐々に進んでくると思います。
私も開発で必要になるので、文化を理解したデザインができるようにしたいと思います。
▼地元の政治家に要望を届けることができるサービスを開発しています
▼この記事がよく見られているので「行政と無謬性」も含む、行政文化についてまとめた記事をつくりました
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